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地質調査研究報告 Vol.64 No.7/8 (2013)
表紙
東方より望む無意根山
北海道南西部に位置する無意根山は標高1464mのピークを持ち,鮮新世に形成された安山岩火山である.本火山活動に伴い,豊羽多金属(Zn, Pb, Ag, Cu, Sn 及びIn) 鉱脈鉱床を始めとする数多くの熱水性脈が形成された.また本火山-熱水系は中新世の火山-熱水系に重複して分布していることが知られている.熱水性脈石英の酸素同位体比を分析し,既存の地質環境復元データ及び流体包有物研究データと併せて熱水の起源を精査したところ,鮮新世と中新世の熱水の間で明瞭な差異が得られた.詳細は研究論文(本号)を参照されたい.
(写真・文:清水 徹)
目次
全ページ PDF : 64_07_full.pdf [7.5MB]
タイトル | 著者 | |
---|---|---|
論文 | ||
Oxygen isotopic study of vein quartz in Neogene-Quaternary overprinting hydrothermal systems in the Toyoha-Muine area, Hokkaido, Japan | Toru Shimizu | 64_07_01.pdf [2.8MB] |
1946 年南海地震前の四国太平洋沿岸の上下変動曲線 | 梅田康弘・板場智史 | 64_07_02.pdf [1.1MB] |
概報 | ||
徳島県南部,大木屋崩壊地の地形・堆積物の特徴と形成時期の推定 | 植木岳雪 | 64_07_03.pdf [1MB] |
資料・解説 | ||
新開発乾式法による脆弱岩石試料の薄片・研磨薄片製作 | 大和田 朗・佐藤卓見・平林恵理 | 64_07_04.pdf [3.3MB] ※訂正(平成25年11月18日) |
要旨集
北海道豊羽- 無意根地域における
新第三紀- 第四紀重複熱水系 脈石英の酸素同位体の研究
清水 徹
熱水の起源を明らかにするため,CO2レーザーマイクロプローブ法を用いて,豊羽-無意根地域の脈石英の酸素同位体の研究を行った.得られた石英の酸素同位体比データと既存の流体包有物研究によって得られた形成温度データを用いて,脈形成期の熱水の酸素同位体比は,-10〜1.0‰と計算された.脈形成に関与した熱水系の年代値データと併せると,その酸素同位体比は,-6.3〜1.0‰(中期〜後期中新世)及び-10.6〜-6.7‰(鮮新世〜更新世)という二つの形成時期に分類された.既存の地質環境復元データに基づくと,中期〜後期中新世の熱水の酸素同位体比は,天水,海水及びマグマ水が様々な割合で混合して熱水が形成されたことを示す.一方,鮮新世〜更新世の熱水の酸素同位体比は,天水とマグマ水が混合して熱水が形成されたことを表すが,天水の割合が高かったことを示す.
1946 年南海地震前の四国太平洋沿岸の上下変動曲線
梅田康弘・板場智史
四国太平洋沿岸における11 か所において,地理調査所(現在の国土地理院)による水準点測量成果と水路局(現在の海上保安庁海洋情報部)による資料を組み合わせて,1946 年南海地震直前までの地殻の上下変動曲線を求めた.水路局の資料のうち,「調査値」は地震時の上下変動量であるが,これは地震の前と後の潮位差を目視調査することによって得たもので,地震の前の何時の潮位と比べたかは不明である.本論では,この「調査値」の時刻を,潮位記録と目撃証言から推定した.後者については,目撃された井戸の水位低下量を土地の変動量に換算し,変動量の最大と最小から調査値の時刻の範囲を求めた.潮位記録から推定された時刻は,証言から求められた時刻の範囲内に収まることから,調査値の時刻は本震前日とその前の大潮時の満潮の間と推定した.最終的にはその中間の満潮時である12 月14 日11 時(本震の6.7 日前)を,本震前に調査値が得られた時刻と決定した.調査値の時刻が定められたことにより,本震直前までの上下変動曲線を描くことができ,それを表現する近似関数も決定することができた.
徳島県南部,大木屋崩壊地の地形・堆積物の特徴と形成時期の推定
植木岳雪
本研究では,徳島県南部,海部郡海陽町大木屋の海部川上流部にある面積約8.6 haの古期崩壊地を大木屋崩壊地と呼ぶ.崩壊堆積物は角礫から構成され,再堆積したローム層と腐植土層に覆われている.ローム層中の埋没腐植土層は4,050±40 yrs BPのAMS14C年代を示し,ローム層全体は姶良Tnテフラ(AT)の火山ガラス片を含む.これらから,大木屋崩壊地は2.6~2.9万年前のAT降下以前に発生したと考えられる.崩壊発生後の海部川上流部の平均下刻速度は,1.0 mm/年以下と見積もられる.
新開発乾式法による脆弱岩石試料の薄片・研磨薄片製作
大和田 朗・佐藤卓見・平林恵理
硫黄・粘土・塩分・水分等を含む脆弱・不安定試料の, 分析電子顕微鏡用試料として用いることが可能な精度の高い薄片を作製する新たな方法(乾式)を開発した. 難試料に対する従来の作製方法(湿式)の問題点として, 潤滑,洗浄を目的とした水,エタノール,油等の液体の使用があげられる。これらの液体は, 冷却,潤滑,洗浄を目的として使用されているが, 先述のような難試料の場合, 脱落や収縮,膨潤の原因となり、試料を破壊し, 作製過程で試料が本来もっている情報が失われる問題があった. 今回開発された乾式法では、切断・研磨時の液体不使用及び摩擦熱の抑制により試料破壊を防ぎ、より情報量の多い薄片を作製することが可能となった. また、作製過程における試料への負荷が少ないだけではなく, 硬さの異なる鉱物を含む岩石や様々な試料にも対応できる方法であり, より強力な研究支援が期待される.
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