第十二報 震源域近傍の地震計アレイを用いた2024年能登半島地震の破壊過程の推定
活断層・火山研究部門 今西和俊・椎名高裕・浦田優美
地震予知総合研究振興会 関根秀太郎
2024年能登半島地震の破壊過程を調べるため、震源域近傍の地震計アレイにバックプロジェクション法(Ishii et al., 2005)を適用した。バックプロジェクション法は、観測波形から直接エネルギー放射強度の時空間分布を推定することが可能な方法であり、通常の波形インバージョンのように理論波形の計算や破壊伝搬速度などの仮定が不要であるという大きな利点がある。
地震計アレイは、地震予知総合研究振興会が新潟県長岡地区に展開している観測網(AN-net)(関根, 2022)を使った。AN-netは2024年能登半島地震の本震からおよそ100 km東側に位置しており、50 km × 30 kmの範囲に40点の観測点が存在する(図1)。それぞれの観測点には地表に強震計が設置されているほか、深さ約100 mのボアホールに高感度地震計と強震計が設置されている。本研究ではデータ品質を考慮し、ボアホールの強震計データを解析に使用した。実際の解析では、加速度記録を積分して速度波形にし、0.2-2.0 Hzの帯域のバンドパスフィルターを掛けたデータを使用した(図2)。断層面は沿岸域の活断層(井上・岡村, 2010)や余震分布の特徴を考慮し、南東傾斜(Fault 1)と北北西傾斜(Fault 2)の2つの面を設定した(図1)。
バックプロジェクション法による推定結果を図3に示す。エネルギーの大部分は能登半島の沿岸部(Fault 1の浅部)で放出されたことがわかった。また、Fault 2での破壊は無かったか、あったとしても南西端で限定的であったと推定される。全体の破壊継続時間はおよそ50秒であったと推定された。
図1 2024年能登半島地震とAN-net
本震のメカニズム解は気象庁CMT解、灰色は本震発生から1か月間の気象庁一元化震源。断層面は沿岸域の活断層や余震分布の特徴を考慮し、南東傾斜(Fault 1)と北北西傾斜(Fault 2)の2つの面を設定した(傾斜角はいずれも45°)。エネルギー放射強度を推定するグリッドの間隔は5 kmとした。
赤線は、「日本海側の海域活断層の長期評価―兵庫県北方沖~新潟県上越地方沖―(令和6年8月版)」(https://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/jishin/mext_00077.html)の断層線。
図2 AN-netで記録された2024年能登半島地震の本震波形(ボアホール強震計のEW成分)
0.2-2 Hzのバンドパスフィルターを掛け、1回積分(速度波形).観測走時は気象庁ルーチン業務で用いられているJMA2001構造(上野ほか,2002)で比較的良く説明できる。
図3 エネルギーの累積分布と活断層との関係
相対的なエネルギー放射強度分布を右下のカラースケールで示す。赤線は、「日本海側の海域活断層の長期評価―兵庫県北方沖~新潟県上越地方沖―(令和6年8月版)」(https://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/jishin/mext_00077.html)の断層線。左上にエネルギー放射の時刻歴を示す。
引用文献
- 井上卓彦・岡村行信(2010)能登半島北部周辺 20万分の1海域地質図及び説明書.海陸シームレス地質情報集,「能登半島北部沿岸域」.数値地質図S-1,産総研地質調査総合センター, https://www.gsj.jp/data/coastal-geology/GSJ_DGM_S1_2010_01_b_sim.pdf
- Ishii, M., Shearer, P., Houston, H. et al. (2005) Extent, duration and speed of the 2004 Sumatra–Andaman earthquake imaged by the Hi-Net array, Nature, 435, 933–936. doi:10.1038/nature03675
- 関根秀太郎(2022)振興会本部の地震観測網(AN-net,AS-net,AK-net,AG-net,宮城・福島観測網),地震ジャーナル,73,27-29.
- 上野 寛・畠山信一・明田川保・船崎 淳・浜田信夫(2002)気象庁の震源決定方法の改善-浅部速度構造と重み関数の改良-,験震時報,65,123-134.
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