地質調査研究報告 トップへ
地質調査研究報告 Vol.55 No.11/12 (2004)
特集 : 放射性廃棄物地層処分における熱・熱水の影響評価に関する基礎研究
表紙
1998年から2003年8月までに発生した地震の震源分布図と50万分の1秋田地熱資源図 (高橋ほか、1996) との比較 (本特集号の楠瀬ほか (2004) の第4図から引用)
1998年1月〜2003年8月の気象庁震源一元化データを使用し、50万分の1地熱資源図「秋田」における地震の震源分布と深層熱水資源賦存地域との相関を検討した。赤色と青色の点で示された地点は上部地殻の震央位置を示し、青色で塗色された地域は平野や内陸盆地地域で深層熱水深層熱水資源賦存地域と定義づけられた地域 である。現在までに得られた震源データに基づけば、深層熱水資源賦存地域では地震活動は活発ではなく、一部の賦存地域の周辺部のみで活発な地震活動が認められるだけである。
(楠瀬勤一郎・玉生志郎)
目次
タイトル | 著者 | |
---|---|---|
論文 | ||
「放射性廃棄物地層処分における熱・熱水の影響評価に関する基礎研究」の背景と概要 | 玉生志郎 (389-391) | 55_11_01.pdf [221 KB] |
温泉放熱量分布に基づく熱異常地域の抽出手法の検討 [総説] | 阪口圭一 (393-398) | 55_11_02.pdf [847 KB] |
データベース・システムによる地質・地球物理データの重ね合わせ -東北地方中東部での例- [概報] | 玉生志郎・佐藤龍也 (399-408) | 55_11_03.pdf [3,395 KB] |
地層処分に関わる広域地下水流動研究及び数値シミュレーションの動向 [総説] | 中尾信典・菊地恒夫・石戸経士 (409-415) | 55_11_04.pdf [521 KB] |
MT法による阿武隈地域の深部比抵抗構造解析 [論文] | 内田利弘 (417-422) | 55_11_05.pdf [580 KB] |
震源データを用いた深部構造解析手法の検討 -東北日本の例- [概報] | 楠瀬勤一郎・川方裕則・竹内淳一 (423-429) | 55_11_06.pdf [921 KB] |
放射年代測定法を用いた地熱系の長期変動解析 [総説] | 水垣桂子 (431-438) | 55_11_07.pdf [533 KB] |
花崗岩地域の地下水の地化学的特徴 [総説] | 佐々木宗建 (439-446) | 55_11_08.pdf [343 KB] |
要旨集
温泉放熱量分布に基づく熱異常地域の抽出手法の検討
阪口圭一
温泉放熱量による熱異常地域抽出と特性把握手法は、温泉の温度と流量の2個の要素を持ち、地下温度とともに地下水理条件をも反映しているので、地層処分地の評価にとって有益な情報をもたらすと考えられる。地質調査所が1980年に出版した「日本温泉放熱量分布図」で用いられた計算法にならい、新しいデータを加えて温泉放熱量計算法をアップデートするために、特に使用データについて定性的な考察を行った。温泉放熱量計算に使用するデータの収集や利用可能性、計算に当たっての留意事項についての定性的な考察による と、様々な形態で公表されている温泉データについては、(1) 自噴泉と動力揚湯泉の識別が必要であり、(2) 温泉 (特に大深度掘削で得られた温泉) についての諸データの経時変化の可能性を考慮する必要がある。
データベース・システムによる地質・地球物理データの重ね合わせ - 東北地方中東部での例 -
玉生志郎・佐藤龍也
非火山性地域の地下での熱異常の存在状況や成因を明らかにするために、東北地方中東部をモデル地域に選定して、地形、地質、震源、比抵抗、キュリー点深度、地温の分布データを収集した。収集された情報はデジタル化後、データベース・システム (G ★ Base) に登録し、同システムの可視化機能で様々な角度から各種情報を比較検討した。その結果、三つのデータ組み合わせに比較的良い相関が認められた。それらは、火山フロントと微小地震分布、比抵抗分布と微小地震分布、温度 (キュリー点等温面深度) 分布と微小地震分布である。
一番目の火山フロントと微小地震の相関は、火山フロントがマグマや熱水の上昇域で微小地震が多く発生しているためと考えられる。二番目の比抵抗と微小地震の相関は、二つのタイプがある。一つは火山フロントを含む火山地域で認められるもので、比抵抗基盤が浅く高比抵抗帯となっている地域で、火山活動に伴う微小地震が多数発生している例である。もう一つは火山フロントの東方の内陸盆地の周辺に認められる微小地震の集中域で、そこは低比抵抗域となっている。この後者の場合は、天水が断層などの比較的透水性の高い領域に沿って地下に浸透し、微小地震を発生させていると想定される。三番目の温度 (キュリー点等温面深度) と微小地震の相関は、上部地殻内の微小地震の発生限界深度、いわば脆性 - 延性破壊の境界深度が、ほぼ 600 ℃ 前後のキュリー点深度と大略一致しているためと考えられる。
地層処分に関わる広域地下水流動研究及び数値シミュレーションの動向
中尾信典・菊地恒夫・石戸経士
地層処分に関する広域地下水流動系の研究動向を、数値シミュレータを用いた地下水流動モデリングの動向を含めて調べた。日本の研究動向については主に、東濃地域において核燃料サイクル開発機構 (JNC) により実施されている広域地下水流動研究プロジェクトの結果から、数値モデル構築に必要なモデル域の規模、物性分布、境界条件等を考察した。また、淡水と塩水の遷移帯の挙動を解明することは、沿岸地域の広域流動系モデリングにおいて重要な研究事項であり、近年の研究動向を述べるとともに、地熱の貯留層モデリング用ツールとして使われている数値シミュレータの技術的特徴を述べた。
MT 法による阿武隈地域の深部比抵抗構造解析
内田利弘
福島県阿武隈地域で取得された地磁気地電流法 (MT法) データについて2次元インバージョンによる解析を行った。MT 法測線はほぼ東西方向であり、測線長は約 50 km、福島県中央部の本宮町付近から太平洋岸の浪江町付近に及ぶ。測線の大部分は中生代の花崗岩地域に位置している。2次元解析によって得られた比抵抗構造モデルによると、測線の全域にわたり、1,000 〜10,000 ohm-m の高比抵抗の地層が卓越することがわかる。測線の東端の浅部には、第三紀及び第四紀の堆積岩に相当する低比抵抗層が得られた。下部地殻に相当する深さ約 15 km 以上は数百 ohm-m の比較的に低比抵抗な地層になっている。しかし、東北地方の火山フロント外帯のうち、宮城県北部等で得られている深部地殻の非常に低比抵抗な地層に比べると、阿武隈地域の深部地殻はかなり比抵抗が高く、熱や熱水活動の影響を余り受けていないものと考えられる。
震源データを用いた深部構造解析手法の検討 - 東北日本の例 -
楠瀬勤一郎・川方裕則・竹内淳一
稠密な微小地震観測網の整備が完成した1998年以降、気象庁が大学・防災科学研究所などの諸機関のデータ提供も受け、震源を求めて公開している、いわゆる震源一元化データは、従前の気象庁の地震カタログに比較し、質量ともに格段に向上した。本研究では、気象庁震源一元化データを使用し、50万分の1 地熱資源図「秋田」と「新潟」の両地域における地震の震源分布と深層熱水資源賦存地域との相関を調べた。既存データの範囲では、深層熱水資源賦存地域は地震活動があまり活発でないことがわかった。震源の深さ分布の下限は地殻熱流量と相関がある (Ito、1990 など) という指摘があり、地殻内部に発生する地震について、震源の深さ分布の下限を求めた。震源分布の下限と地殻熱流量についての相関の可能性は示唆されたが、観測期間が限られていることなどにより、震源が十分面的にカバーしておらない為、両者について明瞭な関係を示すまでにはいかなかった。
放射年代測定法を用いた地熱系の長期変動解析
水垣桂子
放射性廃棄物の地層処分地点選定に際して、地熱活動の影響を評価するためには地熱活動の長期的な時間・空間スケールを知ることが必要である。その手段としては地熱地域に普遍的に産する物質を対象とし地熱系程度の温度で確実にリセットされる放射年代測定法、すなわち電子スピン共鳴 (ESR) 法及び熱ルミネッセンス (TL) 法が適している。地熱活動の移動速度を測定した例として TL 法による数 km/10 万年という数値があり、また再活動間隔として TL 法で約40万年、ESR 法で1〜2万年の測定例がある。しかしこのような研究例はまだ少ないので、一般的な指針を示すためには系統的な年代測定をなるべく多く実施し地熱系の変動解析例を増やすことが急務である。
花崗岩地域の地下水の地化学的特徴
佐々木宗建
本邦及び北欧・北米の楯状地の花崗岩中に賦存する地下水の基本的な性状を文献調査により整理し、今後 非火山性の花崗岩地域における熱・熱水の異常を抽出・評価するにあたっての、基礎を構築した。花崗岩中の天水起源の地下水は低塩濃度 (<1 g/l) であり、浅部では弱酸性 ‐ 中性、酸化的、Ca・Na-HCO3 型の水質であるが、深部では弱アルカリ性 (pH < 10)、還元的、Na-HCO3 型の水質となる。ただし、過去に生じていた変質鉱物との相互作用や、海水・化石海水の流入あるいはマグマ・高温岩体に由来する地下水の残留によっては、水質が多様化・高塩濃度化し得る。楯状地の花崗岩中の地下水は、深部で高塩濃度 (>300 g/l) の Ca (・Na)-Cl 型の水質である。花崗岩中の地下水の基本的な性状をより詳細に把握するためには、今後、1) 流体-岩石反応過程の定量的な検討と、2) 深部における高塩濃度の地下水の起源と成因及び移動機構についての検討とが、必要であると思われる。
- お知らせ(出版物)
- 地質図カタログ
- 購入案内
-
地質調査研究報告
- 2024年 (Vol.75)
- 2023年 (Vol.74)
- 2022年 (Vol.73)
- 2021年 (Vol.72)
- 2020年 (Vol.71)
- 2019年 (Vol.70)
- 2018年 (Vol.69)
- 2017年 (Vol.68)
- 2016年 (Vol.67)
- 2015年 (Vol.66)
- 2014年 (Vol.65)
- 2013年 (Vol.64)
- 2012年 (Vol.63)
- 2011年 (Vol.62)
- 2010年 (Vol.61)
- 2009年 (Vol.60)
- 2008年 (Vol.59)
- 2007年 (Vol.58)
- 2006年 (Vol.57)
- 2005年 (Vol.56)
- 2004年 (Vol.55)
- 2003年 (Vol.54)
- 2002年 (Vol.53)
- 2001年 (Vol.52)
- 活断層・古地震研究報告
- GSJ 地質ニュース
- CCOP-GSJ 地下水プロジェクトレポート
- GSJ技術資料集
- ビデオ・パンフレット・ポスター
- その他の出版物