地質調査総合センター研究資料集、 no. 611

地質標本館所蔵鉱物の高波長分解能反射スペクトルデータ
High-resolution reflectance data of minerals deposited in the Geological Museum, AIST

坂野靖行*1、古宇田亮一*2
Yasuyuki BANNO*1 and Ryoichi KOUDA*2

*1産業技術総合研究所地質標本館,*2 産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門
*1Geological Museum, AIST, *2 Institute for Geo-Resources and Environment, AIST

内容紹介:

1.はじめに
次世代地球観測衛星に搭載予定のハイパースペクトルセンサで得られるスペクトルデータの有効利用につながる鉱物の反射スペクトルを収集・整理するため,地質標本館所蔵鉱物の反射スペクトルを高波長分解能で測定した.
 本研究資料集は産総研と宇宙システム開発利用推進機構との共同研究(H25年度)「ハイパースペクトルセンサ・データに関する研究」の成果の一部である.共同研究先である宇宙システム開発利用推進機構の鹿志村修様,加藤雅胤様,また実際の計測を担当されたJX日鉱日石探開株式会社の三箇智二様,丸山亮様,森下智弘様,俣野米治様には大変お世話になり,厚く感謝申し上げる次第です.

2.ターゲットとなる鉱物の選定方法
反射スペクトルの特徴の有無及び天然での鉱物の出現頻度の2点を基に評価付けされた優先順位の高い鉱物100種を測定候補としてリストアップした.そのリストを基に地質標本館所蔵標本から測定に適する鉱物84種を選定した.

3.測定の概要
高波長分解能反射スペクトルはFT-NIR(ArcOptix社製FT-NIR Rocket 0.9-2.6)を用いて測定を行った.また,参考データを得るためField Spec Proを用いた測定も行った.
測定時にUSGSライブラリィと比較し、目的とする鉱物であるかの確認を行った.非破壊での測定よりも粉砕処理後に測定した方が良好な結果となったため,多数の標本について粉砕後に測定を行った.最終的には58種(標本個体数としては67)の反射スペクトルデータを取得することができた.
測定された標本の写真撮影を行った.測定された標本からターゲットとなった鉱物の分離作業を行い、分離された標本について無反射板を用いてXRD分析を実施した.これらのデータを測定鉱物の証拠とした.XRD分析の結果,一部試料については他鉱物の混入が認められたが、多くの標本についてはコンタミがほとんどない良好な試料であることが確認された.また、分離標本のうち5g以上分離できたものについては必要に応じて化学組成範囲確認のためXRF分析も併せて実施した.

4.反射スペクトルの分析条件等
4-1.測定に使用した機器の名称・仕様・計測条件
(1) Field Spec Pro (FS Pro)
・測定波長範囲 350~2500nm
350~1000nm 波長分解能3nm サンプリング間隔 1nm
1000~2500nm 波長分解能10nm サンプリング間隔 1nm
・試料の分析領域 有効測定範囲は直径約15mm(付属のコンタクトプローブを使用して測定)
・測定回数 20回/1点×5点/1試料
・校正 H25年度に校正済み(宇宙システム開発利用推進機構実施)

(2) FT-NIR(ArcOptix社製FT-NIR Rocket 0.9-2.6) 冷却しないタイプ
・測定波長範囲 900~2600nm (実効1300~2500nm)
・分解能 8cm-1 (1.6nm@1400nm 2.6nm@1800nm 4.2nm@2300m)
カタログでは4cm-1であるがS/Nが悪くなるため8cm-1で使用(固定)
・試料の分析領域 ファイバー先端から2mm程度の距離で直径2mm程度(2mm以上離して測定すると、S/Nが悪くなる)
・測定回数 20回/1点×5~10点/1試料(分析領域が狭いためFS Proよりも多くの点で測定)
・校正 6種類の標準反射板にて校正を実施
・その他
 (a) ファイバーはクランプにより保持させ,測定中のブレを防いだ.
(b) 測定のゲイン:Highを選択.
(c) 測定データを8cm-1から2nm間隔に線形に変更.
(d) データの平滑化:試料代表値(4-2参照)を2nm毎に前後20nmの区間値を用いて4次の多項式適合法により,データを置換(ノイズがやや目立つため).

4-2.両測定機器共通の分析条件等
・測定波長の精度検証のため、パイロフィライト等の吸収ピークが鋭い鉱物を用いて、吸収位置の校正を実施した.
・極力他の鉱物の混入を防ぐため、試料に近接した位置(FS Proでは試料に接触させて,FT-NIRでは試料-ファイバ先端の距離を2mm程度に保持して)で測定を行った.
・データの平均化の方法は以下の通り.
①20回/1点のデータから異常値を目視で除去し,平均化(1点の代表値).
②5~10点で測定した①の1点の代表値を比較し,特徴の類似するデータで平均し,試料代表値とした.
・試料はラボジャッキ上に定置させ,上下位置の微調整を行った.
 ・ラボジャッキ上での標本固定には,ラップにくるんだ(小麦)粘土を使用した.

5.反射スペクトルデータファイルの構成
データはエクセルファイルにて取りまとめた.このファイルは本webサイトよりダウンロード可能である.データセットはindex用エクセルファイル(ファイル名:地質標本館試料NIR反射スペクトルデータベース.xlsx)と各鉱物のdata用エクセルファイル群(フォルダdatabase内にある67のエクセルファイル)から構成される.
以下に,エクセルファイルに掲載されている項目を示す.

index用エクセルファイル(地質標本館試料NIR反射スペクトルデータベース.xlsx)の項目
(1) 鉱物名(和名)
(2) 鉱物名(英名)
(3) 標本番号 *注意:数字のみで表記されているが実際の登録番号は先頭に「GSJ M」が加わる.以下の例の様に読み替えてください.例 42073→GSJ M42073
(4) 反射スペクトル(FS Pro, FT-NIR)測定時の標本状態(塊状,粉砕,その他)
(5) FT-NIR生データ
(6) 標本試料記載

項目(3)をクリックすると,data用エクセルファイルが開き,以下の付帯情報が表示される.
鉱物名,組成式*1,結晶系,類,族または系列等,測定標本(出所,標本番号*2,産地,写真,備考),測定時の標本状態,分析項目,(比較可能な)USGS標本番号
注意
*1:理想組成式です.実際に分析された組成ではありません.
*2:数字のみで表記されているが実際の登録番号は先頭に「GSJ M」が加わる.以下の例の様に読み替えてください.例 42073→GSJ M42073

項目(4)をクリックすると,data用エクセルファイルが開き,FS Pro及びFT-NIRで測定された反射スペクトルデータ(図及び表)が表示される.

項目(5)をクリックすると,data用エクセルファイルが開き,FT-NIR生データ(表)が表示される.

本研究資料集の内容はgsj_openfile_611.zip(28.1MB)でみることが出来ます。
*ダウンロードした zip ファイルを展開(解凍)後、index用エクセルファイル(地質標本館試料NIR反射スペクトルデータベース.xlsx)を開いて下さい。

受理日:2014年12月9日

December 9, 2014

引用例:

坂野靖行,古宇田亮一 (2014)地質標本館所蔵鉱物の高波長分解能反射スペクトルデータ.地質調査総合センター研究資料集 no. 611,産業技術総合研究所地質調査総合センター.
Yasuyuki BANNO and Ryoichi KOUDA (2014) High-resolution reflectance data of minerals deposited in the Geological Museum, AIST. GSJ Openfile Report, no. 611, Geol. Surv. Japan, AIST.