地盤と土壌

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地盤と土壌

1. 地盤の性質

   地盤とは、人間の活動や生活に直接影響を与える表層地質のことです。これには土・未固結堆積物・固結岩などが含まれます。特に建造物の安全性や安定性、環境保全を考えるうえで工事の対象となる部分、または工事の影響の及ぶ範囲を示すのが一般的です。したがって、地盤は場所によって異なり、土だけのこともあれば、岩だけのこともあります。この他、盛土、埋土、切土などの人工地盤、建設に不向きな土地を人工的に補強した改良地盤もあります。

  地盤の性質は様々で、ときに液状化、地盤沈下、斜面崩壊、地すべりなどの災害を起こすこともあります。これらは地盤災害と呼ばれ、社会に与える影響も大きいために、ハザードマップ (被害地域予測図) の作成や災害軽減手法の開発などの対策が進められています。

斜面崩壊

   斜面崩壊とは、傾斜地で発生する地すべりや崩落などを指します。また、斜面崩壊は同時に土石流や土砂流失を伴うことも多く、これらを総合的に予知・予防する対策が進められています。

  山地のような急傾斜地では、しばしば斜面崩壊が起こります。しかし、必ずしも急傾斜地が斜面崩壊を起こしやすいわけではなく、地盤の安定性には地質の違いや地下水の存在が大きく影響しています。

図:斜面崩壊
沖積層

   沖積層とは、普通、最終氷期以降 (約18000年前より後) に堆積した地層を指します。一方、最終氷期以前に堆積した地層は洪積層といいます。平野には広く沖積層が分布しているため、沖積層は人間の生活に最も身近な地盤と言えるでしょう。しかし、最終氷期以降の海水準変動の影響のため、沖積層を構成する地層は一様ではありません。特に、シルトや泥の層は地盤沈下を引き起こしやすく、沖積層の上に建造物をつくる場合には、地盤強度を確かめるために地下の地質を慎重に調べる必要があります。

図:沖積層

液状化
液状化の砂脈

   地盤の液状化現象(以下、液状化)とは、地下水位が高い未固結の砂地盤において、地震の揺れによって砂粒子同士の支えが外れることで、地盤が液体状になる現象をいいます。このとき地下水の圧力が上昇するため、地下水と砂が地表の割れ目から噴き出すことがあります。この現象を「噴砂」と呼びます。また、地下水などが抜けた分、地面が下がる「地盤沈下」も見られることがあります。

   液状化実験ボトル「エキジョッカー」による実験では、「噴砂」と「地盤沈下」を観察することができます。セットしたボトルに振動を与えると、青い砂の地盤が液状化し、白い砂の地面の上に噴き出す「噴砂」が発生します。液状化がおさまった時、青い砂が通った道筋が見られます。これは「砂脈」と呼ばれ、いわば大地震の痕跡として地盤の中に残ります。地質標本館には、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の際に千葉県神崎町で発生した、液状化の砂脈が展示されています(右の写真)。さらに、白い砂の地面が黒い線の位置から下がっていく、「地盤沈下」のようすも見られます。液状化に伴う地盤沈下によって、杭基礎などでしっかり支えられた建物に「抜け上がり」が発生することがあります。


エキジョッカー
video エキジョッカーの動画(MP4 / 160 MB)
【実験動画製作:兼子尚知・荒岡大輔・宮地良典・渡辺真人・利光誠一】

※エキジョッカーについては、下記の文献もご参考にしてください。
 宮地 良典・兼子 尚知(2002)エキジョッカーによる液状化実験装置.地質ニュース, no. 570, p. 26–27.
 宮地 良典・兼子 尚知(2007)液状化モデル実験装置「エキジョッカー」.理科教室, no. 50, p. 36–40.
 宮地 良典・兼子 尚知(2008)液状化実験装置を作る.地質ニュース, no. 643, p. 25–26.

2. 岩石の風化

   岩石は、新鮮な状態のときは硬く丈夫なのが普通ですが、風雨にさらされていると次第にもろくなります。これを 風化 といいます。岩石の風化は地盤の強度にも大きく影響しますし、土壌を生み出す作用としても重要です。

   一般に、風化は岩石や鉱物が地表で大気や水にさらされて、分解・破砕される現象を示します。風化では次のような2つの作用が同時進行しています。

  1. 岩石が細かく砕ける作用 : 物理的風化
  2. 鉱物が別の鉱物に分解する作用 : 化学的風化
物理的風化の例

   物理的風化は、温度の変化が大きかったり、風雨が強かったりする条件で速く進行します。すなわち、寒冷地や乾燥地で顕著に起こります。物理的風化が進行すると、岩石には細かい割れ目が増え、細片化し、極端な場合には砂や泥のようにまで軟らかくなります。

化学的風化の例

   岩石は風化すると赤褐色系の色に変化します。これは、岩石中に含まれていた鉄分が酸素と結びついたもの、すなわち錆のせいです。酸素は空気中にたくさん存在しますが、岩石と空気だけでは簡単には風化は進みません。

   風化を促進させるのは水です。空気中の二酸化炭素 (CO2) が水に溶けると、弱い酸性を示すようになります。また、土の中には動植物の作り出した有機酸と呼ばれる酸があり、これが水に溶けると弱い酸性を示します。これら酸性の酸性の水が、岩石に作用するのです。

   岩石の主な構成元素は、O、Si、Al、Fe、Ca、Na、K、Mg、Tiです。このうち、岩石から溶け出しやすい元素から残りやすい元素の準に並べると、

Na ・ Mg ・ Ca ・ K ・ Si ・ Fe ・ Al

のようになります。早い時期に溶け出すNaやKはアルカリ金属、Caはアルカリ土類金属と呼ばれる元素で、これらが水に溶け出すと、今度は水はアルカリ性を示すようになります。すると、アルカリ性の水に弱いSiが溶け出します。残ったFeは水と反応して水酸化鉄となります。この水酸化鉄がいわゆる「錆」の成分なのです。

   風化は地下でも起こりますが、普通は生物活動が盛んであったり、日照を受けたりする地表で最も速く進行します。こうして地表の岩石は次第に壊れ、砂や粘土に変わり、やがて土を形成します。

3. 土壌

   岩石の風化により生産された粘土が、植物遺骸などからなる有機物質と混合してできたものが土壌です。似たような地形の土地でも、そこに分布する岩石が違えば、その上にできる土壌も違うことになります。つまり、土壌の性質を知るうえで、基盤の岩石の種類を知っておくことは大変重要です。

   一般に山地では、流紋岩や安山岩など火山岩類を基盤とする地域は、傾斜と起伏量が大きく土壌が薄い傾向があり、泥岩や凝灰岩など堆積岩類を基盤とする地域は、傾斜と起伏量が小さく厚い土壌に覆われている傾向があります。

図:沖積層

  土壌には多量の空気と水が含まれています。このため、岩石や鉱物の風化でできた粘土も、土壌の中で分解や化学成分の再移動を起こします。

   また、土壌はその場で形成されたものばかりではなく、遠くからもたらされた場合もあります。河川によって運ばれた「沖積」土壌、風によって運ばれた「風成」土壌、火山の噴火による「火山性」土壌などです。大陸地域では氷河が削り取って遠方へ運んだ「氷河性」土壌もあります。河川の場合は上流地域の地質が、火山の場合は活動したマグマの種類が土壌に大きな影響を与えることになります。現在の日本の場合、基盤の岩石に加え、大陸から風で運ばれてくる塵 (黄砂など) や火山噴出物など、遠方からもたらされる物質も土壌に大きな影響を与えていることが知られています。