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地質調査研究報告 Vol.59 No.1/2 (2008)
特集 : 放射性廃棄物地層処分における熱・熱水の影響評価に関する基礎研究 (その2)
表紙
本研究は高レベル放射性廃棄物の地層処分に係わる熱・熱水の影響評価手法を検討するもので、原子力発電環境整備機構の委託研究として実施した。東北地方をモデル地域に選定し、地形、地質、震源分布、キュリー点深度分布、地下温度分布、温泉分布、熱流量分布、地震波速度分布等のデータを収集し、それらを二次元・三次元可視化ソフトウェアで重合処理を行った。広域的な温度分布や流体流動状況を示唆する各種探査・調査データと地形・地質との対応を検討することで、高温異常域を含む広域地域のタイプ分けを試みた。その結果、5タイプ (前弧側低地、前弧側山地、第四紀火山地域、背弧側低地、背弧側山地) にタイプ分けした。ここに提示した断面図は、ある特定の断面位置を想定したものではなく、東北地方全域の特徴をある架空の断面に総合的に投影させた概念的なものである。各々のタイプ地域の熱及び流体流動の特徴が、熱源や流体流動の定性的な分布パタンとして示されている。
(玉生志郎)
目次
タイトル | 著者 | |
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[総説]「放射性廃棄物地層処分における熱・熱水の影響評価に関する基礎研究 (その2)」の成果概要 | 玉生志郎・阪口圭一・中尾信典 (1-6) | 59_01_01.pdf [376 KB] |
1. 高温地域の地球科学的特性の検討 | ||
[概報] 地質・地球物理データの重合処理による熱・熱水異常地域の抽出 -東北地方と中国・四国地方の例- |
玉生志郎・阪口圭一・佐藤龍也・加藤雅士 (7-26) | 59_01_02.pdf [1,577 KB] |
[論文] 和歌山県本宮温泉地域の中新世貫入岩類の K-Ar 年代と化学組成 | 村岡洋文 (27-43) | 59_01_03.pdf [1,948 KB] |
[概報] 地下温度分布から見た高温地区を含む広域地域のタイプ分け -東北地方と中国・四国地方の例- | 玉生志郎 (45-52) | 59_01_04.pdf [634 KB] |
2. 高温地域の成因の検討 | ||
[論文] 熱・熱水の影響を考慮した広域地下水流動の数値シミュレーション | 中尾信典・菊地恒夫・玉生志郎 (53-64) | 59_01_05.pdf [1,289 KB] |
3. 調査・解析・評価手法の検討 | ||
[概報] 温泉放熱量に基づく熱異常抽出・特性把握方法に関する検討 | 阪口圭一 (65-69) | 59_01_06.pdf [553 KB] |
[概報] 地熱井変質データベースの構築と事例6地域のモデル化による多様な変質環境の検討 | 茂野 博 (71-107) | 59_01_07.pdf [4,829 KB] |
[総説] 電子スピン共鳴法による熱・熱水の影響評価 | 水垣桂子 (109-116) | 59_01_08.pdf [401 KB] |
[概報] 地下水水質の形成過程の基礎的数値解析 | 佐々木宗建 (117-122) | 59_01_09.pdf [510 KB] |
4. 熱・熱水の影響評価のための調査・解析・評価手法 |
||
[総説] 概要調査における熱・熱水の影響評価のための調査・解析・評価手法の提案 | 玉生志郎・阪口圭一 (123-134) | 59_01_10.pdf [788 KB] |
要旨集
「放射性廃棄物地層処分における熱・熱水の影響評価に関する基礎研究 (その2)」の成果概要
玉生志郎・阪口圭一・中尾信典
本報告は原子力発電環境整備機構の委託研究「熱・熱水の影響評価手法に関する検討」、「同 (その 2)」、「同 (その 3)」(原子力発電環境整備機構、2004、2005、2006) として実施した研究成果を、公表論文形式に書き改めたものである。初年度の成果については、既に地質調査研究報告 (Vol.55、No.11/12, 2004) に特集 :「放射性廃棄物地層処分における熱・熱水の影響評価に関する基礎研究」として公表しているので、ここでは 2 〜 3 年目の成果を主に報告する。本研究の目的は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究の一環として、わが国における高温地域の地球科学的特性と成因を把握し、概要調査地区選定及びそれ以降の調査段階における熱・熱水の影響評価を行うための調査・解析・評価手法について検討することである。その過程で、東北地方と中国・四国地方での高温地区を含む広域地域のタイプ分けを行い、それぞれの地域の概念図を作成した。また、サブテーマ毎に検討した研究概要は以下のとおりである。
- 高温地域の地球科学的特性の検討
以下に示すテーマ毎の文献調査及びデータの収集・整理を行った。
(1) 地球科学的特性に関する情報収集及び 2 次元・ 3 次元可視化
(2) 紀伊半島の高温温泉の特性検討
(3) 高温地区を含む広域地域のタイプ分け - 高温地域の成因の検討
高温地域の成因を検討するために、以下の広域流動シミュレーションによる成因の検討を実施した。 - 調査・解析・評価手法の検討
熱・熱水の影響評価における最適な調査・解析・評価手法を確認するために、以下に示す検討を行った。
(1) 温泉放熱量に基づく熱異常抽出・特性把握方法に関する検討
(2) 地熱井変質データベースの構築と事例 6 地域のモデル化による多様な変質環境の検討
(3) 放射年代測定法を用いた地熱系の長期変動解析手法
(4) 流体地化学に基づく熱・熱水の影響評価手法 - 熱・熱水の影響評価のための調査・解析・評価手法
これまでの研究成果を踏まえて、概要調査計画の立案及び概要調査の実施における「熱・熱水の影響評価のための調査・解析・評価手法」を提案した。
地質・地球物理データの重合処理による熱・熱水の異常地域抽出
-東方地方と中国・四国地方の例-
玉生志郎・阪口圭一・佐藤龍也・加藤雅士
非火山性地域の地下での熱・熱水異常の存在状況や成因を明らかにするために、東北地方中北部、北部及び中国・四国地方をモデル地域に選定して、地形、地質、地温、震源、比抵抗、キュリー点深度、重力基盤、 P 波速度などの分布データを収集した。それらの情報はデジタル化後、データベースシステム (G ★ Base) に登録し、同システムの可視化機能で様々な角度から各種情報を比較検討した。その結果、以下のようなことが明らかとなった。1) 深部では、火山フロントより背弧側では高温となり、前弧側で低温となる。背弧側と前弧側では、概して山地域で高温となり低地域で低温となる傾向がある。このような深部の広域的な温度分布は地温勾配、重力基盤深度分布、地震波速度から推定される先第三系基盤岩深度分布、キュリー点深度等温面分布、浅部 P 波速度と整合的である。2) 浅部では、第四紀火山地域で浅所貫入マグマの影響で相対的に高温となる。低地域でも帽岩の影響で多少高温となる。これらの浅部の温度分布は浅部の地温勾配、温泉分布、比抵抗分布、P 波速度構造と相関している。
和歌山県本宮温泉地域の中新世貫入岩類の K-Ar 年代と化学組成
村岡洋文
和歌山県本宮温泉の成因解明のため、その湧出を規制している石英斑岩貫入岩体の K-Ar 年代や化学分析値等を検討した。本宮温泉の熱源は四国海盆拡大軸の沈み込みによる高い熱流量に求められる。K-Ar 年代測定の結果は高山岩株が 14.6 Ma、川湯岩床が 14.4 Ma を示す。化学成分の Q-Or-Ab 系相図から、高山岩株や川湯岩床は深度約 20 km 付近で発生したと推定される。高山岩株や川湯岩床の主成分や微量成分は典型的な S タイ プ花崗岩で、音無川層群の砂岩に類似し、アナテクシスの融解度が限定された条件で、フリッシュ堆積物のうち、砂岩が選択的に融解した可能性を示す。本宮温泉の熱水貯留層は周辺のフリッシュ堆積物に比べて、冷却節理に富み浸透率の高い石英斑岩岩床や岩脈に求められる。地殻熱流量の高い地域に、深度 20 km 程度から地上まで透水体が存在すれば、広範な熱水対流が起こる。これが本宮温泉の成因といえよう。
地下温度分布から見た高温地区を含む広域地域のタイプ分け
-東方地方と中国・四国地方の例-
玉生志郎
既存文献の収集データを用いて、東北地方と中国・四国地方の高温地区を含む広域地域を、その地域の地形、地質の特徴から、それぞれ 5 タイプ (前弧側低地、前弧側山地、第四紀火山地域、背弧側低地、背弧側山地) にタイプ分けを行った。また、東北地方と中国・四国地方で、それぞれの地方を横断する概念モデル断面図を作成した。これらの結果から、各地域における熱・熱水の具体的特徴を記述した。
熱・熱水の影響を考慮した広域地下水流動の数値シミュレーション
中尾信典・菊地恒夫・玉生志郎
北上低地を含む東北地方の東西 120 km にわたる地形を取り込んだ 2 次元断面について、地質データ等を参考にして精緻なモデルを作成し、地熱用の多成分多相流体流動シミュレータを用いた広域流動シミュレーションによる感度解析を実施した。その結果、山岳部地下の熱異常 (高温部) を定性的に再現するためには、一様ではない熱源 (熱流量) を与える必要があることが判明した。また、平野部 (低地) では火山性熱源が直下になくても、地形効果による地下水の対流などにより、50 ℃ 程度の深層熱水が賦存する可能性があることがシミュレーションにより確認された。
温泉放熱量に基づく熱異常抽出・特性把握方法に関する検討
阪口圭一
青森地域、中国地域、四国地域を対象として、深度情報を持つ温泉データから、放熱量の情報を活用できるかどうかを検討した。3 地域間で、深度に対する温度・湧出量・放熱量の関係において違いが認められ、非常に広域を対象とした地域間比較ではあるが、地域の地下特性を捉える上での情報となり得る。温泉の湧出量と放熱量は、地層の透水性に大きく影響されていると考えられ、深度と湧出量・放熱量の関係は、その地域の地層の透水性を反映している可能性が指摘できた。このような地球科学的特性を検討するためには、温泉の温度・産出 (ボーリング) 深度・湧出量・産状が揃っていることが望ましい。
地熱井変質データベースの構築と事例6地域のモデル化による多様な変質環境の検討
茂野 博
新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の地熱開発促進調査で掘削された調査坑井の変質データについて、(1.) 幅広く高度な利用に資する電子データベース化を試みるとともに、(2.) 事例 6 地域について各種の図表化処理を行い、概念的モデル化を通じて変質環境の多様性とその原因を検討した。
- 坑井変質データのデータベース化では、九州 14 地域、本州 21 地域の各報告書について、表計算ソフト (Microsoft 社の Excel) を用いて坑井 (合計 271 本) 毎の深度-変質鉱物分布データを電子表に整理した。しかし、地熱開発促進調査では変質鉱物の分析・表示の方法・仕様が調査地域によって大きく異なっているためデータの総合的な整理が難しく、また北海道 17 地域などについては未作業のため、データベースの一般公開化には今後かなりの年月を要する。本報告では、環境特性の指示性が高い変質鉱物 16 種について、坑井毎の存在度を一覧表に整理するとともに、地域毎の存在度を広域地図上に比較表示して、変質の地域間比較検討を予察的に行った。
- 事例地域の変質環境の概念モデル化では、高温2 地域として「阿蘇山西部」(熊本県)、「八丈島」(東京都)、また比較的低温の 4 地域として「菱刈」(鹿児島県)、「本宮」(和歌山県)、「王滝」(長野県)、「最上赤倉」(山形県) を対象とした。地域毎に坑井検層 (温度・地質・変質) データについて、代表的な坑井の個別柱状表示図、横並び柱状表示図、地図上柱状表示図を、地質調査総合センター (2007) の数値地質図 GT-3 の坑井検層データ処理用プログラム群を使用して作図した。これらの図に基づく 6 地域の概念モデル化の結果は、様々な原因 (地域的な熱源や熱水系の分布・特性、地形・断裂系・岩質分布に規定された不均一な透水構造、気液分離現象に伴う化学的な分化過程など) によって、低温でも多様な変質帯が分布しており、変質調査が非火山性地域の地下環境の把握についても有力な手段となることを示している。
上記の作業と検討は、放射性廃棄物地層処分に係わる「熱・熱水の影響評価手法に関する研究 (2003-2005 年度)」の一環として実施したものである。地層処分可能性地域の調査において、変質調査は過去-現在-未来の熱・熱水環境の解明・評価などの目的で重要であり、上記の検討結果は基礎的な情報としての有効利用が期待される。また、変質情報は様々な地圏分野 (資源開発、環境保全、災害防止、地下空間利用など) で重要であり、基盤的な地球科学情報の一つとして、熱水変質のみならず、熱変質 (変成)、続成変質、風化変質などに関する総合的な電子データベースが今後整備されて、容易に幅広くまた高度に利用可能となることが望まれる。
電子スピン共鳴法による熱・熱水の影響評価
水垣桂子
電子スピン共鳴 (ESR) 法を熱・熱水の影響評価に適用する目的で、低温熱水活動史解析への適用可能性、ESR 信号の温度特性を利用した詳細な温度推定の可能性、熱の影響範囲評価の可能性について、これまでの研究例を総括し今後の課題を抽出した。ESR 法では鉱物の結晶格子欠陥を利用するため、加熱時点だけでなく結晶晶出時も出発点となり、低温熱水活動にも適用できる。測定例としては温泉沈殿物や地下水温で晶出した鍾乳石がある。ESR 信号の種類によっては熱水温度程度に加熱すると増大するものがあり、これを利用して考古遺物の加熱温度を詳細に推定した例がある。また熱水の通路が断裂であれば、断裂から離れる方向に見かけ年代値が古くなるはずであり、これを利用して熱の影響範囲や程度を推定することが可能である。しかし ESR 信号の温度特性について系統的な長時間加熱や冷却過程の実験を行った例はなく、今後の研究が必要である。
地下水水質の形成過程の基礎的数値解析
佐々木宗建
本邦での放射性核廃棄物の地層処分が対象とする花崗岩地域と堆積岩地域に賦存する地下水の水質形成過程を把握する目的で、基本的な流体/岩石反応系に関する地化学的数値解析実験を行った。実験では花崗岩地域の Na-HCO3 型水質と堆積岩地域の Na-Cl 型水質の形成過程などが模擬され、水質への熱の影響も検討された。また、地化学的数値解析手法の流体/岩石反応系のモデリングへの適用における留意点が整理された。
概要調査における熱・熱水の影響評価のための調査・解析・評価手法の提案
玉生志郎・阪口圭一
これまでの原子力発電環境整備機構の委託研究「熱・熱水の影響評価手法に関する検討」、「同 (その 2)」、「同 (その 3)」での研究成果を踏まえて、概要調査計画の立案及び概要調査の実施における「熱・熱水の影響評価のための調査・解析・評価手法」を検討した。適用可能な調査手法、解析手法、評価手法について、調査項目、調査段階、調査地域のタイプ区分に対応させて検討した。調査対象は大きく浅部と深部に区分される。浅部で考慮すべき要件は、広域表層イメージ、広域地質構造、坑井掘削、温度構造、流体流動、透水係数分布、岩石水反応で、一方、深部で考慮すべき要件は、地下深部温度推定、潜頭性熱源と深部熱源、深部断裂である。調査段階は地表調査段階、ボーリング調査段階、将来予測段階に分けられる。広域地域のタイプ分けでは前弧側低地、前弧側山地、第四紀火山地域、背弧側山地、背弧側低地に分けられる。最終的には、上記の考慮すべき要件に対応した調査手法、解析手法、評価手法を、一覧表として取りまとめた。
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