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地質調査研究報告 Vol.75 No.4(2024)

表紙

新第三紀における日本の淡水湖沼生の中心類珪藻の産出年代

新第三紀における日本の淡水湖沼生の中心類珪藻の産出年代 新第三紀における淡水湖沼生の中心類珪藻の産出年代は,これまでは主に日本各地に点々と分布する湖成堆積物中に含まれている珪藻化石の研究によっておおまかな推定がなされてきた.しかし,最近,本号に掲載された柳沢ほか(2024)の研究のように,海成堆積物に保存された淡水生珪藻化石や,火山灰層中に取り込まれた淡水生珪藻化石に着目した研究が進み,これらの情報を加えることによって,従来よりも精密な産出年代が判明しつつある.

(図と文:柳沢幸夫)

目次

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タイトル著者PDF
論文
棚倉堆積盆東縁の里美地域に分布する中新統の珪藻化石年代とU‒Pb 年代  柳沢幸夫・細井 淳 75_04_01.pdf [3MB]
茨城県日立市南部の久慈町離山に分布する新第三系多賀層群と日立層群の層序と珪藻化石 柳沢幸夫・安藤寿男・櫛引 碧 75_04_02.pdf[5.5MB]

要旨集

棚倉堆積盆東縁の里美地域に分布する中新統の珪藻化石年代とU‒Pb 年代

柳沢幸夫・細井 淳

 これまで年代データがほとんどなかった棚倉堆積盆東縁の里美地域とその周辺に分布する中新統について,珪藻化石層序分析とジルコンのU–Pb年代測定を行った.里美地域の中新統は赤坂層と長谷層からなる.一方,隣接する中央破砕帯地域には(東金砂山ひがしかねさやま)層とその部層である(龍黒磯たつくろいそ)泥岩部層が分布する.赤坂層中部に挟在する凝灰岩からは13.0 ± 0.4 MaのU–Pb年代が得られた.長谷層からは,北太平洋珪藻化石帯区分のNPD5B帯中部~上部の珪藻化石が産出し,本層が12.4–11.6 Maの期間に堆積したと推定された.一方,龍黒磯泥岩部層ではNPD3A帯最上部,NPD3B帯及びNPD4A帯最下部の珪藻化石帯が認められ,この堆積物が16.7 Maから15.6 Maの間に堆積したことが判明した.本研究によって明らかになった年代データによって,里美地域の中新統を,大子・常陸大田・東棚倉地域の中新統に正確に対比することが可能となった.

茨城県日立市南部の久慈町離山に分布する新第三系多賀層群と日立層群の層序と珪藻化石

柳沢幸夫・安藤寿男・櫛引 碧

 茨城県日立市南部の久慈町離山地区に分布する新第三系の珪藻年代分析を行った.この地区の新第三系は,下位より堆積間隙で区切られたユニット1~4に暫定的に区分される.ユニット1(珪藻質泥岩)は珪藻区間NPD5C3から5D1最下部(10.2–9.9 Ma)に相当する.ユニット2 は砂質泥岩・泥岩とスランプ堆積物や水中土石流堆積物からなり,NPD6A帯(9.3–8.7 Ma)に属する.ユニット3 は多数の凝灰岩層を挟む凝灰質の泥質砂岩で,珪藻区間NPD6B1(8.7–8.5 Ma)に対比される.ユニット4(泥質砂岩)はNPD7Ba帯(6.5–5.6 Ma)の珪藻化石を含む.ユニット1は多賀層群の国分層の延長部と考えられる.ユニット2と3は海底谷埋積物である長谷層に,またユニット4は同様に海底谷埋積物である久米層に属すると判断される.本地区の凝灰岩層または泥質岩から産出した淡水湖沼生珪藻は,淡水湖沼生珪藻の長期的な変遷を明らかにする貴重な記録である.また,ユニット3から報告された長鼻類の臼歯化石は,中新世中期から中新世末までの長期に及ぶ日本における長鼻類化石記録の欠落を埋める重要な化石であったことがわかった.