鳥島近海の漂流軽石の情報
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2023年10月に採取された鳥島近海の漂流軽石の特徴
Characteristics of drifted pumice collected near Torishima Island in October 2023
2023年10月2〜8日に鳥島南西の近海でM6を超える地震が4回発生し、9日には顕著な地震を伴わない津波も発生しました(参照:地震・津波研究情報https://www.gsj.jp/hazards/earthquake/torishima2023/index.html)。その後、10月20日には、海上保安庁の航空機からの観測で、鳥島西方の海域に軽石いかだと考えられる浮遊物が点在していることが確認されました。それを受け、気象庁の海洋気象観測船が周辺海域で調査を行い、4ヶ所で漂流軽石を採取しました。産総研地質調査総合センターでは、それらの軽石の分析を実施しましたので、このページで紹介します。なお、記載された内容は今後の調査研究の進展により修正・変更することがあります。
分析結果は、火山噴火予知連絡会へ随時報告しており、その報告書も公開しています(本ページの下部にURL)。
鳥島近海の漂流軽石概要
活断層・火山研究部門
及川輝樹・石塚 治・岩橋くるみ・クリス コンウェイ・山﨑誠子・西原 歩
令和5年11月27日 開設
2023年10月2~8日に鳥島から孀婦岩の西方の海域(以下、鳥島近海)においてM6.0を超える地震が4回発生しました(最大の地震は10月5日のM6.5 の地震。図1のa)。9日にはそれら地震の震央付近で顕著な地震を伴わない津波が発生し(図1のb)、伊豆小笠原諸島から千葉県から西の本州南岸、九州・四国地方の広い地域の海岸に到達しました。10月20日には、海上保安庁の航空機からの観測で、鳥島西方約50㎞の海域に軽石いかだと考えられる浮遊物が南北約80㎞にわたり点在していることが確認されました(図1のc)。この軽石いかだは、それ以前の観測では確認できなかったため、新たな火山活動による浮遊した可能性が高いと考えられています。それを受けて気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」が10月27~31日に周辺海域で漂流軽石の調査を行い、計4ヶ所(図1の①、②、③、④)で海面上を漂流している軽石を採取しました(図2)。それらの軽石について、産総研地質調査総合センターで分析したので、その特徴を紹介します。
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図1 鳥島近海の位置図
左:全体図、右:拡大図。背景の地図は地理院地図を使用。a: M6.5(2023年10月6日に発生)の震央。b: 津波発生(10月9日)に関与した可能性のある地震の震央。c: 10月20日に海上保安庁が漂流軽石を確認した海域。①~④: 気象庁の海洋気象船「啓風丸」が軽石を採取した地点。①29°15’ N、140°00’ E付近(10月27日12時ごろ採取)、②29°54’ N、139°34’ E付近(10月27日23時ごろ採取)、③29°54’ N、139°32’ E付近(10月28日7時ごろ採取)、④29°02’ N、138°00’ E付近(10月31日9時ごろ採取)。
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図2 軽石の漂流状況(A,B)と採取状況(C)。
図1の①地点。写真は気象庁提供。
軽石の特徴
採取された軽石は、肉眼的特徴から大きく2つ、図1の①で採取された白色軽石(図3)、図1の②、③、④の3ヶ所で採取された灰色軽石(図4)に分けられます。②、③、④で採取されたオリーブ色〜褐色がかった灰色軽石には、普遍的に生物遺骸、特に直径1mmほどのウズマキゴカイの棲管が数多く付着しています(図4)。一方、①で採取された白色軽石には、ほとんど生物遺骸の付着が認められず、わずかに長径4 mm以下のエボシガイが3つ付着しているのが確認できたのみです(図5)。
軽石の形状は、灰色軽石のほとんどはよく円磨されていますが、白色軽石は角張っているものが多く見られました。ただし角は摩滅して丸まっています。
白色軽石は、斑晶として斜長石と輝石を含み、径1 cm以下の輝石と斜長石を含む完晶質ないし斑状の組織を持つ暗色包有岩を持つのが特徴です。採取できた白色軽石のうち一番大きな軽石は、パン皮状の表皮をもつ岩塊が割れた形状をしています(図6)。これらパン皮状の割れ目には、割れ目に沿って内側に2cm程度の長さで伸びた冷却クラックが認められます。一方でパン皮状の割れ目にある表面は顕著にガラス質になっていません。白色軽石は、全体的に細かくよく発泡し細かい気泡が全体に認められますが、まばらに大きな気泡も含まれ、一方向に引き伸ばされています。表面から内部にかけて、気泡の形態大きさ、密度などの違いは顕著に変化しません。これらの特徴は、報告されている水底噴火で生産された軽石いかだを構成する軽石の特徴(Jutzeler et al., 2020; 及川・他,2022)とは異なります。
このように白色軽石は、顕著な水冷組織や既存の水底噴火による漂流軽石の形態的特徴を示しません。しかし、表面の壊れやすい構造が保存されているものがあること、比較的角ばった形状をなすことから、海浜に堆積していたものが再漂流した可能性は低いと考えられ、更に生物の付着がほとんどないことから、長期間(数ヶ月以上)漂流していたものとも考えにくいです。そのため白色軽石は最近の火山活動で生産された軽石と考えられ、10月20日に海上保安庁が上空から確認した軽石いかだ(図1のc)を構成していたものである可能性が高いと考えられます。一方、灰色軽石は、よく円磨されかつ多くの生物遺骸付着が付着していることから長期間漂流していたものと判断され、最近の火山活動で生産された軽石ではないと考えられます。
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図3 10月27日12時ごろ図1の①で海洋気象観測船「啓風丸」により採取された白色軽石。
方眼用紙は5 mm刻み。
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図4 10月31日9時ごろ④で海洋気象観測船「啓風丸」により採取された灰色軽石。
ウズマキゴカイの棲管などの多くの生物遺骸が付着している。方眼用紙は5 mm刻み。

図5 白色軽石に付着するエボシガイ。
この軽石にわずかに長径4 mm以下のものが3つ付着しているのが確認できたのみ。
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図6 採取できた中で一番大きな白色軽石の表面構造。
パン皮状の割れ目が認められる。
軽石の化学組成の特徴と給源火山の推定
2つの白色軽石(図3のTr102702、Tr102705)に対してXRFによる全岩化学組成の測定を行ったところ、流紋岩の組成を示しました(図7)。この軽石の組成は、最近噴火活動が確認されている福徳岡ノ場、硫黄島の噴出物や、2022年にも変色水が認められた海徳海山の噴出物とは明確に異なります。また、近年活動している伊豆小笠原地域の他の火山の噴出物とも明確に異なりますが、鳥島を含む伊豆弧火山フロント西方に連なる背弧リフト帯(鳥島凹地等)に分布する火山の流紋岩の特徴と類似しています。さらに、ICP-MSによる全岩微量成分組成の測定を行ったところ、Ba/La比は約19の値を示し、周辺の火山フロント上の火山(スミスカルデラ、明神海丘)由来の流紋岩に比べて有意に低く、背弧リフト帯(南北スミス海盆、八丈海盆等)の流紋岩に似ています(図8)。またLa/Sm比については2前後の値を示し、火山フロントの流紋岩より高く、かつ最近噴火活動が確認されている福徳岡ノ場、硫黄島の噴出物に比べて低く、明確に区別されます。このため採取された軽石は、採取地点近傍を含む、背弧リフト帯の海底火山の噴出物である可能性が高いと考えられます。
一方、灰色軽石の石基ガラスの化学組成をEPMAで分析すると、白色軽石の組成と明瞭に異なり、いずれも粗面岩の組成を示します(図9)。これらの化学組成は、福徳岡ノ場2021年噴火の漂流軽石の石基ガラスの化学組成範囲 (Yoshida et al., 2022)に類似した分布範囲を示します。加えて、一部の灰色軽石は暗色包有物を含んでおり、その肉眼的特徴は、福徳岡ノ場2021年噴火の軽石に含まれる暗色包有物(Yoshida et al., 2022)と非常に類似しています。これらの結果から、灰色軽石は福徳岡ノ場2021年噴火によって噴出したものである可能性が高いと考えられます。
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図7 鳥島近海で採取された白色軽石(鳥島沖)の組成。
岩石分類はLe Bas et al.. (1986) による。本報告以外のデータは土出・他 (1985)、Hochstaedter et al. (1990)、
Fryer et al. (1990)、 Ishizuka et al. (2007)、Tamura et al. (2005, 2007, 2009)、石塚・他(準備中)による。
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図8 鳥島近海で採取された白色軽石(鳥島沖)の組成。
本報告以外のデータは Hochstaedter et al. (1990)、Fryer et al. (1990)、
Ishizuka et al.(2003, 2007)、Tamura et al. (2005, 2007, 2009)、石塚・他(準備中)による。
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図9 鳥島近海(鳥島沖)で採取された白色・灰色軽石の石基ガラス組成。
岩石分類はLe Bas et al. (1986) による。
参考文献
Hochstaedter et al. (1990) Earth and Planetary Science Letters, 100, 195-209.
Ishizuka et al. (2003) Earth and Planetary Science Letters, 211, 221-236.
Ishizuka et al. (2007) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, Q06008, doi:10.1029/2006GC001475.
Fryer et al. (1990) Earth and Planetary Science Letters, 100, 161-178.
Le Bas et al. (1986) Journal of Petrology, 27, 745–750.
及川・他(2022) GSJ 地質ニュース, 11, 65-72.(https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol11.no3_p65-72.pdf)
土出・他 (1985) 水路部研究報告,20, 47-82.
Tamura et al. (2005) Journal of Petrology, 46, 1769-1803.
Tamura et al. (2007) Journal of Petrology, doi:10.1093/petrology/egm048.
Tamura et al. (2009) Journal of Petrology, doi:10.1093/petrology/egp017.
Jutzeler et al. (2020) Geophysical Research Letters, doi:10.1029/2019GL086768.
Yoshida et al. (2022) Island Arc, doi:10.1111/iar.12441.
火山噴火予知連絡会への提出資料
鳥島近海の漂流軽石に関して、産総研から火山噴火予知連絡会に提出した資料を以下に公開しています。
- 2023年10月に採取された鳥島近海の漂流軽石の特徴(第1報)
https://www.gsj.jp/hazards/volcano/kazan-bukai/yochiren/torishimakinkai_231109_1.pdf - 2023年10月に採取された鳥島近海の漂流軽石の特徴(第2報)
https://www.gsj.jp/hazards/volcano/kazan-bukai/yochiren/torishimakinkai_231115_1.pdf
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