第二報 2024年8月8日の日向灘の地震と1662年日向灘地震の推定断層モデルとの関係

活断層・火山研究部門 伊尾木圭衣・今西和俊

 日向灘周辺はマグニチュード7を超える地震がたびたび発生してきた地域である。この地域は、地震調査研究推進本部による「日向灘及び南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価(第二版)(令和4年3月25日公表)」において、「M7.0〜M7.5程度の地震が30年以内に発生する確率はⅢランク(80%程度)」とされ、海溝型地震の中では発生する確率が高い地域に分類されている。ここでは、日向灘で発生した歴史上最大とされる1662年日向灘地震の推定断層モデル(Ioki et al., 2023)(図1、表1)と2024年8月8日に日向灘で発生した地震の破壊域を比較した。1662年日向灘地震の断層モデルについては、産総研プレスリリースもご参照いただきたい。
 1662年地震による宮崎平野での津波の高さは、歴史記録からは4-8 mと推定された。また、日南市小目井こめいでは、現在の標高約7-9 m、現在の海岸線から約450 m 内陸の地点で1662年地震による津波堆積物が確認されており、少なくともこのあたりまで津波が来たことを示唆する。このことから、津波生成に大きく寄与するプレート境界浅部(小断層③)が特に大きく破壊されたと考えられる。
 今回の地震の破壊域は、余震分布を参考にすると、強震動生成に大きく寄与するプレ-ト境界部(小断層①-②)に位置する。陸域に近い海域で発生したため宮崎県沿岸部では揺れが大きく震度5-6弱が観測された(気象庁, 2024a)。一方、破壊はプレート境界浅部(小断層③)までは達していないと考えられ、観測された津波が宮崎市宮崎港で約0.5 m、日南市油津で約0.4 mと(気象庁, 2024b)、小規模であったこととも調和的である。

図1 宮崎県沿岸部における津波堆積物調査結果と浸水シミュレーションにより推定された1662年日向灘地震の断層モデル(黒の①-③)(Ioki <i>et ai.<i>,2023)と2024年8月8日の日向灘の地震の余震分布(カラーの丸)(産総研プレスリリース図1を一部改変)。余震は気象庁一元化震源カタログによる(本震発生から1日間)。丸の大きさはマグニチュードに比例しており、一番大きな丸は本震の震央を示す。図中の赤星は1923年以降のM7級プレート境界地震の震央(気象庁一元化震源カタログ)、紫の破線はプレート境界位置の等深線(Nakanishi et al., 2018)、灰色の領域は主な地震の震源域で、1968年日向灘地震(八木・他、1998)、1996年10月・12月の地震(Yagi et al., 1999)、赤丸は浅部スロー地震の震央(Yamashita et al., 2015; 2021)をそれぞれ示す。

図1 宮崎県沿岸部における津波堆積物調査結果と浸水シミュレーションにより推定された1662年日向灘地震の断層モデル(黒の①-③)(Ioki et al., 2023)と2024年8月8日の日向灘の地震の余震分布(カラーの丸)(産総研プレスリリース図1を一部改変)。
余震は気象庁一元化震源カタログによる(本震発生から1日間)。丸の大きさはマグニチュードに比例しており、一番大きな丸は本震の震央を示す。図中の赤星は1923年以降のM7級プレート境界地震の震央(気象庁一元化震源カタログ)、紫の破線はプレート境界位置の等深線(Nakanishi et al., 2018)、灰色の領域は主な地震の震源域で、1968年日向灘地震(八木・他、1998)、1996年10月・12月の地震(Yagi et al., 1999)、赤丸は浅部スロー地震の震央(Yamashita et al., 2015; 2021)をそれぞれ示す。

表1 1662年日向灘地震の断層モデルパラメータ

表1 1662年日向灘地震の断層モデルパラメータ

文献

  • 地震調査研究推進本部(2022)日向灘及び南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価(第二版).
    https://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/hyuganada_2.pdf
  • Ioki, K., Yamashita, Y. & Kase, Y. (2023) Effects of the Tsunami Generated by the 1662 Hyuga-Nada Earthquake off Miyazaki Prefecture, Japan, Pure Appl. Geophys., 180, 1897–1907. https://doi.org/10.1007/s00024-022-03198-3
  • 気象庁(2024a) 令和6年8月8日16 時 43分頃の日向灘の地震について. https://www.jma.go.jp/jma/press/2408/08b/kaisetsu202408081745.pdf
  • 気象庁(2024b) 令和6年8月8日16 時 43分頃の日向灘の地震について(第2報). https://www.jma.go.jp/jma/press/2408/09a/kaisetsu202408091530.pdf
  • Nakanishi, A. et al. (2018)Three dimensional plate geometry and P wave velocity models of the subduction zone in SW Japan: implications for seismogenesis, Geological Society of America Special Papers, 534, 69-86.
  • 八木勇治・他(1998)1968年4月1日,日向灘地震(MJMA7.5)の震源過程とその後の地震活動との比較, 地震第2輯, 51, 139-148.
  • Yagi. Y. et al. (1999) Comparison of the coseismic rupture with the aftershock distribution in the Hyuga-nada Earthquakes of 1996, Geophys. Res. Lett., 26, 3161–3164.
  • Yamashita, Y. et al. (2015) Migrating tremor off southern Kyushu as evidence for slow slip of a shallow subduction interface, Science, 348, 676-679.
  • Yamashita, Y. et al. (2021) Shallow tectonic tremor activities in Hyuga-nada, Nankai subduction zone, based on long term broadband ocean bottom seismic observations, Earth, Planets and Space, 73, 196.

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