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地質調査研究報告 Vol.57 No.11/12 (2006)
特集 : トレンチ調査による富士火山の噴火史の高精度化
表紙
富士山、太郎坊でのテフラ層
御殿場口五合目の太郎坊では、新富士火山起源のテフラをほぼ連続的に確認できる。本露頭最上位のテフラ層は、西暦1707年の宝永噴火の降下テフラである。宝永テフラ最下部は、白色の軽石層からなる。各テフラ層に挟まる風化火山灰土から火山ガラスの検出を試みた結果、西暦838年神津島天上山噴火に伴う降下テフラ起源の火山ガラスが、宝永テフラの下から検出できた (本特集の Kobayashi et al.)。写真奥には、富士火山の南東山腹が見られる。大きな火口は宝永火口、その左手のピークは宝永山である。
(高田 亮)
目次
タイトル | 著者 | |
---|---|---|
巻頭言 | ||
特集「トレンチ調査による富士火山の噴火史の高精度化」 | 高田 亮・中野 俊・石塚吉浩 (327-328) | 57_11_01.pdf [184 KB] |
論文 | ||
富士火山南山腹のスコリア丘トレンチ調査による山腹噴火履歴 | 高田 亮・小林 淳 (329-356) | 57_11_02.pdf [3,463 KB] |
トレンチ調査から見た富士火山北 ‐ 西山腹におけるスコリア丘の噴火年代と全岩化学組成 | 石塚吉浩・高田 亮・鈴木雄介・小林 淳・中野 俊 (357-376) | 57_11_03.pdf [1,534 KB] |
富士火山北西山麓に分布するスコリア丘の噴火史の再検討 | 鈴木雄介・高田 亮・石塚吉浩・小林 淳 (377-385) | 57_11_04.pdf [1,022 KB] |
富士火山、北東麓の新期溶岩流及び旧期火砕丘の噴火年代 | 中野 俊・高田 亮・石塚吉浩・鈴木雄介・千葉達朗・荒井健一・小林 淳・ 田島靖久 (387-407) |
57_11_05.pdf [1,933 KB] |
Eruptive history of Fuji Volcano from AD 700 to AD 1,000 using stratigraphic correlation of the Kozushima-Tenjosan Tephra | Makoto Kobayashi, Akira Takada and Shun Nakano (409-430) | 57_11_06.pdf [2,246 KB] |
要旨集
富士火山南山腹のスコリア丘トレンチ調査による山腹噴火履歴
高田 亮・小林 淳
富士火山南山腹で山腹噴火の活動履歴を明らかにするために、トレンチ調査を試みた。スコリア丘山頂でのトレンチ調査が、山腹噴火の活動履歴の高精度化に極めて有効であった。本トレンチ調査により、これまでテフラ層序の確立が困難であった富士火山南山腹の鍵テフラの層序が明らかとなった。この鍵層を使って、山腹噴火の活動履歴を復元した。Yu-2 に覆われない山腹噴火は須山胎内溶岩、南ガラン塚、大淵スコリア、小天狗溶岩である。大淵スコリアの給源は、従来考えられた高鉢山でなく、北高鉢付近にあることが明らかになった。Yu-2 と S-10 に挟まれる山腹噴火は、浅黄塚、高山、腰切塚である。S-10 と F3 に挟まれる山腹噴火は、白塚のみである。F2 と鬼界アカホヤテフラ (K-Ah) 降灰層準に挟まれる山腹噴火は、東臼塚と、それよりやや下位と思われる平塚である。K-Ah の降灰層準付近に、活動したと思われる山腹噴火は、檜塚と西臼塚である。K-Ah の降灰層準より下に位置する山腹噴火は、北高鉢、高鉢山、北東高鉢、黒塚、アザミ塚である。
トレンチ調査から見た富士火山北‐西山腹におけるスコリア丘の噴火年代と全岩化学組成
石塚吉浩・高田 亮・鈴木雄介・小林 淳・中野 俊
富士火山北‐西山腹に位置する 18 個の噴火年代未詳スコリア丘でトレンチ調査を実施した。トレンチ断面で、テフラ層序と火山灰土壌の厚さから、スコリア丘の噴火年代を見積もると、1) 8,300 B.C. から 6,000 B.C. にサワラ山、二ッ山、永山が、2) 5,300 B.C. から2,600 B.C. に弓射塚、西剣、北西奥庭、丸山、塒塚が、3) 2,300 B.C. から 1,800 B.C. に八軒山、西幸助丸、幸助丸、戸嶺、臼山が、4) 1,600 B.C. から 1,300 B.C. に 北西弓射塚、東剣、鹿の頭、片蓋山が形成されたことが明らかとなった。これらスコリア丘の噴出物は、同時期に流下した溶岩流の岩質、全岩化学組成の特徴と同様の時間変化傾向を示す。最近 1 万年間をみると、北‐西山腹の側噴火堆積物は 2,300 B.C. から 1,800 B.C.に K2O 量、FeO*/MgO が減少している。
富士火山北西山麓に分布するスコリア丘の噴火史の再検討
鈴木雄介・高田 亮・石塚吉浩・小林 淳
富士火山北西山麓で行ったトレンチ調査及びそれに関連した露頭観察に基づき、北西側の先端部に分布するスコリア丘と周辺溶岩流の層序を再検討した。片蓋山、鹿の頭、栂尾山、弓射塚、北西弓射塚のトレンチでは、大室スコリアが大室山と片蓋山の両スコリア丘を給源とすると推定できた。天神山・伊賀殿山及び氷池・白大龍王のスコリア丘とそれらから流下した溶岩流は、層序関係、放射年代値、神津島起源の広域テフラから、それぞれ西暦 838〜864 年、西暦 410〜770 年の間に噴火した。
富士火山、北東麓の新期溶岩流及び旧期火砕丘の噴火年代
中野 俊・高田 亮・石塚吉浩・鈴木雄介・千葉達朗・荒井健一・小林 淳・田島靖久
富士火山噴出物の噴火年代決定を目的として産総研が実施したトレンチ調査のうち、北東山麓で行ったトレンチ調査結果及びそれに関連した露頭観察の結果をまとめ、そこから得られた放射性炭素年代測定値を合わせて報告する。トレンチ調査の対象は、新富士旧期の大臼、小臼などの火砕丘群及び新富士新期の檜丸尾、鷹丸尾、中ノ茶屋、雁ノ穴丸尾、土丸尾などの溶岩流群である。
神津島天上山テフラの同定とその層位に基づく富士火山の西暦700〜1,000 年の噴火史
小林 淳・高田 亮・中野 俊
富士火山、伊豆半島周辺 (箱根・東伊豆) 及び伊豆諸島 (三宅島・新島) で採取した、おおむね地表付近の風化火山灰土中に含まれる珪長質降下テフラ起源の火山ガラスを対象にして、電子・実体顕微鏡観察、発泡度解析及び屈折率測定等から給源テフラの同定を試みた。火山ガラスの粒径分布、特徴的に低い屈折率のほか、発泡度の特徴等から、これらの地域には神津島天上山テフラ (西暦838年) 起源の火山ガラスが広く分布することが明らかとなった。
神津島天上山テフラ起源の火山ガラスの特徴と、その火山ガラスが検出された層位との関係から、富士火山の側火山起源噴出物 (スコリア・溶岩流) の噴出年代の整理を試みた。その結果、従来の炭素同位体年代測定では分離できなかった、9〜10 世紀頃に頻発した富士火山の多くの噴火に対して、噴出年代の制約条件としての高精度な時間軸を設定することができた。
本研究の結果、神津島天上山テフラ起源の火山ガラスの濃集層準 (降灰層準) がより上位にあると判断した噴出物は、「大淵スコリア」、「鑵子山スコリア」及び「西二ツ塚スコリア」(以上、南及び南東斜面) と、「鷹丸尾・檜丸尾 第2溶岩流」及び「御庭・奥庭 第2噴火噴出物」(以上、北及び北東斜面) である。一方、神津島天上山テフラの降灰層準よりがより下位にあると判断した噴出物は、「不動沢溶岩流」、「大淵丸尾溶岩流」、「東臼塚南溶岩流」及び「水ヶ塚丸尾溶岩」(以上、南及び南東斜面) と、「剣丸尾第2溶岩流」、「貞観噴火噴出物 (青木ヶ原溶岩流と長尾山スコリア)」及び「天神・イガトノ噴火噴出物」(以上、北及び北東斜面) である。このほか、富士火山の東山腹周辺のテフラ層序についても、神津島天上山テフラの降灰層準との層位関係等に基づき新たに再検討し、「須走溶岩」が神津島天上山テフラよりも上位にあることが明らかになった。
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