トンガ,フンガ火山[2022年]
高性能光学センサ (ASTER) 衛星画像でフンガ火山(トンガ王国)の状況を確認
活断層・火山研究部門
地質情報研究部門
令和4年2月3日 開設
衛星画像で見るフンガ火山(トンガ王国)の2000年から2022年に至る地形変化
2022年1月15日のフンガ火山の大爆発は、8000 km離れた日本列島に顕著な海面変動をもたらし、火山噴火の脅威を印象付けた。この日の爆発は突然発生したものではなく、一連のフンガ火山の活動の結果として起きたものであり、その過程はASTERの衛星画像(図1)に記録されている。
フンガ火山とは
この火山は、インド・オーストラリアプレート下に太平洋プレートが沈み込んで形成されたトンガ・ケルマディック弧の安山岩質海底火山である。火山の頂部には径約4 kmのカルデラが存在し、カルデラ外輪の一部がフンガトンガ島、フンガハアパイ島、それらの南の岩礁として2022年噴火までは海面上に顔を出していた(図2)。カルデラの形成は複数回の大規模な火砕噴火で起きており、最新のカルデラ噴火は西暦1040〜1180年頃に起きたことが明らかになっている(Brenna et al., 2022)。また、近年の噴火はカルデラ南縁で1988年に、北東縁のフンガハアパイ島で2009年に、北縁寄りのフンガトンガ島−フンガハアパイ島間で2014〜2015年に起きている(Cronin et al., 2017)。2009年5月14日のASTER衛星画像では、明瞭な火口を持つ2つの火砕丘がフンガハアパイ島に出現している(図1)。ただし、2010年5月1日の画像では、波浪等の侵食により火砕丘は既に消失している。2015年1月7日と1月14日の画像には2014-15火口からの噴煙が記録され、2つの島の間に大きな火砕丘が新生している(図1)。この火砕丘は侵食により形を変えながら、今回の噴火直前の2021年12月16日の画像にも姿を残している。
2021〜2022年の噴火活動
Smithsonian Institute National Museum of Natural HistoryのGlobal Volcanism Programによると、今回の活動は2021年12月20日から2014-15火口付近で始まり、断続的に2022年1月15日まで継続した。噴火はジェット状の噴煙を特徴とするスルツエイ式のマグマ水蒸気爆発であった。現地時間1月14日 04:20に始まった噴火は特に激しく、噴煙が高度20 kmの成層圏に達し、海面には火砕流が広がり、小規模な津波を伴った。1月15日 17:00に始まった噴火は更に大規模で、噴煙は高度30 kmに達し、傘状に広がった噴煙の直径は600 kmを超えてトンガの全島を覆い尽くした。1月15日の爆発以降は、海面上で確認できる噴火は起きていない。
噴火後の衛星画像(1月17日,1月26日)では、元々あったフンガトンガ島、フンガハアパイ島がかなり小さくなり、両島間にあった火砕丘と南の岩礁が水没しているのが確認できる(図1)。おそらく、トンガ火山の頂部が広範囲に陥没したものと考えられよう。
2022年1月15日噴火の特徴
- 噴煙高度が30 kmに達したことから火山爆発指数は5ないし6で、2021年8月の福徳岡ノ場噴火(指数4)よりも規模が大きかった。
- 現地からのニュース映像に映ったトンガタプ島での降下火砕物は、多面体型の黒色火山礫が特徴的で、軽石ではない。噴火後の周辺海域画像にも、福徳岡ノ場噴火のような大規模な軽石浮遊物は写っていない。
- 噴火後の地形変化から、カルデラを含む海底火山の頂部が陥没したらしい。
防災上の意義
火山爆発指数が5を超えるような大規模な噴火は、プリニー式噴火と呼ばれる軽石を大量に噴出する噴火であることが多い。しかし、今回のフンガ火山1月15日の噴火はこれとは違って、非常に巨大なマグマ水蒸気爆発(もしくは水蒸気爆発)であった。おそらくカルデラ陥没に伴い火山体内部の火道に大量の海水が流入してマグマと反応したため、大爆発へと至ったものと推定される。
フンガ火山のような頂部にカルデラを持つ玄武岩〜安山岩質成層火山は、日本列島にも多く存在する、三宅島火山でも2000年の山頂カルデラの陥没に伴いマグマ水蒸気爆発が発生した(Geshi & Oikawa, 2008)。伊豆大島火山でも約1700年前のカルデラ形成噴火では、フンガ火山1月15日噴火に匹敵しうる巨大な水蒸気噴火が起きている(山元,2006)。今回の噴火は、カルデラを伴う火山の将来予測において、考慮すべきシナリオの1つである。
図1 産総研 地質調査総合センターで公開*しているASTER画像より作成した2000年11月〜2022年1月の時系列変化。
対象範囲(左上 南緯20.5度、西経175.45度、右下 南緯 20.6度、西経175.35度)
空間分解能15 m、色合成(赤:Band 3N、緑:Band 2、青:Band1を使用)
各画像の撮影日時は図左端に記載。
*ASTER画像公開サイト: https://gbank.gsj.jp/madas/
図2 2020年7月22日ASTER画像と火口位置。カルデラリムはCronin et al. (2017)を参考にした。
参考文献
Brenna M, Cronin S J, Smith I E M,Pontesilli A, Tost M, Barker S, Tonga’onevai S, Kula T, Vaiomounga R, 2022. Post-caldera volcanism reveals shallow priming of an intra-ocean arc andesitic caldera: Hunga volcano, Tonga, SW Pacific. Lithos (in press 17 Jan 2022).
Cronin S J, Brenna M, Smith I E M, Barker S J, Tost M, Ford M, Tonga’onevai S, Kula T, Vaiomounga R, 2017. New volcanic island unveils explosive past. Eos, 98 (26 June 2017). doi:10.1029/2017EO076589
Geshi, N. and Oikawa T, 2008. Phreatomagmatic eruptions associated with the caldera collapse during the Miyakejima 2000 eruption, Japan. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 176, 457-468.
山元孝広,2006.伊豆大島火山,カルデラ形成期の火砕物密度流堆積物:差木地層S2部層の層序・岩相・年代の再検討. 火山, 51, 257-271.
関連情報
ASTER画像公開サイト: https://gbank.gsj.jp/madas/更新履歴
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