2023年2月6日に発生したトルコ南部の地震(Mw 7.8、 Mw 7.5)について

第四報 東アナトリア断層周辺の応力マップとテクトニクス

活断層・火山研究部門 今西和俊・近藤久雄

 2023年2月6日のトルコ南部の地震(Mw7.8, Mw7.5)の発生場を概観するため、この地域の応力マップを作成しました。応力は地下の岩盤にかかる力で、地震の駆動力です。トルコ内務省災害緊急事態対策庁 (AFAD)のウェブサイト(https://deprem.afad.gov.tr/event-focal-mechanism)で公開されているメカニズム解カタログ(2007/2/11~2023/2/23、深さ30km以浅)とGüvercin et al. (2022)が東アナトリア断層を対象に決定したメカニズム解(2007年4月14日~2020年12月27日)をデータとして使用しました。前者は概ねマグニチュード4以上の地震が含まれているのに対し、後者は期間と地域が限定されますがマグニチュード3以上の地震のメカニズム解が含まれています。
 これらのメカニズム解を統合し、今西ほか(2019)の方法に従い、25kmメッシュの応力マップを作成しました(図1)。直線は最大水平圧縮応力(SHmax)(図2)の方位を示しており、直線の色は応力場のタイプに応じて色分けしています。東アナトリア断層周辺のSHmaxは東アナトリア断層の走向に斜交するように南北あるいは時計回りにやや回転した方位を示し、東アナトリア断層を左横ずれさせるセンスに働いていることがわかります。また、東経37°以西の地域は正断層場が卓越するようになりますが、死海断層系(第一報の図1参照)の南北走向の断層群が地溝を形成して東西方向にも開いていることと調和的です。実際に2月20日に発生したMw6.3の余震は正断層型でした。今回推定した応力マップは、この地域におけるテクトニクスを高い空間分解能で理解するうえで役立つだけでなく、今後どのようなタイプの地震が起こり得るのかを理解するうえでも活用できます。

図1 地震のメカニズム解から推定した東アナトリア断層周辺の応力マップ。SHmax方位を直線で、応力場のタイプをカラーで示す。赤色は正断層、黄色は横ずれ、青色は逆断層場に対応。応力場のタイプが決められなかった場合は灰色で表示。赤線は活断層線(Emre <i>et al.</i>, 2013; Styron and Pagani, 2020)。標高データはSRTM30 (Becker  <i>et al.</i>, 2009)を使用。表示している3つの地震のメカニズム解はトルコ内務省災害緊急事態対策庁(AFAD)による解。

図1 地震のメカニズム解から推定した東アナトリア断層周辺の応力マップ。SHmax方位を直線で、応力場のタイプをカラーで示す。赤色は正断層、黄色は横ずれ、青色は逆断層場に対応。応力場のタイプが決められなかった場合は灰色で表示。赤線は活断層線(Emre et al. , 2013; Styron and Pagani, 2020)。標高データはSRTM30 (Becker et al., 2009)を使用。表示している3つの地震のメカニズム解はトルコ内務省災害緊急事態対策庁(AFAD)による解。

図2 正断層場、横ずれ場、逆断層場と主応力の大小関係。Svは鉛直方向の主応力、SHmaxとShminは水平方向の主応力を示す。ここで水平方向の主応力のうち、値が大きい方を最大水平圧縮応力(SHmax)と呼ぶ。

図2 正断層場、横ずれ場、逆断層場と主応力の大小関係。Svは鉛直方向の主応力、SHmaxとShminは水平方向の主応力を示す。ここで水平方向の主応力のうち、値が大きい方を最大水平圧縮応力(SHmax)と呼ぶ。

参考情報

  • Becker, J. J., Sandwell, D. T., Smith, W. H. F., Braud, J., Binder, B., Depner, J., Fabre, D., Factor, J., Ingalls, S., Kim, S-H., Ladner, R., Marks, K., Nelson, S., Pharaoh, A., Trimmer, R., Von Rosenberg, J., Wallace, G., Weatherall, P. (2009) Global Bathymetry and Elevation Data at 30 Arc Seconds Resolution: SRTM30_PLUS. Marine Geodesy, 32:4, p.355-371. https://doi.org/10.1080/01490410903297766
  • Emre, Ö., Duman, T.Y., Özalp, S., Elmacı, H., Olgun, Ş. and Şaroğlu, F., (2013) Active Fault Map of Turkey with and Explanatory Text. General Directorate of Mineral Research and Exploration, Special Publication Series-30. Ankara-Turkey.
  • Güvercin, S.E., Karabulut, H., Konca, A. Ö., Doğan, U. and Ergintav, S. (2022) Active seismotectonics of the east Anatolian fault. Geophys. J. int., 230, p. 50-69. https://doi.org/10.1093/gji/ggac045
  • 今西和俊・内出崇彦・大谷真紀子・松下レイケン・中井未里(2019)関東地域の地殻内応力マップの作成.地質調査研究報告,70, 3, p. 273-298.
  • Styron, R. and Pagani, M. (2020) The GEM Global Active Faults Database. Earthquake Spectra, 36, p.160–180. https://doi.org/10.1177/8755293020944182.

問い合わせ先: 産総研地質調査総合センター