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地質調査研究報告 Vol.61 No.1/2 (2010)

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表紙

松山 GPS 観測局

松山 GPS 観測局

愛媛県松山市松山総合公園内に設置された、産総研地質調査総合センターの GPS 連続観測システムの観測局。右側に見えるピラーに GPS 受信機やアンテナが収納されている。真ん中やや左の柱は電話線用の支柱である。

(写真 : 佐藤  努、文 : 大谷  竜)

目次

タイトル著者 PDF
論文
物理定数から見た白亜紀 -古第三紀花崗岩類- その3. 足尾帯 (関東地方北部) 金谷  弘・大熊茂雄 (1-15) 61_01_01.pdf [2 MB]
西南日本外帯の大崩山、豊栄鉱山、高隈山中新世花崗岩類の化学組成 石原舜三・ブルース W. チャペル (17-38) 61_01_02.pdf [5 MB]
長野県南部、中新世根羽火山群の分布と活動様式 坂本正夫・高田  亮 (39-56) 61_01_03.pdf [5 MB]
概報
産総研地質調査総合センターにおける新 GPS 連続観測システム 大谷  竜・塚本  斉・佐藤  努・木口  努・重松紀生・板場智史・北川有一・松本則夫・高橋  誠・小泉尚嗣 (57-74) 61_01_04.pdf [4 MB]
水文環境図の編集指針 -ユーザーが求める情報を提供するために- 町田  功・伊藤成輝・内田洋平・井川怜欧・丸井敦尚・田口雄作 (75-83) 61_01_05.pdf [1.5 MB]

要旨集

物理定数から見た白亜紀 -古第三紀花崗岩類-  その3. 足尾帯 (関東地方北部)

金谷  弘・大熊茂雄

   本報では、東日本ですでに報告を行った、北上山地、太平山地域、栗駒-鳴子地域、村上地域 (その1. 東北地方北部 ; 金谷・大熊、2003)、それに阿武隈山地 (その2. 東北地方南部 ; 金谷・大熊、2007) を除く新潟、山形、福島、栃木、群馬そして茨城県下、いわゆる足尾帯 (一部上越帯を含む) に露出する花崗岩質岩約 303 露頭から採取した試料について報告する。ついで、これまでの結果 (金谷・大熊、前出) と合わせ東日本に露出する白亜紀-古第三紀花崗岩類について概観した。
   ここでは関東北部から新潟・山形県 (北緯38度10分) に到るいわゆる足尾帯を、新潟・山形・福島県下 (北部)、福島・群馬・栃木県下 (南部・上越帯を含む) それに茨城県下 (南東部、八溝・筑波山地) の3つに分け考察した。求めた物理定数は当地域の岩石密度、孔隙率、磁化率そして Qn 比であるが、岩石磁化率については 303 試料中例外的な 5 サンプルを除き殆どの岩石試料は低い値 (1x10-2SI 以下) を示した。
   また、東日本でこれまでに測定された磁化率について、磁化率の強さを決める指数の1つと考えられている酸化比 (oxidation ratio) を用いこれらを比較した。この結果、花崗岩質岩類が示す磁化率の強度は全鉄には相関を示すものの、酸化比との相関は極端に悪く、個々の試料について両者の関係を論ずることはかなりの困難を伴う。このことは磁化率を決める重要な要素が他にも存在している事を意味しているものと考えられる。

西南日本外帯の大崩山、豊栄鉱山、高隈山中新世花崗岩類の化学組成

石原舜三・ブルース W. チャペル

   西南日本外帯に属し四万十帯北帯に貫入する中新世のチタン鉄鉱系火成岩類から、大崩山のリング岩脈3試料、大崩山花崗岩体21個、豊栄鉱山地区の花崗岩類8個、高隈山花崗岩体7個の化学分析を偏光蛍光X線分析装置によって実施した。これら火成岩類はその産状から貫入岩体浅成部を示しているものと考えられ、同じチタン鉄鉱系からなり深成部を代表する領家帯花崗岩類との比較は興味深く、次の結果を得た。
   検討した西南日本外帯花崗岩類は、中部地方の領家帯花崗岩類と較べて次の成分で低い値を示す : Al2O3、Ba、CaO、Sr、A/CNK、P2O5、Zn と Cr。一方、西南日本外帯花崗岩類は次の成分で中部地方の領家帯花崗岩類よりも高い値を示す : Gax10000/A、K2O、Rb、Pb、Na2O、MgO、TiO2、V、Y、La、Ce、Th、U、Nb、Ta、Zr と Sn。これらの相違点は主としてマグマの源物質が異なるために発生した固有の性格と考えられる。両地帯の花崗岩類の最も著しい相違点は、西南日本外帯花崗岩類の高シリカ花崗岩における Rb、Pb、Y、Th、U などの著しい濃集にあって、これはマグマの結晶分化作用の程度の違いに起因するものと考えられる。
   ジルコンの飽和温度は、リング岩脈の斑岩で 859℃ (70.3% SiO2)、大崩山岩体下部の花崗閃緑岩で 774℃ (68.4% SiO2)、他方、最上部の優白花崗岩キャップでは 750℃ (74.8% SiO2) で少し低い。高隈山花崗岩体は主岩相で 738℃ (73.8% SiO2)、周辺部の優白花崗岩でやや低い 695℃ (76.3% SiO2) が得られ、共に産状と調和的である。高隈山花崗岩体は従来 S タイプと考えられていたが、レスタイト的なアルミナ珪酸塩鉱物を含まず、A/CNK は 1.1 を越えず、K2O 含有量も少ないから、珪長質 I タイプとみなす方が良いものと思われる。

長野県南部、中新世根羽火山群の分布と活動様式

坂本正夫・高田  亮

   長野県根羽村に中新世に活動した火山群を記載し、根羽火山群と呼び火山活動の復元を行った。火山の山体は侵食によって消滅し、基盤岩に残された火道及び岩脈が多数出現している。基盤岩が熱変質を受けた火道集中域では、火砕岩層が残存するとともに5ヶ所の火道が確認でき、周辺の火砕岩類との関係も含めて3回の噴火サイクルが確認できた。特に、最初期の火山活動によって形成された可能性のある火砕岩層が火道集中域の周辺に残っている。当時の火道集中域は、長径約900m 短径約700m の範囲にあり、最大の深さ約600m まで基盤岩を吹き飛ばしたもので、現在はその当時の面が現れている。火道集中域の南東には桧原川断裂帯があって多数の単成火道が直線状に分布し、火道集中域の北東一帯にはいくつかの岩脈が貫入している。

産総研地質調査総合センターにおける新GPS連続観測システム

大谷  竜・塚本  斉・佐藤  努・木口  努・重松紀生・
板場智史・北川有一・松本則夫・高橋  誠・小泉尚嗣

   産業技術総合研究所 (以下、産総研と呼ぶ) は、2006年度より四国・紀伊半島〜愛知県にかけて地下水等観測点や GPS 観測局の新設を行っており、これを機に従来の産総研の GPS 観測局と統合した GPS 連続観測システム (以下、GPS システムと呼ぶ) の全面的な更新を行った。本報告ではその概要、及び本 GPS システムを用いて得られる結果について紹介する。まず、全局について Trimble 製の同一型の受信機とアンテナに統一した。また、解析ソフトウエアは Bernese ソフトウエアに切り替えた。これらの結果、従来の産総研の GPS システムの結果に比べ、新解析で推定された GPS 局の変位の再現性の向上が見られた。また、産総研の GPS 観測局だけではなく、周囲にある、国土地理院の GPS 連続観測網 (GEONET) の観測局も一緒に解析を行い、日々の座標値を推定するようにした。この解析方法の導入により、産総研 GPS 観測局周辺の歪を GPS から求めることができるようになった。更に、GEONET の定常解析である F2 解に準拠した解析を産総研の新 GPS システムでも独立に行うことにした。産総研による解析結果と、F2 解で求められた同一観測局の変位を比較した結果、両者の間に大きな差はないことが確かめられた。