第七報 能登半島地震で発生した能登半島北東部の斜面崩壊発生地域の地質概説

2024年1月25日

地質情報基盤センター 吉川敏之・地質情報研究部門 細井 淳

 能登半島地震では土砂災害も多く発生しました。能登半島北東部の地質は5万分の1地質図幅「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」にまとめられています(図1)。以下では能登半島北東部の斜面崩壊発生地の地質について記します。

地質概要

能登半島北東部は、およそ3,000万年前以降に形成された地層が分布しています。これらを地層の形成年代と種類に基づいて大きく区分すると、おおまかに古い地層順に、
①陸上でできた溶岩を主体とする火山岩主体の地層(高洲山層など)
②陸上でできた火砕岩主体の地層(宝立山層など)
③海底に堆積した堆積岩主体の地層(東印内層・法住寺層・飯田層・飯塚層)
④海底で噴出した溶岩と火砕岩が主体の地層 (粟蔵層)
⑤平野や段丘面に分布する弱固結-未固結の地層
に分けられます。

 国土地理院が公開している斜面崩壊・堆積分布(国土地理院, 2024) を地質図上に示すと、この地域では①の地層よりも②~④の地層が分布する地域で斜面崩壊が多く発生しているように見えます(図2)。
 能登半島北側の海岸周辺に着目すると、あまり崩壊が多く発生していない①の地層は主に玄武岩~安山岩の溶岩から構成され、風化・変質が進んでいます。その一方、南側の斜面崩壊が比較的多く発生する宝立山周辺には、主に非溶結のデイサイト火砕岩(②)が分布しています.このデイサイト火砕岩は軽石と石質岩片を伴った淘汰の悪い軽石火山礫凝灰岩が主体の地層です.真浦町北側や町野町曽々木の東側と南側に分布する③と④の地層は、共に海底に堆積した地層で、成層した珪質シルト岩又は流紋岩火砕岩から構成されています。珪質シルト岩は厚さ数cm~十数cmの単層が積み重なった地層で,風化すると白色の極めて軽い岩石になっています.流紋岩火砕岩は軽石や石質岩片を含む火山礫凝灰岩と凝灰岩が厚さ数10 cm~数mで積み重なった地層です。

地質構造について

 珠洲市若山町から輪島市町野町にかけて東西方向に延びる断層があり、白米坂断層と呼ばれています。地質構造は白米坂断層の南側と北側で大きく変わり、南側は正断層が、北側は逆断層が主体になります。また、南側の正断層は①と②の地層だけを変位させる古い活動時期の断層なのに対し、北側の逆断層は新しい時代の③と④の地層も変位させています。加えて北側の地域では地層が褶曲しており、南側に比べて全体に強い変形を受けています。断層と褶曲はセットになっていることが多く、背斜軸のすぐ北側に断層ができている規則性が認められます。

図1 報告範囲の位置図

図1 報告範囲の位置図
国土地理院 地理院地図 白地図と産総研地質調査総合センター 5万分の1地質図幅「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」を使用。

図2 能登半島北東部の地質概略図と斜面崩壊の分布

図2 能登半島北東部の地質概略図と斜面崩壊の分布
地質概略図は5万分の1地質図幅「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」(吉川ほか, 2002) を簡略化して作成。
斜面崩壊のデータは国土地理院の斜面崩壊・堆積分布データ (国土地理院, 2024) による。
地質図Navi (https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php#9,37.020,137.192

参考資料

問い合わせ先

産総研地質調査総合センター