第三報 2024年8月8日の日向灘の地震(M7.1)前後の産総研の水位・ひずみ変化:8月15日16時点での取得データの報告

活断層・火山研究部門 北川有一

 第一報では、産総研観測点(図1)で取得された8月9日12時時点での地下水位とひずみ変化について報告した。第三報ではその後の監視状況として、8月15日16時時点で取得されたデータについて報告する(図2~図18)。日向灘周辺域では、プレート境界のすべりを示唆する異常な地殻変動は、その後も観測されていない。一方、三重県や愛知県の観測点では8月9日の午後以降からひずみに変化が見られており、三重県中部から伊勢湾付近でゆっくりすべりが発生したものと考えられる。主な観測点のデータの特徴は以下の通りである。

豊橋多米TYE(愛知県豊橋市):図2、西尾善明NSZ(愛知県西尾市):図4、津安濃ANO(三重県津市):図5、熊野磯崎ICU(三重県熊野市):図6

津安濃および熊野磯崎では、8月9日午後以降、ひずみに変化が見られる。豊橋多米および西尾善明では、8月11日以降、ひずみに変化が見られる。
このひずみ変化は、三重県中部から伊勢湾付近で発生したゆっくりすべりによるものと考えられる。ゆっくりすべりの解析結果については、気象庁(2024)のp.12-14を参照。過去にも同様なゆっくりすべりが発生してきた範囲(深度)であり、より浅い側のプレート間固着が強い領域への広がりは示唆されない結果である。

須崎大谷SSK(高知県須崎市):図11
  • 地震後のひずみに変化が見られたが、1日弱で変化は終息し(図11の赤点線の範囲)、以前のトレンドに戻ったと思われる。過去の事例の継続時間は半日から2日程度だった(産業技術総合研究所, 2022のp.37-41参照)。
  • ひずみ変化の伸び縮みパターンは、過去に観測された地震後の変化と同様である。
  • ひずみデータには8月9日17時36分過ぎにステップが生じたが、原因不明(観測点付近では同日夜に落雷による長時間停電が発生した)。
  • 地震後のひずみ変化は、プレート境界のゆっくりすべりなどに伴う広域の地殻変動ではなく、観測点周辺での環境変化(地下水流動や応力場の変化等)の可能性が高いと考えている。
土佐清水松尾TSS(高知県土佐清水市):図12
  • 地震時のひずみにステップ状の小さい変化が認められる。
  • 地震後のひずみに変化が見られたが、約1日で変化は終息し(図12の赤点線の範囲)、以前のトレンドに戻ったと思われる。過去の事例の継続時間は1日程度だった(産業技術総合研究所, 2022のp.30-36、および産業技術総合研究所, 2024のp.23-30参照)。
  • ひずみ変化の伸び縮みパターンは、過去に観測された地震後の変化と同様である。
  • 地震後に孔2(土佐清水松尾2)の水位が低下しているが、過去に観測された地震後の変化と同様である。
  • 地震後の水位・ひずみ変化は、プレート境界のゆっくりすべりなどに伴う広域の地殻変動ではなく、観測点周辺での環境変化(地下水流動や応力場の変化等)の可能性が高いと考えている。
佐伯蒲江SIK(大分県佐伯市):図15
  • ひずみについては、地震時のステップに加えて、地震後には、地震時のステップと同じ方向に変化が生じている可能性があるが、地震後のひずみの6成分の変化は必ずしも整合的ではなく、広域の地殻変動を反映した変化ではない可能性が考えられる。
  • この観測点は2024年2月から観測を開始したばかりであり、ひずみトレンドの評価を行うことがまだ難しい状況である。
上記以外の観測点

地震時のステップが見られる観測点はあるが、地震後のひずみのトレンドに変化は見られない。

図1 産総研の観測点配置図。気象庁一元化震源カタログによる2024年日向灘の地震の震央を黄色の星で示す。

図1 産総研の観測点配置図。気象庁一元化震源カタログによる2024年日向灘の地震の震央を黄色の星で示す。

図2 豊橋多米観測点(TYE)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。黒色の線は測定値を、緑色の線はBAYTAP(Tamura et al., 1991)により地球潮汐成分・気圧応答成分を除去し、さらに8月8日の地震前までの線形トレンドを除去した後の時系列を示す。降水量は棒グラフで示す.縦の点線は8月8日の日向灘の地震の発生時を示す。N356Eなどは、ひずみセンサーの計測方位を示す。8月11日以降、ひずみに変化が見られるが(赤点線の範囲)、周辺で発生したゆっくりすべりの影響である

図2 豊橋多米観測点(TYE)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。
黒色の線は測定値を、緑色の線はBAYTAP(Tamura et al., 1991)により地球潮汐成分・気圧応答成分を除去し、さらに8月8日の地震前までの線形トレンドを除去した後の時系列を示す。降水量は棒グラフで示す。縦の点線は8月8日の日向灘の地震の発生時を示す。N356Eなどは、ひずみセンサーの計測方位を示す。8月11日以降、ひずみに変化が見られるが(赤点線の範囲)、周辺で発生したゆっくりすべりの影響である。

図3 豊田神殿観測点(TYS)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。 図の見方は図2と同じ。

図3 豊田神殿観測点(TYS)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。 図の見方は図2と同じ。

図4 西尾善明観測点(NSZ)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。8月11日以降、ひずみに変化が見られるが(赤点線の範囲)、周辺で発生したゆっくりすべりの影響である。

図4 西尾善明観測点(NSZ)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。8月11日以降、ひずみに変化が見られるが(赤点線の範囲)、周辺で発生したゆっくりすべりの影響である。

図5 津安濃観測点(ANO)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。8月9日午後から8月14日午前まで、ひずみに変化が見られるが(赤点線の範囲) 、周辺で発生したゆっくりすべりの影響である。

図5 津安濃観測点(ANO)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。8月9日午後から8月14日午前まで、ひずみに変化が見られるが(赤点線の範囲) 、周辺で発生したゆっくりすべりの影響である。

図6 熊野磯崎観測点(ICU)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。8月9日午後から8月11日まで、ひずみに変化が見られるが(赤点線の範囲) 、周辺で発生したゆっくりすべりの影響である。

図6 熊野磯崎観測点(ICU)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。8月9日午後から8月11日まで、ひずみに変化が見られるが(赤点線の範囲) 、周辺で発生したゆっくりすべりの影響である。

図7 串本津荷観測点(KST)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図7 串本津荷観測点(KST)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図8 田辺本宮観測点(HGM)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図8 田辺本宮観測点(HGM)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図9 室戸岬観測点(MUR)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図9 室戸岬観測点(MUR)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図10 新居浜黒島観測点(NHK)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図10 新居浜黒島観測点(NHK)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図11 須崎大谷観測点(SSK)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。赤点線の範囲は、観測点周辺での環境変化(地下水流動や応力場の変化等)によるひずみ変化と考えられる。

図11 須崎大谷観測点(SSK)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。赤点線の範囲は、観測点周辺での環境変化(地下水流動や応力場の変化等)によるひずみ変化と考えられる。

図12 土佐清水松尾観測点(TSS)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。赤点線の範囲は、観測点周辺での環境変化(地下水流動や応力場の変化等)によるひずみ変化と考えられる。

図12 土佐清水松尾観測点(TSS)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。赤点線の範囲は、観測点周辺での環境変化(地下水流動や応力場の変化等)によるひずみ変化と考えられる。

図13 西予宇和観測点(UWA)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図13 西予宇和観測点(UWA)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図14 綾川千疋観測点(AYS)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図14 綾川千疋観測点(AYS)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図15 佐伯蒲江観測点(SIK)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図15 佐伯蒲江観測点(SIK)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図16 日高川和佐観測点(HDW)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図16 日高川和佐観測点(HDW)の地下水位・ひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図17 三豊仁尾観測点(MTN)のひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図17 三豊仁尾観測点(MTN)のひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図18 新宮佐野観測点(SNS)のひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

図18 新宮佐野観測点(SNS)のひずみ変化(2024/8/1 00:00~2024/8/15 16:00)。図の見方は図2と同じ。

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産総研地質調査総合センター