活断層・古地震研究報告  第3号 トップへ

黒松内低地断層帯における断層活動履歴調査

吾妻  崇・下川浩一・寒川  旭・杉山雄一・桑原拓一郎・
奥村晃史・黒澤英樹・信岡  大・三輪敦志

黒松内低地断層帯 (第1図) において、トレンチ掘削調査、S波反射法地震波探査等を実施し、同断層帯の北部 (白炭東断層)、中部 (知来川右岸断層)、南部 (長万部断層) の最新活動時期と活動度に関する新たな知見を得た。白炭東断層では、トレンチ掘削調査により湿地堆積物 (第2図 ; 1層) 上にローム層 (3〜5層) が覆いかぶさるイベントが約200年前に生じていることが明らかになった。このイベントと古文書に記録されている1792年の地震との関係について、今後明らかにする必要がある。また、S波反射法地震探査により、M2面構成層が地形と調和的に褶曲変形 (約12m) していることが確認された (第3図)。知来川右岸断層では、逆向き低断層崖を挟んで群列ピットを掘削し、M3面構成層およびKt-2火山灰 (約5万年前に降下) に約5mの上下変位が認められた (第4図)。長万部断層では、トレンチ掘削調査と群列ボーリング調査を実施した。トレンチ壁面 (第5図) では、最新活動時期は特定できなかったが、沖積層中の噴砂跡 (N-13付近) と約4〜5万年前の年代を示すシルト層 (6層) の異常傾斜並びに泥炭層を切る小断層 (N-2付近) が観察された。群列ボーリングの結果からは、M3面構成層に約6mの上下変位があることが明らかになった (第6図)。


第1図

第1図. 黒松内低地断層帯の位置 (左上) と同低地に分布する活断層 (右)。
Fig. 1. location (upper left) and distribution of active faults (right) in the study area.

活断層の位置及び断層名は活断層研究会 (1991) による。ケバ付きの太い線は活動度B級の活断層、ケバ付きの細い線は活動度C級の活断層を示す。ケバは断層の低下側を示す。細い実線はリニアメント (確実度IIIの活断層) を、赤い矢印は地形面の異常な傾斜の方向を示す。黒丸は14年度の調査実施地区の位置を示す。


第2図

第2図. 白炭地区トレンチ北壁面のスケッチ (上) と写真 (下)。
Fig. 2. Log and photo of the north wall of the Shirozumi trench.

トレンチ掘削地点の位置は こちら に示す。破線で囲んだ枠は、写真 の位置を示す。図中に示した数字は、赤丸印の位置から採取された試料の放射性炭素同位体年代測定 (AMS法) の値 (1層及び6層から採取した試料の年代は暦年較正値、8層から採取した試料の年代は未補正値、単位はyBP)を示す。

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第3図

第3図. 白炭東断層を横切るS波浅層反射法地震探査結果 (深度断面) (上) とその解釈図 (下)。
Fig. 3. S-wave seismic profile (top) and schematic image of the subsurface structure (bottom) across the Shirozumi-higashi fault.

測線の位置は こちら に示す。縦横比は 1 : 1。解釈図における地層境界は、主に下白炭川沿いにおける地層観察に基づいて推定。図中の a、b、c はそれぞれ測線上における断層トレース a、b、c の位置を示す。白い破線は、M2面構成層の基底に対応する反射面を西へ延長したもの。背斜部の同一層準と比較した場合の上下方向へのシフトは約12 mである。

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第4図

第4図. トマムナイ川右岸における、知来川右岸断層によるM3面の変形を示す模式断面。
Fig. 4. Schematic cross section of the Tomamunai River area, showing the deformation of M3 terrace by the Chiraigawa-ugan fault.

被覆ロームの層厚とKt-2火山灰の層序は、ピット調査の結果に基づく。赤い破線は、地形から推定される知来川右岸断層の位置と傾斜方向を示す。地形面の原傾斜の勾配を考慮した場合には、東側の断層によるM3面の上下変位量は約5mとなる。

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第5図

第5図. 長万部地区トレンチ北壁面のスケッチ (上) と写真 (下) 及び放射性炭素同位体年代。
Fig. 5. Log and photo of the north wall of the Oshamambe trench.

トレンチ掘削地点の位置は 第7図 に示す。図中に示した数字は、赤丸印の場所から採取された試料の放射性炭素同位体年代測定 (AMS法) の値 (1万年より若い年代は暦年較正値、2万年以上の年代は未補正値、単位はyBP) を示す。四角印とその脇の記号は、第8図 に分析結果を示した火山灰試料の採取位置と試料番号を示す。

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第6図

第6図. 長万部地区の地形地質断面。
Fig. 6. Topographic and geologic cross section of the Oshamambe site.

地形断面は、A-A' (黄色) がM3面、B-B" (紫色) が沖積扇状地面。縦横比は 5 : 1。断面の位置は 第7図右図 を参照。緑色の三角印とその脇の記号は、第8図 に分析結果を示した火山灰試料の採取位置と試料番号を示す。柱状図の緑色で示した礫層は、直上の泥炭の年代から判断して、ほぼ同時代に堆積した、M3面構成層と考えられる。隆起側のM3面の勾配を原傾斜と仮定して、OT-1とOT-3のM3面構成層の上限高度から、長万部断層によるM3面の上下変位量 (約6m) を求めた。

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第7図

第7図. 長万部地区周辺の地形と活断層の分布 (左) 及び詳細地形図 (右)。
Fig. 7. Topography and active faults around the Oshamambe site (left) and detailed topographic map of the Oshamambe site (right).

(左図) 国土地理院発行25,000分の1地形図「渡島双葉」を使用。断層の位置は空中写真判読結果に基づく。断層線のケバは断層の低下側を示す。矢印は地形面が異常な傾斜を示す部分とその方向を示す。(右図) 地形図はトータルステーションを用いた測量の実測値に基づいて作成。等高線の間隔は、主曲線1 m、計曲線5 m。断層線のうち、侵食などにより位置が不鮮明なものは破線で示した。ケバは断層の低下側を示す。矢印は地形面が異常な傾斜を示す部分とその方向を示す。赤丸印とそれに付随する記号は、ボーリング調査を実施した地点とその地点番号を表す。紫色の実線は、第6図 に示した地形地質断面の位置。

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1/25,000地形図「渡島双葉」


第8図

第8図. 長万部地区の調査で採取された火山灰試料の分析結果。
Fig. 8. Ratios and refractive indices of minerals in the tephra samples from the Oshamambe site.

OT-a, c, d は駒ヶ岳起源の火山灰と思われるが、どの時代のものに対比されるかは不明。

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