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地質調査研究報告 Vol.67 No.5 (2016)

表紙

デスモスチルス歌登第3標本の2.5分の1サイズ3Dプリンタ出力模型(スケール全長は10 cm)

デスモスチルス歌登第3標本の2.5分の1サイズ3Dプリンタ出力模型(スケール全長は10 cm)  北海道枝幸町歌登(えさしちょううたのぼり)の中部中新統タチカラウシナイ層より産出し,産業技術総合研究所 地質標本館とオホーツクミュージアムえさしに登録・保管されているデスモスチルス歌登標本は,2017年9月に発見から40周年を迎える.本号は,記載報告が未着手であった歌登第2~第7標本の記載論文,第8標本の再記載論文と第1標本の頭骨記載の修正を収録し,歌登標本の研究にひと区切りをなすものとなる.
 一方,歌登標本は,近年も新たな研究の材料として利用されている.X線CTスキャナを用いた化石内部構造の研究や同位体分析などにより,絶滅哺乳類デスモスチルスの謎への挑戦が続いている.本号の口絵では,歌登第3 標本の頭骨化石(GSJ F07745-1,GSJ F07745-2) のX線CTスキャンデータから,3Dプリンタで作成した2.5分の1サイズの模型を紹介する.記載的研究の完了後も,新たな手法を用いた研究の展開で,歌登標本の価値はますます高まると期待される.

(写真・文:兼子尚知)

目次

全ページ PDF : 67_05_full.pdf [9MB]

タイトル著者PDF
口絵
3Dプリンタによる地質標本の模型製作
Modeling of geological specimen by 3D printer
兼子尚知・鵜野 光・岩下智洋 67_05_01.pdf [4.8MB]
論文
北海道枝幸町歌登産Desmostylusの記載:歌登第2~第7標本の記載 鵜野 光・兼子尚知・高畠孝宗 67_05_02.pdf [13.8MB]
北海道歌登産Desmostylusの骨格
Ⅲ. 歌登第8標本の再記載と第1標本頭蓋形態の再考
犬塚則久・兼子尚知・高畠孝宗 67_05_03.pdf [6MB]

 

要旨集

北海道枝幸町歌登産Desmostylusの記載:歌登第2~第7標本の記載

鵜野 光・兼子尚知・高畠孝宗

 産業技術総合研究所地質標本館に保管されている北海道枝幸町(えさしちょう)(旧 歌登(うたのぼり)町)の中部中新統タチカラウシナイ層から産出したDesmostylus歌登標本は,一部が記載されたが他は未記載のままであった.本論文では,これらの未記載標本の記載を行う.歌登標本は,その形態と産出層準から,第1~第7標本の中で保存が良く同定可能な標本のすべてが同一種Desmostylus hesperusであるとみなされる.本論文で扱った歌登第3標本は,いくつかの骨を含んでいるが,これらは同一岩体から得られたものであり,ほぼ同じ成長段階を示し,骨要素に部位の重複がない.したがって,これらは同一個体由来である蓋然性が高い.この第3標本の茎状舌骨,切歯,脛骨を他のD. hesperusである歌登第1標本(標本番号GSJ F07743)と気屯(けとん)標本(標本番号UHR18466)と比較すると,第3標本では,茎状舌骨はより華奢で,切歯の咬耗形態が異なっており,脛骨は他と異なりほとんど捻転していない.これらの形態はD. hesperusのなんらかの種内変異もしくは保存状態の差異を表していると考えられる.

北海道歌登産Desmostylusの骨格
Ⅲ. 歌登第8標本の再記載と第1標本頭蓋形態の再考

犬塚則久・兼子尚知・高畠孝宗

 Desmostylus歌登第8標本の既存記載研究は,膝蓋骨の面と方向の同定を誤っていること,上腕骨の記載及び比較が骨学的に不十分であることから,ここに再記載を行う.右上腕骨の長さは525mm以上,左膝蓋骨の最大厚は112mmである.最大の上腕骨のサイズから,Desmostylusのオトナオスの体長は387cm,体重は約3.5tと見積もられる.Desmostylusの膝蓋骨はアジアゾウのそれより約50%厚く,これは膝関節回転軸からのモーメントアームが長く,膝の伸展力が体格に比して大きかったことを示唆する.このことはDesmostylusが側方型の姿勢であったことを裏付けるものである.
 歌登第1標本の頭蓋骨については他標本の情報の追加により議論を再考し,巻末に補遺として掲載した.