活断層・古地震研究報告 トップへ

平成8年度活断層調査の成果概要

花折断層琵琶湖西岸断層系生駒断層奈良盆地東縁断層系
金剛断層系桑名断層上町断層系糸魚川-静岡構造線活断層系

花折断層

   花折 (はなおれ) 断層は京都市市街地北東部から滋賀県今津町まで、北北東方向に約45 kmにわたって延びる活断層である。これまでの地形学・地質学的研究により本断層が右横ずれの変位成分を持つことは判明していたが (吉岡敏和, 1986; 地理評)、その活動性や活動履歴について十分なデータは得られていなかった。本断層において3カ所でのトレンチ発掘調査等を実施した結果、断層で切られている地層から460±60 14C年、断層を覆う地層から360±60 14C年の年代が得られ、少なくとも花折断層の北部は寛文2 (1662) 年の地震の際に活動した可能性が高いことが判明した。これに対し、断層の南部での最新活動時期は縄文時代後期 (約3,500年前) 以降と判明したが、その時期を特定するには至らなかった。しかし、古文書の地震被害記録などから判断すると、花折断層の南部が寛文2年の地震に伴って活動したとは考えにくい。また断層の南部に当たる京都市北白川上終町では、2,500±80 14C年の腐植層を切る同断層が、古墳時代後期〜平安時代初期と推定される土層に覆われていたことが報告されている (石田志朗, 1967; 地球科学)。これらのことから、花折断層の活動履歴は断層の南部と北部で異なる可能性が高いことが明らかになった。

今出川トレンチ (京都市内) の南側壁面に露出した花折断層。<br /> 縦糸は1m間隔で張られている。
今出川トレンチ (京都市内) の南側壁面に露出した花折断層。
縦糸は1m間隔で張られている。

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琵琶湖西岸断層系

   琵琶湖西岸断層系は膳所 (ぜぜ) 断層、比叡断層、堅田断層、比良断層、拝戸 (はいど) 断層、上寺断層、饗庭野 (あいばの) 断層および琵琶湖西縁の湖底断層などからなる南北約55 kmの活断層系である。寛文2 (1662) 年の大地震は琵琶湖西岸地域に大被害をもたらし、同断層系が活動した可能性が指摘されている (寒川・佃, 1987; 地質ニュース / 大長・松田, 1982, 萩原尊禮編「古地震」)。しかし、この説を裏づける地質学的データは乏しく、詳細な検討が必要とされてきた。本研究では、同断層系の活動性と活動履歴、および地下構造の解明を目的として反射法弾性波探査、ボーリング、トレンチ調査、湖域での音波探査及びコアリングなどを実施した。ボーリング調査の結果、琵琶湖西岸断層系 (湖底の断層を除く) の平均上下変位速度は約1.5 m/1,000年と見積もられた。またトレンチ調査や湖域での音波探査、コアリング調査の結果、10,000 14C年前以前の複数回の活動イベントと、2,000〜3,000 14C年前またはそれ以降に生じた1回以上の断層活動が認められた。残念ながら、現時点では最新活動時期を特定するに至らず、断層系の全域が同時に活動したかどうかも不明である。また今回の調査では寛文地震の際に琵琶湖西岸断層系が活動したことを積極的に示す地質学的証拠は得られなかった。これらの問題点をさらに明らかにするために、平成9年度に補備調査を実施する。

弘川地区トレンチの壁面に露出した低角逆断層(餐庭野断層)。網目間隔は1m
弘川地区トレンチの壁面に露出した低角逆断層 (餐庭野断層)。網目間隔は1m。

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生駒断層

   生駒 (いこま) 断層系は大阪平野と生駒山地の境界に位置する南北走向、東側上がりの逆断層と考えられきた (前田昇, 1965; 大阪学芸大紀要)。同断層系は北から交野断層、枚方撓曲 (とうきょく)、豊野断層、生駒断層、玉手山断層および誉田 (こんだ) 断層からなり、全長は約30 kmに達する (活断層研究会, 1991; 新編日本の活断層)。誉田断層については、5世紀築造とされる誉田山古墳の中堤の段差などから永正7 (1510) 年の摂津・河内の地震の際に活動した可能性が指摘されている (寒川旭, 1986; 地震)。一方、他の断層の最新活動時期や再来間隔に関するデータはほとんど得られていなかった。そこで地形・地質調査、反射法弾性波探査、ボーリングおよびトレンチ調査を平成8年度に実施した。現在まで以下の成果を得た。

  1. 生駒山地と大阪平野の地形境界に沿う逆断層 (狭義の生駒断層) の西には低角度の逆断層と撓曲が伏在する。
  2. 八尾地区の沖積面下に伏在する断層の平均上下変位速度は約0.12 m/1,000年である。また誉田断層の平均上下変位速度は埋没段丘面の変位量から約0.2 m/1,000年と見積もられる。
  3. 四条畷地区における生駒断層の最新活動は約2,000 14C年前と約1,20014C年前 (ほぼ奈良時代) の間と考えられる (下図参照)。また東大阪地区では約14,000 14C年前以降に少なくとも1回の断層活動が生じた。
  4. 羽曳野地区では断層を確認するに至らなかったが、古墳時代後期以降に生じたとみられる液状化跡を認めた。この液状化の発生時期は誉田山古墳に残された地変と時代的に重なる。

   これまでのところ、生駒断層と誉田断層の最新活動が同時期か否かを決定する確定的な証拠は得られていない。両断層が同時に活動したと仮定すると、それは古墳時代後期〜白鳳時代 (5世紀後半〜7世紀) と推定される。一方、誉田断層の最新活動は永正7年の地震に対応する可能性もある。今後、考古学的手法を取り入れ、こうした問題の解決を図る必要がある。

四条畷地区トレンチ北側壁面に出現した低角逆断層
四条畷地区トレンチ北側壁面に出現した低角逆断層。
中央下部右側の黒色砂礫層に右手 (東) から大阪層群の褐色砂層がのりあげている。縦糸の間隔は1m。

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奈良盆地東縁断層系

   奈良盆地東縁断層系は奈良盆地と大和高原を境する南北走向、東傾斜の逆断層群である。これらの活断層の詳細な記載と平均変位速度の検討は寒川ほか (1985; 第四紀研究) により行われ、奈良市街北部の奈良坂撓曲 (とうきょく) と、奈良市街南方から天理市街にかけて延びる天理撓曲に更新世後期の活動 (平均変位速度 : 0.1〜0.2 m/1,000年) が認められている。しかし奈良盆地東縁断層系では歴史時代の地震活動は知られておらず、古地震学的調査研究は従来全く行われていなかった。本断層系は奈良市とその南北の人口集中域に位置し、防災上重要である。そこで、その活動様式と活動履歴を明らかにすることを目的に総合調査を実施した。この結果、活断層としてすでに記載されていた天理撓曲に加え、その西側約1 kmの奈良盆地地下に伏在断層 (帯解おびとけ断層: 新称) が存在することが明らかになった。2つの断層はいずれも東傾斜50〜60度の逆断層であり、中期更新世に活動を開始してからの累積変位量は両者を合わせて約150 mである。天理撓曲は約10,000年前以降、奈良時代以前に少なくとも1回の断層活動を行ったと考えられる。帯解断層については姶良丹沢テフラ (AT; 25,000年前) の降下以前の活動が推定された。ボーリング調査と反射法地震探査の結果から、同断層の完新世における活動も推定されたが、具体的には確認できていない。

反射法地震探査によるカラー反射断面(深度変換断面)
反射法地震探査によるカラー反射断面 (深度変換断面)

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金剛断層系

   金剛断層系は奈良盆地西縁からその南西方にかけてJ字状に分布する活断層系で、全長約18 kmである (活断層研究会、1991; 新編日本の活断層/水野ほか、1994; 中央構造線活断層系近畿地域ストリップマップ地質調査所/岡田ほか, 1996; 都市圏活断層図「五條」国土地理院)。本研究では以下のような成果を得ている。金剛断層中部での調査結果によれば、この断層は約2,000 14C年前またはそれ以降(1,60014C年以前の可能性もある)に活動したことがわかった。また金剛断層北部の断層露頭を中心とした調査結果 (下図参照) から、この活動は少なくとも約800 14C年以前の可能性が高い。山田トレンチで発見された2層準の噴砂のうち、新期のもの (4,50014C年前〜中世) はこの断層活動に対応する可能性がある。また大屋トレンチで認められた2層準の液状化のいずれかがこの断層活動と関連する可能性もある。ただし奈良県では南海トラフ沿いの巨大地震による震度はV程度に達し、家屋に被害を生じた。また吉野地震 (昭和27年) のような深い震源 (約60km) の地震でも死者を含む被害が生じた。したがってトレンチ調査で発見された液状化現象はこの種の地震で生じた可能性もある。金剛断層系の活動履歴をより詳細に解明するためには、断層露頭において断層の走向方向への掘削をも含む3次元的なトレンチ調査を実施するのが効果的と考えられる。このようなトレンチ調査により最新活動時期を限定するデータや年代試料の取得が期待される。また、もう1つ前の活動時期や1回の断層活動による変位量を解明できれば、この断層系の活動間隔や発生する地震の規模の見積もりも可能であろう。

金剛断層中部の断層露頭スケッチ
金剛断層中部の断層露頭スケッチ

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桑名断層

   桑名断層は中部日本を横切る大活断層系 (柳ケ瀬-養老断層など) の南東部に位置し、全長は約18 kmである。その北西方には養老断層が、南西方には四日市断層が連なり、これらは全体として濃尾傾動地塊の西縁を画する。太田・寒川 (1984; 地理評) は、桑名断層が更新世前〜中期東海層群や同中〜後期段丘面群に累積的な変位を与えていることを明らかにし、第四紀後期の活動度はB級に相当するとした。その後、粟田・吉田 (1991; 活断層研究) は、断層が約6,000 14C年前以降に形成された完新世段丘面を10 m以上変位させていることを指摘した。また杉山ほか (1994; 柳ヶ瀬-養老断層系ストリップマップ地質調査所) は変位した完新統の一部が1,840 14C年前であることを報じた。これまでの調査結果や既存資料から、撓曲部を含めた桑名断層の更新世後期〜完新世における活動性は次のように推定できる。

  1. 中位段丘堆積物もしくは御岳第1テフラ、あるいは熱田層上部・下部の境界層準を基準とした桑名断層の上下変位量は、南部の埋縄地区で85 m以上、大山田地区では128 m以下、北端部の多度付近では160 m以上で、北部ほど大きい傾向を認める。これらの地層の年代を80,000〜100,000年前とすると同断層の第四紀後期における平均上下変速度は約1〜2 m/1,000年である。
  2. 断層の北部ほど変位量が大きいことは、桑名断層が単独で断層セグメントを構成しているのではなく、北西方の養老断層とともにより大規模な断層セグメントをなしている可能性を示唆する。
  3. 桑名断層の北半では、約2,000 14C年前に海水〜汽水環境で堆積した完新世段丘堆積物 (南陽層上部砂層) が標高数m〜約10mに分布する。このことは最近約2,000年間に桑名断層では最大約10 m、もしくはそれ以上の上下変位が生じたことを示す。
  4. 東汰上北部では、南陽層上部砂層の撓曲構造を不整合に覆う谷埋め堆積物の堆積面と現在の木曾三川氾濫原との間に伏在断層を挟んで約3 mの比高が認められる。したがって桑名断層では、最近の約2,000年間に複数回の断層活動があった可能性がある。

 

汰上測線沿いにおける群列ボーリング調査結果
汰上測線沿いにおける群列ボーリング調査結果
括弧内の数値は14C年代値に基づく地層の推定年代 (y.B.P.)。水平 : 垂直 = 1 : 4

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上町断層系

   上町断層は、大阪の上町 (うえまち) 台地西縁沿いに分布する南北走向、西 (大阪湾側) 落ちの活断層である。本断層に関しては、平成7年度に遠里小野 (おりおの) 橋付近の大和川南岸河川敷において反射法弾性波探査を実施し、断層の南方延長を確認した。平成8年度にはこの結果を承けて、上町断層と和泉市に分布する坂本断層との連続性を確かめるため、堺市内の2測線で反射法探査を実施した。また、従来、ボーリング資料から推定されている住之江撓曲 (上町断層系の一部) の実体を解明するため、大和川最下流部で探査を行った。さらに、上町断層と千里丘陵に分布する仏念寺山断層との連続性を確認するため、大阪市内の神崎川においても探査を実施した。上町断層系の規模 (長さ) の評価堺第2測線で確認された撓曲構造の約3km南 (阪和線北信太しのだ駅東方) では、ボーリング資料から撓曲構造が推定されている (本田ほか、1993; 丘陵地域の応用地質学的特性と課題シンポジウム講演論文集)。したがって、上町断層の南方延長は坂本断層に連続している可能性が高いと判断される。また、神崎川測線での撓曲構造の確認により、上町断層と仏念寺山断層との連続性も改めて確かめられた。以上の調査結果から、仏念寺山、上町、坂本の3断層は、一連の活断層系を形成していると考えられる。更に、都市圏活断層図「岸和田」(岡田ほか、1996;国土地理院) によると、坂本断層の南には右雁行して、久米田 (くめだ) 池南方に達する活断層が存在する。したがって、仏念寺山断層の北端から、久米田池南方までの上町断層系全体の長さは約43 kmに達すると考えられる。

大和川測線の反射断面(深度変換断面)
大和川測線の反射断面 (深度変換断面)。鉛直誇張 : 約2倍。

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糸魚川-静岡構造線活断層系

   地質調査所では、平成6年度および7年度の工業技術院特別研究「活断層による地震発生ポテンシャル評価の研究」の一環として、糸魚川-静岡構造線活断層系の4地点でトレンチ発掘調査を実施した。この成果は、昭和61年以降継続している糸魚川-静岡構造線活断層系関連の調査研究の成果 (奥村ほか、1994; 地震) と共に、同活断層系の地震危険度評価を行う上での基礎的な資料となった。しかし、従来の成果だけでは、糸魚川-静岡構造線活断層系の長期予測について、十分な時間・空間的精度を実現することは困難なため、引き続き過去の地震発生時期や活動領域についての分解能の高いデータを収集する必要がある。このため、平成8年の重要活断層の補備調査として、糸魚川-静岡構造線活断層系の松本盆地東縁断層 (池田町堀之内地区) と牛伏寺断層 (松本市中山地区) のトレンチ調査を実施し、併せて諏訪湖の湖底ボーリングを実施した。更に、糸魚川-静岡構造線活断層系の活動との関連が考えられる長野盆地西縁断層系の長丘断層 (飯山市蓮 (はちす) 地区) のボーリング調査を実施した。糸魚川-静岡構造線活断層系牛伏寺断層・中山トレンチでは、2700±60 14C年前以降、少なくとも3回の断層活動が認められ、牛伏寺断層に関する従来の活動履歴調査結果と整合し、これを補強するデータが得られた。また、松本盆地東縁断層・池田トレンチでは、最新活動以前の約3,000 14C年前の断層活動の証拠が見出された。この断層活動の時期は、神城断層・白馬トレンチで認められた最新活動の1つ前の活動の時期と一致する。諏訪湖と飯山市蓮地区では、断層活動の時期を高精度に決定するためのボーリング調査を実施し、現在、各種の分析・測定を実施中である。

中山Bトレンチ南側壁面の状況
中山Bトレンチ南側壁面の状況
図中の数値は暦年補正を施さない放射性炭素同位体年代。

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