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伊豆大島火山自然電位モニタリング

比抵抗構造

 数値シミュレーションにより自然電位を定量的に解析するにあたり比抵抗構造を求めました。地下の空隙を熱水やマグマが占めたり、熱水により岩石の変質が進むと空隙を含む岩石の比抵抗が低下します。そのため比抵抗構造を調べることは地下の熱水流動を知る手掛かりになるからです。

AMT法による電磁探査

 比抵抗構造を求める主な手法としてMT法電磁探査を上げられます。MT法電磁探査は、図9のように、自然界に存在する電場と磁場を地表面で測定することで、測定器の下の電気の流れ易さについて地下深部まで調べることができる手法です。この測定を広い範囲で、多くの場所で実施することによって、どこの地域に電気の流れ易い箇所(熱水やマグマなど)があるのかを推定することができます。電磁探査は、これまで火山や地震等の防災調査や地熱や金属鉱床等の資源探査の分野で多くの実績を有する方法です。ここではMT法電磁探査のうち、より測定周波数が高く(10,000 Hzから1 Hzを含む範囲)、探査深度の浅いAMT法による電磁探査を実施しました。測定は2006(9地点)、2007(9地点)、2009(6地点)および2022年(8地点)に実施しています。使用した機器はPhoenix社製のMTU5-Aです。

図9 MT法電磁探査の概念

図9 MT法電磁探査の概念

  
3次元インバージョン

 各測点(図10の左上の図で青色の✛印)の測点データをもとに、3次元比抵抗インバージョン解析(Siripunvaraporn and Egbert, 2009)を行い、地下の比抵抗構造を求めました。図10の左上の図の破線の位置における東西および南北方向の鉛直断面をそれぞれ図10の下の図および右の図で示します。

図10 左上:測点(青色の✛印)と断面の位置(破線)、右:南北方向鉛直断面、下:東西方向鉛直断面。各断面の色は比抵抗値を示し、暖色系ほど低比抵抗、寒色系ほど高比抵抗を示す。地形は基盤地図情報数値標高モデル(国土地理院)を利用して作成

図10 左上:測点(青色の✛印)と断面の位置(破線)、右:南北方向鉛直断面、下:東西方向鉛直断面。各断面の色は比抵抗値を示し、暖色系ほど低比抵抗、寒色系ほど高比抵抗を示す。地形は基盤地図情報数値標高モデル(国土地理院)を利用して作成


 また、標高400 mより深部に向けて、深くなるにつれて変化していく比抵抗の水平分布を図11に示しました。各図の左上にある数値は比抵抗分布を示した深度を表し、例えば[-0.40 - -0.30 km]とある場合には標高300 mから400 mの区間おける比抵抗の水平分布を示します。また[0.0 - 0.1 km]とある場合には海水準(海抜0 m)から深度100 mまでの区間における比抵抗の水平分布を示します。測点分布の内側に比べ外側の比抵抗値は信頼度が低くなっていますので、ここではカルデラリム(図11の黒線)に着目します。標高の高いところから低い方へ(図の上段から下段へ)見ていくと、カルデラ内の比抵抗は、標高0mまでは比較的高く(100~10000 Ω・m)となっています。一方、海水準より下では比抵抗の低い部分(10 Ω・m以下)が現れてきます。このような低い比抵抗は、岩石の空隙に熱水が存在するか、岩石が熱変質を受けている可能性が高いと考えられます。

図11 各深度における比抵抗の水平分布。暖色系ほど低比抵抗、寒色系ほど高比抵抗を示す

図11 各深度における比抵抗の水平分布
暖色系ほど低比抵抗、寒色系ほど高比抵抗を示す

 東西方向の鉛直断面をもとに以上をまとめると図12のようになります。地下水面より上部では、主に空隙を空気が占めるガサガサのスコリアや溶岩で構成されているため比抵抗が高くなっています。一方、海水準より下では、岩石の空隙は水で満たされていますが、ところどころ熱水が存在するか、岩石が熱水変質作用を受けているか、あるいはその両方の作用になって比抵抗が低くなっています。櫛形山の山麓では噴気地帯が見られますが、そこに向かって比抵抗の低い領域が海水準より上に盛り上がっているように見えます。この噴気の温度は、三原山頂部の噴気の温度と同期して上昇することがあります(詳細については「伊豆大島火山地中温度モニタリング」のページを参照ください)。山頂カルデラの比較的広域での熱活動を反映していると考えられ、海水準より下部で熱水対流が存在する可能性を示しています。なお、櫛形山や三原山の噴気へと続く火山ガスの通路は、おそらくその規模が小さいため比抵抗構造としては捉えられていません。

図12 各深度における比抵抗の水平分布。暖色系ほど低比抵抗、寒色系ほど高比抵抗を示す。地形は基盤地図情報数値標高モデル(国土地理院)を利用して作成

図12 各深度における比抵抗の水平分布
暖色系ほど低比抵抗、寒色系ほど高比抵抗を示す。地形は基盤地図情報数値標高モデル(国土地理院)を利用して作成

参考文献

Siripunvaraporn W, Egbert G (2009) WSINV3DMT: Vertical Magnetic Field Transfer Function Inversion and Parallel Implementation, Phys. Earth Planet. Inter. 173:317–329.