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地質調査研究報告 Vol.52 No.9 (2001)

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表紙

   房総半島中部を東西に横切る黒滝不整合の下位には、下位から安房層群上部の天津層、清澄層、安野層といった地層が広く分布する (左上図)。これらの地層については、多数の凝灰岩鍵層が挟在するために、鍵層を追跡した詳細な層序や構造が明らかになっている。しかし、小糸川上流に位置する清和県民の森周辺 (左上図の C 地域) は、三島湖や豊英湖といった古くからのダム湖があるために、この地域の詳細な地質調査はなされていなかった。今回、モーターボートを使った地質調査 (右上図) を行うことによって、この地域の構造や層序の詳細が明らかにされ (左下図)、場所によっては、安野層中部のチャネル堆積物 (砂質礫岩や礫質砂岩) が、下位の天津層と直接接することが明らかになった (右下図)。本研究報告の石原・徳橋 (2001) の論文参照。

(図面及び写真 : 石原与四郎・徳橋秀一)

目次

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論文
千葉県清和県民の森周辺の地質 -とくに安房層群清澄層・安野層の層序と構造について- 石原与四郎・徳橋秀一 (383-404) 52_09_01.pdf [4,735 KB]
Characterizing fracture systems of Kyushu, southwest Japan through satellite-image derived lineaments superimposed on topographic Katsuaki KOIKE, Ryoichi KOUDA and Toshiaki UEKI (405-424) 52_09_02.pdf [3,578 KB]
資料・解説
Chemical compositions of amphiboles in hematite-bearing schists from the Saruta-gawa area in the Sanbagawa belt, central Shikoku, Japan Yasuyuki BANNO (425-443) 52_09_03.pdf [3,689 KB]

要旨集

千葉県清和県民の森周辺の地質  -とくに安房層群清澄層・安野層の層序と構造について-

石原与四郎・徳橋秀一

   千葉県の房総半島中央部の小糸川上流域に位置する清和県民の森周辺には、新第三系の安房層群天津層、清澄層および安野層が分布する。天津層は半遠洋性泥岩の卓越するベースンフロア堆積物、清澄層および安野層は砂岩優勢から泥岩優勢へと変化するタービダイトサクセッションである。この地域には、古くからの三島ダム湖、豊英ダム湖の存在により、他の地域のような凝灰岩鍵層の分布に基づいた詳細な地質図の作成やそれに基づいた層序や構造等の検討は今まで行われていない。本研究では、モーターボートを用いたダム湖の調査及び周辺丘陵山間部の調査により、本地域の詳細な地質図を作成するとともに、そこに分布する清澄層および安野層の層序・層相を明らかにした。
   その結果、地質構造は、詳細な地質が明らかになっている東側の半島中央部と同様、一組の向斜・背斜軸に沿って地層が分布すること、全体に上位の上層層群も切る南北系の断層が卓越するが、清澄層が厚く分布する向斜南翼の一部では東西方向の逆断層が存在することが明らかになった。
   層相については、清澄層は下位の天津層境界から整然とした砂岩泥岩互層の堆積からなるが、その上位の安野層には今までに報告されない大規模なチャネル構造や礫層を伴うチャネル充填堆積物が認められた。チャネルによる下位層準の削剥は天津層 Am 78 層準まで及ぶと推定される。また、全体的には清澄層から安野層にかけて、上位に向かって北側に堆積の中心を移すこと、どの層準でも背斜軸とその周辺では、泥岩が粗粒化していることなどが明らかになった。
   房総半島の中・東部域では、整然とした泥岩優勢のタービダイトサクセッションである安野層が、本地域では、幅1km、長さ数kmのチャネル構造をもつことが明らかになり、安野層の堆積様式を考える上で、本地域が極めて重要な地域であることが判明した。

地形と地質データに重ね合わせた衛星画像リニアメントに基づく九州の断裂系の特徴抽出

寺島  滋・太田充恒・今井  登・岡井貴司・御子柴真澄・谷口政碵

   土壌地球化学図の作成に関する予察的研究の一環として、関東各地の沖積層から柱状試料を採取して主・微量元素を分析し、土壌の母材や元素の広域分布特性、地球化学的挙動等を研究した。沖積層土壌における元素濃度の鉛直変化は、火山噴出物と河川由来砕屑物であり、両者の割合は地形・地質的な要因で変化する。沖積層土壌における元素濃度の鉛直変化は、火山灰質土のそれに比べて小さかった。これは堆積速度が速く、表層〜下層の風化度や腐植含有量の差が小さいためと考えられた。沖積層土壌中砂質粒子は主として河川由来である。砂質粒子は風化・変質に伴って微細化するが、この際アルカリ・アルカリ土類金属が溶出し・流失し、細粒部ではアルミニウム、チタン、各種重金属等が相対的に高濃度になる。山間部の規模が小さい沖積面では、集水域の基盤地質と土壌の化学組成の特徴は類似する。広大な平野部を流下する河川の下流域では、基盤岩砕屑物は均質化されており、粒度組成の相違が化学組成を変動させる主因である。沖積層土壌の化学組成は、同一地域の火山灰質土に比べてアルミニウム、チタン、重金属類に乏しく、アルカリ・アルカリ土類金属に富む特徴があり、概括的には河川や湖沼の堆積物に類似する。

熱帯インド南西沿岸沿岸における河川-汽水-沿岸域底質堆積物の地球化学

小池克明・古宇田亮一・植木俊明

   主要なリニアメントは、鉱物資源や地熱資源を胚胎させる断層破砕帯と関連する場合が多い。したがって、陸域と海底の両方を対象としたリニアメント解析は、局所的・広域的な断裂系の特徴を広く理解するのに重要である。この理由から、線素追跡アルゴリズム (STA) と称するリニアメントデータと数値地形モデル (DEM) データとを組み合わせ、推定断裂面の走向・傾斜を算定するベクトル解析法を開発した。九州を解析対象地域に選び、LANDSAT TM バンド4データを用い、3枚のフルシーン画像から77,893本のリニアメントを抽出した。高品位の浅熱水性鉱脈型金鉱床の周辺においては、連続性の良い推定断裂面の方位が主要鉱脈の方向へと上昇する際に通路となり得る重要な断層が推定できた。さらに、水深データを補間することで1km格子間隔の DEM を作成し、この陰影図を用いて海底地形のリニアメント解析を行った。陸域と海底のリニアメント図の組み合わせは、2つの地域に連続する地質構造的に重要なリニアメントを見出し、断裂系の形成メカニズムの考察において有効である。

四国中央部三波川帯猿田川地域より産する含赤鉄鉱片岩中の角閃石の化学組成

坂野靖行

   四国中央部三波川変成帯猿田川地域から産する含赤鉄鉱塩基性片岩及び石英片岩中の角閃石及び角閃石と共存する鉱物の EPMA 分析を行い、角閃石221点及びその他の鉱物 (緑れん石・緑泥岩・ざくろ石・白雲母・曹長石・赤鉄鉱・磁鉄鉱・スティルプロメレン) 90点の分析値を示した。分析が行われた試料は比較的高変成度である曹長席-黒雲母帯から採取された。これらの化学組成データは、三波川変成帯猿田川地域における後退変成作用を議論するために用いられた (Banno, 2000)。