地質調査研究報告 トップへ

地質調査研究報告 Vol.54 No.3/4 (2003)

表紙 | 目次 | 要旨集

表紙

瀬戸内海の花崗岩類

瀬戸内海の花崗岩類

   日本で最大の花崗岩バソリスは西南日本内帯に存在するために瀬戸内海は花崗岩で取り巻かれている。我が国における花崗岩の本格的利用は城の石垣である。大阪城における最大130トンに達する巨大な花崗岩塊は徳川秀忠 - 家光時代 (1605-51) の修復期に船便で瀬戸内海から搬出された。この伝統は現在に継続しており、瀬戸内海には多くの丁場がある。一方、白砂青松の海岸線には多種類の花崗岩類や花崗岩と玄武岩質マグマが混ざり合う現象が見事に露出し、地質学的な研究の場として重要である (本誌95-116頁参照)。写真左 : 白みかげと呼ばれる黒雲母花崗岩を採石する北木島の馬場丁場。1991年 4月撮影。写真右 : 領家帯花崗岩類に貫入した同時性の苦鉄質岩脈。小豆島田浦半島の南岸に露出。

(石原舜三)

目次

タイトル著者PDF
論文
Chemical contrast of the Late Cretaceous granitoids of the Sanyo and Ryoke Belts, Southwest Japan: Okayama-Kagawa Transect Shunso Ishihara (95-116) 54_03_01.pdf [1,418 KB]
Characterization of geothermal systems in volcano-tectonic depressions : Japan and New Zealand Shiro Tamanyu and C. Peter Wood (117-129) 54_03_02.pdf [909 KB]
Early Cenomanian (Cretaceous) ammonoids Utaturiceras and Graysonites from Hokkaido, North Japan (Studies of the Cretaceous ammonites from Hokkaido and Sakhalin-XCV) Tatsuro Matsumoto, Tamio Nishida and Seiichi Toshimitsu (131-159) 54_03_03.pdf [2,098 KB]
資料・解説
Origin of sulfur in some magmatic-hydrothermal ore deposits of South China 柳沢幸夫・天野和孝 (63-93) 54_03_04.pdf [3,392 KB]

要旨集

山陽帯と領家帯の白亜紀後期花崗岩類の化学的性質の対照性 : 岡山南部 - 香川断面の場合

石原舜三

   西南日本内帯に属する岡山県南部 - 香川県地域の白亜紀後期花崗岩類 (山陽帯、25試料 ; 領家帯、16試料) の主成分・微量成分について分析し、両地帯の特性を明らかにした。また斑れい岩 (6試料) の役割についても言及した。これら深成岩類を領家変成岩類とタングステン鉱床の分布域から、山陽帯と領家帯に地帯区分する。山陽帯花崗岩類は粗粒〜中粒花崗閃緑岩-花崗岩バソリス、および細粒花崗閃緑岩〜花崗岩ストックからなり、ごく少量の斑れい岩類を伴う。細粒花崗岩の一部は白雲母-黒雲母優白花崗岩で、タングステン鉱床を伴っている。領家花崗岩類は同、粗粒〜中粒花崗閃緑岩-花崗岩バソリスそして細粒花崗岩ストック (庵治花崗岩) から、頻繁に細粒斑れい岩類を伴う。また片麻状構造や鏡下での鉱物の変形から固結時の偏圧の影響が推察される。庵治花崗岩はストック状ではあるが、鉱床を伴わない。山陽帯と領家帯の花崗岩類を、バソリス状粗粒、ストック状細粒岩類に分けて比較すると、次のような特徴がある。山陽帯花崗岩類は領家帯花崗岩類に比べてシリカとアルカリ (特にK2O) に富み、アルミナに乏しく、アルミナ飽和指数が低い、Rbは山陽帯花崗岩類に多く含まれ、特に細粒優白花崗岩で著しく高く、領家帯の庵治花崗岩で最も低い。Sr は Rb と全く逆の傾向を示し、従って Rb/Sr は優白花崗岩で最も高く (〜39)、庵治花崗岩で最も低い (0.2)。Rb/Sr はマグマ分化度を示すから、庵治花崗岩は未分化の、優白花崗岩は著しく分化したマグマから固結したものと考えられる。この分化花崗岩は Y, W, Sn, U, Th, Ta, Nb にも富んでおり、その一部は花崗岩の周辺に鉱床を形成した。コンドライトで規格化した希土類元素パターンは (1) 軽希土類で中間的な値を持ち、Eu から重希土類にかけて低下するもの : 山陽帯の花崗閃緑岩や領家帯の花崗岩類で一般的、(2) 上記より全般的に希土類に富み、若干の Eu 負異常を持つもの : 桃色の万成花崗岩で代表される、(3) 重希土類に富み、全体的に水平パターンを示し、斜長石の分別晶出による著しい Eu 負異常を示すもの : これはタングステン鉱化を伴なう優白花崗岩類で特徴的である。庵治花崗岩類は領家帯では最末期花崗岩と考えられているが、このような分化パターンを示さない。領家帯花崗岩類は山陽帯花崗岩類よりアルミナ飽和指数が高く、アルカリ含有量が低いから、その原岩の堆積岩の比率が高い可能性が、酸素同位体データ (Ishihara and Matsuhisa, 2002) はそれを裏づけている。庵治花崗岩や片麻岩中の白雲母 - 黒雲母花崗岩の δ18O 値は特に高く、その原岩に堆積岩比率が高かったことを示すが、K2O 含有量は低くイライトに富む頁岩が少なかった可能性がある。山陽帯と領家帯花崗岩類の平均的組成は領家帯でやや苦鉄質である。苦鉄質岩は細粒斑れい岩類として領家帯にしばしば産出し、花崗岩質マグマとの間における幅広い深度の混交・混合組織を示す。従って領家帯では上部マントルからの苦鉄質マグマの上昇量が多く、それが広域変成帯を生じる熱を供給し、更に大陸地殻の火成・堆積岩起源の珪長質マグマと混交・混合することにより、山陽帯よりやや苦鉄質な花崗岩類を形成したものと考えられる。

火山性テクトニック陥没帯における地熱系の特徴 : 日本とニュージーランド

玉生志郎・ピーター  ウッド

   地熱系の分布における構造支配について研究するために、日本の九重 - 別府地溝帯 (KBG) とニュージーランドのタウポ火山帯 (TVZ) を比較検討した。その結果、その違いと類似性が明らかとなった。地熱地域の分布は、両者で大きく異なり、KBG では中央部を斜交する若い火山フロントの直上ないしはその背後に限定されるのに対して、TVZ では地溝帯全体に広く分布している。最も若い火山活動に関しても両者で異なり、KBG では安山岩質の成層火山を形成する火山活動であるのに対して、TVZ ではカルデラ形成を伴う流紋岩質火山活動である。従って、現在の地熱地域の熱源としては、KBG では安山岩質マグマと固結したプルトンが想定されるのに対して、若い TVZ では浅所貫入した流紋岩質のプルトンと岩脈群が想定される。このような両者における熱源と地熱分布の違いは、異なる地熱地域特性を生じさせている。TVZ 浅部 (深度500-1500m) では、沸騰温度およびそれに近い流体 (250-300°C) が中生界の上位に重なる第四紀火山岩-堆積岩よりなる多孔質帯水層に賦存している。一方、KBG では、より深い深度 (1000-2000 m) に、より低い温度 (220°C) の流体が賦存している。KBG では第四紀安山岩質マグマ近傍域が TVZ より深く位置し、天水は深くまで浸透して、地温勾配の低い熱伝導域の上位の破砕された火山岩類の中で熱せられている。このように、火山性テクトニック陥没帯で地熱流体から放出される熱は、マグマ近傍域の深度と天水の浸透する深度とに大きく規制されている。

北海道産の白亜紀セノマニアン初期アンモナイト類 Utaturiceras 及び Graysonites

松本達郎・西田民雄・利光誠一

   アンモナイト類 Acanthoceratidae 科の Utaturiceras 及び Graysonites の2属は、北海道北西部の添牛内地区の白亜系セノマニアン階下部にかなり産出する。それに基づき両属の特徴を改めて認定し、U. 属の3種 (内1種は新種) と G. 属の2種を記載し、それらの特徴を明示した。U. vicinale (Stoliczka), U. chrysanthemum n. sp., G. wooldridgei Young, G. adkinsi Young はセノマニアン最下部を特徴付ける。しかしこれらが国内でも海外でも散点した地区からその産出が報告されている事実が気付かれ、若干論述を試みたが、産状についての結論にはさらに研究を重ねるべきである。

華南における2・3のマグマ - 熱水性鉱床の硫黄の起源

石原舜三・王  平安・梶原良道・渡辺  寧

   華南褶曲帯に貫入するジュラ紀花崗岩類に成因的に関係したマグマ - 熱水性鉱床から、花崗岩母岩 (西華山)、炭酸塩岩母岩 (柿竹園と黄沙坪) の3例を選び、硫黄同位体比の研究を実施した。華南褶曲帯は "ミオ地向斜" の古生代中期の堆積岩類からなり、デボン紀 - 石炭紀を中心に炭酸塩岩に富む。鉱床の平均値を知るために各鉱床の選鉱産物の δ34S 値を分析すると第2表の結果、すなわち平均値で西華山鉱床 (W)-0.9 ‰ (n = 3)、柿竹園鉱床 (Sn, Cu, Pb, Zn) +7.0‰ (n = 3)、黄沙坪鉱床 (+13.2 ‰, n = 3) が得られた。柿竹園鉱床では花崗岩 (-1.0‰) から南東 (+10.4‰) へゾーニングが著しい。西華山および柿竹園鉱床の生成に関与したした花崗岩マグマは +2‰ 程度の δ34S 値を持つものと考えられ、従って炭酸塩岩類を母岩とする柿竹園、黄沙坪鉱床は極めて高い δ34S 値を持つと言える。34S に富む岩石として炭酸塩岩に注目してその SSS (構造置換態硫酸塩) 硫黄の含有量と δ34S 値を測定した。デボン紀の炭酸塩岩は低い含有量 (平均1.8ppm S) と高いδ34S 値 (平均+30.9 ‰) を示した。この δ34S 値は上部デボン系に与えられる一般値+24.1 ‰ より高い。一方上部石炭系の値は +25.7 ‰ であり、これも一般値 +15.7 ‰ よりも高く、華南の炭酸塩岩類の SSS のδ34S 値は世界のその他の地域と比べて一般に高い値を持つと言えるが、今後のさらなるデータの蓄積が必要である。SSS 硫黄含有量は現世の炭酸塩岩の含有量 (0.1 〜1 %S) よりも著しく低い。以上の結果から西華山鉱床は +2‰ 前後の δ34S 値を持つ花崗岩マグマから分離した熱水から生成したが、柿竹園鉱床の主要部分と黄沙坪鉱床は母岩の炭酸塩岩類の SSS が続生作用や花崗岩類の貫入に伴う熱水鉱化変質作用により溶出し、鉱床に移動・濃集したものと推察される。