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地質調査研究報告 Vol.56 No.11/12 (2005)

表紙 | 目次 | 要旨集

表紙

栄養細胞の走査型電子顕微鏡写真

海生珪藻 Chaetoceros didymus Ehrenberg 栄養細胞の走査型電子顕微鏡写真 (奥  修博士提供の培養サンプルによる。スケールは10μm)

   珪藻はガラス質の殻を持つ単細胞の植物性原生生物である。多くの珪藻の殻は死後も一部分解されずに堆積物中に保存され、化石として産出するが、本属の栄養細胞の殻は非常に薄く、化石としては保存されない。しかし、その生息する海洋の栄養塩が枯渇したときには休眠胞子と呼ばれる殻の厚い耐性細胞を形成し、堆積物中に化石として保存される。写真に示した C. didymus の休眠胞子化石 (化石形態種名 Gemellodiscus geminus) は、中期始新世から現在まで報告があり、常磐地域及びその周辺の第三系中にも多産する。

(須藤  斎)

目次

タイトル著者PDF
論文
常磐地域及びその周辺の第三系の地質と年代層序 須藤  斎・柳沢幸夫・小笠原憲四郎 (375-409) 56_11_01.pdf [2,168 KB]
新潟県糸魚川市海川周辺地域に分布する鮮新統産軟体動物化石群集と古環境 遠藤満久・天野和孝・柳沢幸夫 (411-424) 56_11_02.pdf [1,165 KB]
資料・解説
八尾地域下部中新統のフィッション・トラック年代と古地磁気極性 伊藤康人・渡辺真人 (425-429) 56_11_03.pdf [590 KB]

要旨集

常磐地域及びその周辺の第三系の地質と年代層序

須藤  斎・柳沢幸夫・小笠原憲四郎

   常磐地域いわき平地区に分布する第三系の岩相層序と珪藻化石層序を検討した。また、さまざまな化石及び放射年代に基づき、常磐地域及びその周辺の第三系の年代層序と古環境変遷を総括した。常磐地域及びその周辺の第三系は下位より、最上部始新統 ‐ 最下部漸新統の白水層群、下部中新統の湯長谷・白土・高久層 群、中部 ‐ 上部中新統の多賀層群及び鮮新統の仙台層群からなり、各層群は不整合で画される。従来、湯長谷層群「平層」の 1 部層とされた「上矢田砂岩層」は特に部層として区分する必要はないことがわかった。湯長谷層群の水野谷層と本谷層は、前期中新世の珪藻化石帯 NPD 2B に、白土層群の南白土層と高久層群の下高久層は珪藻化石帯 NPD 3A の上部に対比されることが明らかになった。また、白水層群の石城層の下部に認められる動植物群集の冷涼化は、南極大陸に最初に氷床が成立し世界的に冷涼化した始新世/漸新世境界の Oi-1 イベントに対応する可能性が高いことが判明した。種々の化石記録を総合して新第三紀における常磐地域の古水深変化が明瞭に復元できた。前期中新世の古気候変遷については、20 Ma 頃に亜熱帯、19 〜 18 Ma 頃に暖温帯‐中間温帯、17.5 Ma に熱帯 ‐ 亜熱帯、そして 16.4 Maに冷温化したことが明確になった。

新潟県糸魚川市海川周辺地域に分布する鮮新統産軟体動物化石群集と古環境

遠藤満久・天野和孝・柳沢幸夫

   新潟県糸魚川市海川周辺の海成堆積物は、鮮新統の川詰層と名立層よりなる。名立層の下部は珪藻化石層序の NPD 7Bb 帯に、上部は NPD 8 帯及び NPD 9 帯に対比される。両層の軟体動物化石群集中には、上部漸深海帯 ‐ 下部浅海帯の Conchocele-Solemya 群集、Acila-Lucinoma 群集、Conchocele 群集、Portlandia 群集及び Macoma-Axinopsida 群集と、下部浅海帯の Acila 群集及び Ophiodermella-Turritella 群集の計 7 群集が認識される。以上の群集特性の解析結果から、海川周辺域は鮮新世を通して、上部漸深海帯 ‐ 下部浅海帯であったことがわかる。