令和5年(2023年)5月5日に石川県能登地方で発生した地震の関連情報
令和5年(2023年)5月5日に石川県能登地方で発生した地震の関連情報
2023年5月23日 開設
活断層・火山研究部門 宍倉正展
株式会社環境地質 越後智雄
2023年5月5日14時42分に石川県能登地方の深さ約10 kmでマグニチュード6.5(気象庁暫定値)の地震が発生しました。発震機構は、北西―南東方向に圧力軸を持つ逆断層型です。今回の地震で、石川県では最大震度6強を観測し、被害が生じました。また、石川県では、長周期地震動階級3を観測しました。GNSS観測によると、今回の地震に伴う地殻変動として、西南西方向に9 cm程度(京都大学防災研究所のSZMT観測点)、南西方向に8 cm程度(国土地理院のM珠洲笹波観測点)の移動、11 cm程度の隆起(国土地理院のM珠洲狼煙観測点)が観察されています。さらに陸域観測技術衛星2号「だいち2号」が観測した合成開口レーダー画像の解析結果では最大20 cm程度衛星に近づく地殻変動が検出されました。(以上、地震調査研究推進本部地震調査委員会「2023年5月5日石川県能登地方の地震の評価」より)
産業技術総合研究所地質調査総合センターでは、今回の地震以前より陸域や海域の地質と活断層について調査を行ってきました。この中で過去の海岸の隆起を記録した海岸段丘や生物遺骸群集の調査を継続して実施しております。今回の地震でも地盤の隆起が観測されていることから、海岸ではその影響が見られると考えられます。また地震より前にすでに高度を計測していた地形や生物のデータがありますので、それらの高度を再測定することで、地殻変動が具体的に評価できます。そこで5月13日から15日にかけて現地で調査を行いましたので簡単に紹介します。
海岸沿いの岩礁では、海面付近に様々な生物が固着していますが、地盤が隆起すると相対的に海面が下がるため、これらの生物は干上がって死滅してしまいます。そこで海面付近の生物を観察することで地殻上下変動の状況を推定できます。写真は珠洲市高屋町の海岸の様子ですが、死滅して白化した石灰藻やカンザシゴカイ類、オオヘビガイなどが観察され、地震後も生息している部分との高度差は24 cmでした。つまりそれだけ地盤が隆起したことになります。
写真:珠洲市高屋町の海岸で観察された地盤の隆起の様子
(協力:株式会社環境地質 清水勇介)
もともと能登半島北部沿岸では、過去に生じた地盤の隆起によって形成された海岸段丘と呼ばれる地形や岩礁に生息する固着生物の遺骸の分布が報告されていました(Hamada et al., 2016;宍倉ほか,2020など)。これらは今回の地震前に高度が計測されていましたので、改めて同じ場所で高度を計測することで、地震前後の地殻上下変動量を見積もることができます。今回の調査では、これらの再計測も行い、合計20箇所以上で地殻上下変動量のデータを取得しました。その結果の一部を図1に示します。すでに「だいち2号」が観測した合成開口レーダー画像の解析結果(国土地理院,2023)によっておおよその地殻上下変動が明らかになっていますが、今回の現地調査の結果はおおよそ調和的で、最大の隆起を記録した場所は一致しています。今後さらに詳しく解析して地殻変動の実態解明と震源との関係を探っていく予定です。
図1 海岸の生物や地形に基づく地震前後の地殻上下変動の計測地点と隆起量(岩礁でのデータのみ表示、道路上の基準点のデータは精査中)。図中の星印は今回の地震の震央位置。
基図は能登半島北部周辺20万分の1海域地質図(井上・岡村,2010)。
文献
- Hamada, M., Hiramatsu, Y., Oda, M., and Yamaguchi, H., 2016, Fossil tubeworms link coastal uplift of the northern Noto Peninsula to rupture of the Wajima-oki fault in AD 1729, Tectonophysics, 670, 38–47.
- 井上卓彦・岡村行信 (2010) 能登半島北部周辺20万分の1海域地質図及び説明書. 海陸シームレス地質情報集, 「能登半島北部沿岸域」. 数値地質図S-1, 地質調査総合センター,
https://www.gsj.jp/data/coastal-geology/GSJ_DGM_S1_2010_01_b_sim.pdf - 国土地理院,2023,「だいち2号」観測データの干渉解析による石川県能登地方の地震(2023年5月5日)に伴う地殻変動(2023年5月8日発表),https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20230505noto.html
- 宍倉正展・越後智雄・行谷佑一,2020,能登半島北部沿岸の低位段丘および離水生物遺骸群集の高度分布からみた海域活断層の活動性,活断層研究,53,33-49.
更新履歴
- 2023年5月31日
- 文献中のリンク間違いの修正
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