第十報 2024年能登半島地震の緊急調査報告(令和6年(2024年)能登半島地震に伴う海底活断層の変位)

活断層・火山研究部門 岡村行信・大上隆史
地質情報研究部門 井上卓彦・佐藤智之・有元 純

 産業技術総合研究所では、2007年7月に能登半島北西沖海域で、2008年7~8月に能登半島北岸沖海域で、ブーマーを音源とする高分解能マルチチャンネル反射探査を実施し、能登半島北岸沖に活断層が断続的に連続することを明らかにしていた(井上・岡村, 2010)。

 2024年能登半島地震によって、それらの活断層が変位したことを確認するため、2024年4月に延べ約10日間の高分解能反射探査、海底地形調査などを同じ測線上で実施した(図1)。

 上記の2024年能登半島地震前後に取得した反射断面を比較し、新たな断層変位が広範囲に生じていることが明らかになった。断層変位の検出は、新旧の同じ測線の反射断面において、断層下盤側(北西側)の地形断面が変化していないことを確認の上、上盤側の地形断面を比較した(図2-7)。

 なお、現段階ではブーマー断面の深度は1m程度の誤差を含む可能性があり、変位量は、暫定的な数値である。

図1 2024年4月に実施した調査測線。太線は図2以下の断面位置、赤線は海底活断層(岡村、2019)。セグメント区分は井上・岡村(2010)を一部修正

図1 2024年4月に実施した調査測線
太線は図2以下の断面位置、赤線は海底活断層(岡村、2019)。セグメント区分は井上・岡村(2010)を一部修正

解説

  • SBPは一体型の送受波器による数千Hzの高指向性音波ビームを用いた高分解能反射探査装置。この調査で得られた反射断面をSBP断面と呼ぶ。
  • ブーマーは数百Hzのパルス波を発振する音源で、マルチチャンネル受信ケーブルを組み合わせて高分解能反射探査を実施する。この調査で得られた反射断面をブーマー断面と呼ぶ。

図2 L08測線(門前沖セグメント)の2007年ブーマー断面(上)及び2024年SBP断面(中)で、下段に2024年SBP断面に黄色点線で2008年以前の地形断面(以下同じ)を示す。断層(赤線)の南東側に1m前後の隆起が認められる

図2 L08測線(門前沖セグメント)の2007年ブーマー断面(上)及び2024年SBP断面(中)で、下段に2024年SBP断面に黄色点線で2008年以前の地形断面(以下同じ)を示す
断層(赤線)の南東側に1m前後の隆起が認められる。

図3 2008年(左)及び2024年(右)のN04測線(猿山岬沖セグメント)ブーマー断面。断層(黒点線)の南東側に3~4mの隆起が認められる。

図3 2008年(左)及び2024年(右)のN04測線(猿山岬沖セグメント)ブーマー断面
断層(黒点線)の南東側に3~4mの隆起が認められる。

図4 2008年(上)及び2024年(下)のN09測線(猿山岬沖セグメント)ブーマー断面。断層(黒点線)に沿った狭い範囲に1m前後の隆起が認められる。

図4 2008年(上)及び2024年(下)のN09測線(猿山岬沖セグメント)ブーマー断面
断層(黒点線)に沿った狭い範囲に1m前後の隆起が認められる。

図5 2008年(上)及び2024年(下)のN19測線ブーマー断面(輪島沖セグメント)。北側(N19N)及び南側(N19S)の断層(黒点線)の南東側に1~2mの隆起が認められる。

図5 2008年(上)及び2024年(下)のN19測線ブーマー断面(輪島沖セグメント)
北側(N19N)及び南側(N19S)の断層(黒点線)の南東側に1~2mの隆起が認められる

図6 2008年(上)及び2024年(下)のN27測線(輪島沖セグメント)ブーマー断面。断層(黒点線)の南東側に3 m前後の隆起が認められる。

図6 2008年(上)及び2024年(下)のN27測線(輪島沖セグメント)ブーマー断面
断層(黒点線)の南東側に3 m前後の隆起が認められる。

図7 2008年(上)及び2024年(下)のN37測線(珠洲沖セグメント)ブーマー断面。この測線では、断層ではなく地層が屈曲して傾斜を増す撓曲帯が発達する。黒点線は地層の屈曲軸に相当し、そこから南東に向かって隆起量が増し、南東部で2 m前後の隆起が認められる。

図7 2008年(上)及び2024年(下)のN37測線(珠洲沖セグメント)ブーマー断面
この測線では、断層ではなく地層が屈曲して傾斜を増す撓曲帯が発達する。黒点線は地層の屈曲軸に相当し、そこから南東に向かって隆起量が増し、南東部で2 m前後の隆起が認められる。

引用文献

  • 井上卓彦・岡村行信 (2010) 能登半島北部周辺20万分の1海域地質図及び説明書.海陸シームレス地質情報集,「能登半島北部沿岸域」.数値地質図S-1,地質調査総合センター, https://www.gsj.jp/researches/project/coastal-geology/results/s-1.html.
  • 岡村⾏信(2019)日本海における活断層の分布と今後の課題.地震第2輯,71,185–199.

問い合わせ先

産総研地質調査総合センター