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地質調査研究報告 Vol.56 No.9/10 (2005)
表紙
コアラー (柱状採泥器) の投入
海洋地質調査は、他の調査と同様、ノウハウや工夫の集積で成り立っている。図は採取海底堆積物の柱状試料 (コア) を採取するためにコアラーを投入しているところである。コアラーは船上では横に寝かせて設置しており、投入時には縦に吊らなければいけないが、長いため船上ではできない。そのまま横向きに吊って海面にもっていき、海面上で滑車とウィンチを多用して縦向きに回転させる、という工夫が必要である。
(撮影地 : 太平洋十勝沖洋上の第二白嶺丸、撮影日時 : 2003年6月)
(辻野 匠)
目次
タイトル | 著者 | |
---|---|---|
論文 | ||
物理定数からみた飛騨花崗岩類 | 金谷 弘・大熊茂雄 (303-313) | 56_09_01.pdf [466 KB] |
Oxygen isotopic constraints on the geneses of the Late Cenozoic plutonic rocks of the Green Tuff Belt, Northeast Japan | Shunso Ishihara and Yukihiro Matsuhisa (315-324) | 56_09_02.pdf [326 KB] |
日本海東部の海底堆積物中の微量セレンの地球化学的研究 | 寺島 滋・今井 登・池原 研・片山 肇・岡井貴司・御子柴 (氏家) 真澄・ 太田充恒 (325-340) |
56_09_03.pdf [1,124 KB] |
資料・解説 | ||
「南極地域石油天然ガス基礎地質調査」(FY1980-1999) によって得られた海底堆積物コアの古地磁気・岩石磁気測定 | 森尻理恵・中井睦美・上野直子・荻島智子 (341-373) | 56_09_04.pdf [1,035 KB] |
要旨集
物理定数からみた飛騨花崗岩類
金谷 弘・大熊茂雄
本研究は日本列島に分布する花崗岩類を対象にそれらが持つ物理定数、すなわち密度・孔隙率・磁化率・自然残留磁化そして Qn 比 (Königsberger ratio) などを系統的に測定、集約し、これら花崗岩類が共通して持つ性質や、各地域差、それぞれの形成年代がもつ特有の性質を明確にし、地質構造の解明や、公害、環境問題、災害予知など各方面に必要な基礎資料を提供することを目標にしている。
今回は富山、石川、福井、岐阜そして長野の各県にまたがって露出する飛騨花崗岩類約130個 (第1図) の試料を対象に測定結果を取りまとめた。これら花崗岩類は 1、古期花崗岩類、2、眼球状マイロナイト類、3、斑れい岩類、4、船津花崗岩類とし、4を下之本型、船津型として、最終的に5種類に区分けした。
これら5種類の平均密度の変化範囲は 2.62〜2.85 (x103 kg/m3 = g/cm3) で古期花崗岩類が最も小さく、斑れい岩類がもっとも大きい。孔隙率は0.4 〜 0.6%でこれまでにみられた他地域との差はほとんど認められない。磁化率は密度が 2.60 〜 2.95 の変化に対しその分布域を上限、下限の2直線で囲むと、その直線は密度の増加に対し約10倍増加し、東北地方北部 (金谷・大熊、2003) にみられる磁化率 ‐ 密度グラフ中の上限、下限の2直線にはさまれる範囲と一致し、北上山地花崗岩類に近いパターンを示す。飛騨花崗岩類は、常磁性造岩鉄鉱物によるとみられる磁化率を示す試料の割合は非常に少ない。また、Qn 比は 0 〜 0.3と低くその平均値も 0.12 と非常に低い。
東北日本、グリーンタフ帯の後期新生代深成岩類における酸素同位体比からの束縛条件
石原舜三・松久幸敬
東北日本、グリーンタフ帯の後期新生代深成岩類の64試料の酸素同位体比 (δ18OSMOW) を全岩法で求めた。深成岩類はフォッサマグナ南部で大規模に露出し、新鮮な岩石が得やすい。ここでは低カリウム系列の丹沢トナル岩類が極めて低い値、平均値で5.4‰を示す。低いδ18O 値はソレアイト火山岩類で一般的である。酸化的な苦鉄質火成岩類がトナル岩類の出発物質と考えられる。しかし同じく低カリウム系列に属する甲府岩体の芦川型は平均7.4‰、新島の場合は6.7‰であり、それぞれが固有の出発物質を持つことを示す。甲府岩体で一般的な磁鉄鉱系の花崗閃緑岩類は平均して7.4‰であるのに対し、同じ岩体のチタン鉄鉱系徳和花崗閃緑岩類は9.4‰、御岳型黒雲母花崗岩は11.2 ‰を示し、共に高い値を持つ。その原因は火成岩起源マグマに 18O に富む堆積岩類の混入があったためである。北部フォッサマグナ以北の後期新生代深成岩類は露出規模が小さい。低い δ18O 値がしばしば認められ、固結時に地表水の混入が推察される。その原因は岩体頂部が露出していること及び地形的に高所にあることに求められる。
日本海東部の海底堆積物中の微量セレンの地球化学的研究
太田充恒・張 仁健・寺島 滋・金井 豊・上岡 晃・今井 登・
松久幸敬・清水 洋・高橋嘉夫・甲斐憲次・林 政彦
海底堆積物中セレン (Se) の地球化学的挙動を解明するため、日本海東部で採取した表層試料と柱状試料を分割して得た合計215試料中の Se を連続水素化物生成 - 原子吸光法で分析した。表層試料中 Se 濃度の平均値は、0.60±0.45 ppm (n=81) で、粗粒堆積物よりも細粒堆積物で高く、概括的には採泥点の水深の増加に伴って高濃度になり、有機炭素 (Org.C)、全硫黄 (T.S) 濃度との間に強い正相関がある。Se は、亜セレン酸塩態、セレン酸塩態、元素態、硫化鉄態、有機物態等の形態で存在するが、表層試料では元素態と有機物態が卓越し、柱状試料では有機物態の割合が多いと考えられた。今回分析した試料に関しては、人為的汚染による Se 濃度の増加はないと考えられた。柱状試料中 Se 濃度の平均値は1.88±2.19 ppm (n=134) で表層試料よりも約3倍高いが、これは日本海が還元的環境下にあった時代の堆積物に高濃度の Se (最高11.93 ppm) が含有されるためである。日本海深部の柱状試料中 Se、Org.C、T.S 等の濃度は、海洋の酸化 - 還元環境、外洋水の流入の有無、気候変化に伴う生物生産量やガス状 Se 化合物発生量の増減等の影響で変動する。柱状試料中の Se 濃度は、Org.C や T.S 濃度と同様に古堆積環境を解明するための指標として有用であろう。
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