第八報 2024年能登半島地震に伴う斜面崩壊の崩壊箇所と地形・地質との関係(予察)

2024年2月16日

地質情報研究部門 阿部朋弥・川畑大作・細井 淳・宮地良典
連携推進室 斎藤 眞

概要

 第七報(吉川・細井、2024)の追加・補足情報として、能登半島中~北東部において斜面崩壊の崩壊箇所と地形・地質との関係について予察的な解析を行いました。その結果、本地域での斜面崩壊は、傾斜が大きい場所に集中する傾向があるものの、中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩分布域で多く、特に火砕岩地域で多発していることが明らかになりました。

使用したデータと解析手法

 能登半島中~北東部(第1図A)では、国土地理院が斜面崩壊・堆積分布のポリゴンデータ(2024年1月22日更新版、計2345個)を公開しています。本報告では、まず、この斜面崩壊・堆積分布のポリゴンデータと地形情報から、斜面崩壊の崩壊箇所(崩壊源の位置)を判読し、計2469点の崩壊箇所のポイントデータセットを作成しました。次に、当センターが公開している20万分の1日本シームレス地質図V2(産総研地質調査総合センター、2023)及び5万分の1地質図幅「珠洲すず岬,能登飯田及び宝立山ほうりゅうざん」(吉川ほか、2002)ならびに国土地理院の10 m DEMから作成した傾斜量図と崩壊個所のポイントデータを重ね、各地質区分と傾斜度における斜面崩壊の崩壊箇所の計測を行いました。

解析結果の概要

1.崩壊箇所とシームレス地質図V2の地質区分との関係

 第1図Bはシームレス地質図V2の地質区分と崩壊箇所を重ねた地図、第2図Aは地質区分ごとの崩壊箇所数、第2図Bは地質区分ごとの1 km2あたりの崩壊箇所数を表しています。第2図Aが示す発生箇所数では、中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩(N1_vas_al:宝立山層・粟蔵層及び相当層など)が32.3%(797箇所)、漸新世~中新世の安山岩・玄武岩質安山岩の溶岩・火砕岩(Pg4_vis_al:高洲山こうのすやま層及び相当層など)が19.4%(478箇所)、漸新世~中新世の非海成の砂岩もしくは砂岩・泥岩(Pg4_sns:縄又層及び相当層など)が14.0%(346箇所)と多いことがわかります。1 km2あたりの崩壊箇所数(第2図B)でも、中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩(N1_vas_al:宝立山層・粟蔵層及び相当層など)が5.8箇所/km2と多く、中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩(N1_vas_al)で集中して崩壊が発生していることがわかります。

第1図 対象地域の位置と能登半島中~北東部における20万分の1日本シームレス地質図V2(産総研地質調査総合センター、2023)を用いた解析範囲

第1図 対象地域の位置と能登半島中~北東部における20万分の1日本シームレス地質図V2(産総研地質調査総合センター、2023)を用いた解析範囲
A.対象地域のインデックスマップ。B.斜面崩壊箇所の分布とシームレス地質図V2の地質区分。地質区分は、シームレス地質図V2(産総研地質調査総合センター、2023)に基づく。地層名は、吉川ほか(2002)、尾崎ほか(2019)、竹内ほか(2023)に基づく。赤丸は、国土地理院(2024)から判読した崩壊箇所

第2図 シームレス地質図V2の地質区分と崩壊箇所数の関係。A.地質区分ごとの崩壊箇所数。B.地質区分ごとの単位面積あたりの崩壊箇所数。地層名は、吉川ほか(2002)、尾崎ほか(2019)、竹内ほか(2023)に基づく

第2図 シームレス地質図V2の地質区分と崩壊箇所数の関係
A.地質区分ごとの崩壊箇所数。B.地質区分ごとの単位面積あたりの崩壊箇所数。地層名は、吉川ほか(2002)、尾崎ほか(2019)、竹内ほか(2023)に基づく

2.崩壊箇所と5万分の1地質図幅「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」の地質区分との関係

 第3図は5万分の1地質図幅「珠洲岬、能登飯田及び宝立山」(吉川ほか、2002)の地質区分と崩壊箇所を重ねた地図、第4図Aは地質区分ごとの崩壊箇所数、第4図Bは地質区分ごとの1 km2あたりの崩壊箇所数を示しています。シームレス地質図V2を用いた解析(第2図A、B)で、最も崩壊箇所数が多い「中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩」(N1_vas_al:宝立山層・粟蔵層及び相当層など)は、粟蔵層の凝灰質砂岩及び流紋岩凝灰岩(As)、黒雲母流紋岩溶岩(Ar)、流紋岩火砕岩(At)、宝立山層の斜方輝石単斜輝石デイサイト~流紋岩溶岩(Rr)、デイサイト火砕岩(Rt)に細分されます。
 細分された地質区分のうち、崩壊箇所数(第4図A)は、宝立山層のデイサイト火砕岩(Rt)が38.9%(507箇所)と最も多く、次に粟蔵層の流紋岩火砕岩(At)が14.6%(190箇所)となっています。一方で、1 km2あたりの崩壊箇所数(第4図B)については、粟蔵層では、流紋岩火砕岩(At)が9.0箇所/km2、黒雲母流紋岩溶岩(Ar)が7.6箇所/km2、宝立山層では、デイサイト火砕岩(Rt)が5.9箇所/km2、斜方輝石単斜輝石デイサイト~流紋岩溶岩(Rr)が4.3箇所/km2となっています。
 これらの結果から、宝立山層・粟蔵層それぞれの溶岩と火砕岩とを比較すると、崩壊箇所数は溶岩(Rr、Ar)よりも火砕岩(Rt、At)の方が4.9~21.1倍多く、1 km2あたりの崩壊箇所数も1.2~1.4倍多いことがわかりました。

第3図 能登半島北東部における5万分の1地質図幅「珠洲岬、能登飯田及び宝立山」を用いた解析範囲

第3図 能登半島北東部における5万分の1地質図幅「珠洲岬、能登飯田及び宝立山」を用いた解析範囲
地質区分と地層名は、5万分の1地質図幅「珠洲岬、能登飯田及び宝立山」(吉川ほか、2002)に基づく。赤丸は、国土地理院(2024)から判読した崩壊箇所

第4図 5万分の1地質図幅「珠洲岬、能登飯田及び宝立山」の地質区分と崩壊箇所数の関係


第4図 5万分の1地質図幅「珠洲岬、能登飯田及び宝立山」の地質区分と崩壊箇所数の関係

A.地質区分ごとの崩壊箇所数。B.地質区分ごとの単位面積あたりの崩壊箇所数。地質区分と地層名は、吉川ほか(2002)に基づく

3.崩壊箇所と傾斜度との関係

 第5図Aは、傾斜度の平面分布と崩壊箇所を重ねた地図、第5図Bでは中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩(N1_vas_al:宝立山層・粟倉層及び相当層)に絞った崩壊箇所数と傾斜度との関係について示しています。この図から斜面崩壊は傾斜が大きい場所で多く発生していることがわかります。

第5図 能登半島中~北東部における斜面崩壊箇所と傾斜度

第5図 能登半島中~北東部における斜面崩壊箇所と傾斜度
A.斜面崩壊箇所の分布と傾斜量図。B.中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩(N1_vas_al)での崩壊箇所数・崩壊頻度と傾斜度との関係。傾斜度は、国土地理院の10 mDEMを用いて計算。赤丸は、国土地理院(2024)から判読した崩壊箇所。黒枠は、シームレス地質図V2に基づく、中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩(N1_val_al)の分布範囲

まとめ

 本報告では、斜面崩壊箇所と地質区分・傾斜度との関係を検討しました。シームレス地質図V2を用いた解析からは、「中新世のデイサイト・流紋岩の溶岩・火砕岩」(N1_vas_al:宝立山層・粟蔵層及び相当層など)での崩壊が最も多いことがわかりました。この地層をさらに細分している5万分の1地質図幅「珠洲岬、能登飯田及び宝立山」での解析では、溶岩よりも火砕岩で崩壊がより多く発生している傾向がわかりました。また、崩壊箇所数と傾斜度の関係からは、傾斜の大きい場所で崩壊が多発していることがわかりました。
 当センターでは、現地調査などと併せて、今回の地震に伴う斜面崩壊と地形・地質との関係について、引き続き詳細な解析を進めていく予定です。

引用文献

更新履歴

  • 2024年2月20日:文章中のリンクの修正

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産総研地質調査総合センター