第二報 長期的な隆起を示す海成段丘と2024年能登半島地震の地殻変動

活断層・火山研究部門 宍倉正展

 能登半島には中期更新世(約77万年前)以降の海成段丘が発達しており、長期間にわたり地盤が隆起してきたことを示す。隆起はおもに断層活動によって地震時に生じると考えられ、2007年能登半島地震(M6.9)や2023年能登地方の地震(M6.5)に引き続き、今回の地震でも沿岸の隆起が測地観測データの解析によってすでに報告されている(国土地理院、2024)。
 産総研地質調査総合センターでは、能登半島北部沿岸に分布する海成段丘のうち、特に完新世(最近約1万年)に形成されたと考えられる低位段丘や岩礁に固着した隆起生物遺骸群集(カンザシゴカイ類やフジツボ類)について、これまで10年以上に渡って調査を行ってきた。その一部は宍倉ほか(2020)によって報告している。低位段丘は基本的にL1〜L3面の3面に区分され、それらの高度分布を図1に示す。L1面の形成年代は今のところ不明であるが6千年前以降と推定される。調査範囲の最も西にある輪島市吉浦(Yoshiura)周辺はL1面、L2面が明瞭で(図2)、L1面の高度が標高7.2 mで最も高い。ここは測地によって今回の地震で大きく隆起したことが報告されている地域と一致しており、余震分布からは震源が比較的浅い地域とも一致する。また図1で半島北東側に位置する珠洲市馬緤(Matsunagi)付近では低位段丘の高度が周囲に比べて高い。ここは今回の地震の震央付近に位置しており、測地では1 m程度の隆起が示されている(国土地理院、2024)。すなわち過去から活発に隆起していた場所が今回の地震でも大きく隆起していることを示している。

図1 能登半島北部沿岸に投影した低位段丘、MIS 5e段丘、離水生物遺骸群集の高度分布。宍倉ほか(2020)の第6図に加筆。震央は防災科学技術研究所による自動震源位置。赤枠で囲った領域は、今回の地震で大きな隆起が観測されている領域(国土地理院、2024)。

図1 能登半島北部沿岸に投影した低位段丘、MIS 5e段丘、離水生物遺骸群集の高度分布。
宍倉ほか(2020)の第6図に加筆。震央は防災科学技術研究所による自動震源位置。赤枠で囲った領域は、今回の地震で大きな隆起が観測されている領域(国土地理院、2024)。

図2 輪島市吉浦周辺に見られる低位段丘(2012年9月28日撮影)。宍倉ほか(2020)の第2図を引用。

図2 輪島市吉浦周辺に見られる低位段丘(2012年9月28日撮影)。
宍倉ほか(2020)の第2図を引用。

文献

  • 国土地理院,2024,「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震(2024年1月1日)に伴う地殻変動(2024年1月2日発表),https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto.html
  • 宍倉正展・越後智雄・行谷佑一,2020,能登半島北部沿岸の低位段丘および離水生物遺骸群集の高度分布からみた海域活断層の活動性,活断層研究,53,33-49.

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産総研地質調査総合センター