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地質調査研究報告 Vol.74 No.2(2023)

表紙

地質試料の多元素迅速ICP-MS分析

地質試料の多元素迅速ICP-MS分析 地質試料の迅速分析を目的として,新たに導入した誘導結合プラズマ質量分析器(ICP-MS) Agilent 7900の各種設定値を最適化した.ICP-MS にはコリジョン/リアクションセル(CRC),ガス希釈による高マトリックス試料導入(UHMI) システム,第三世代のインテグレートサンプル導入システム(ISIS3) を搭載した.写真は各種設定値の調整結果を用いて行った地質試料の多元素ルーチン分析の様子である.

(写真・文:中村淳路・久保田 蘭・太田充恒)

目次

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タイトル著者PDF
論文
北部北上帯ジュラ紀付加体中に産する前期ペルム紀流紋岩とその帰属 内野隆之 74_02_01.pdf [3.7MB]
Multi-element analysis of geological samples using ICP-MS equipped with integrated sample introduction and aerosol dilution systems NAKAMURA Atsunori, KUBOTA Ran and OHTA Atsuyuki 74_02_02.pdf[611KB]
北上山地南東部,大船渡地区の中生代層のジルコンU–Pb 年代 川村寿郎・内野隆之 74_02_03.pdf [6.3MB]

要旨集

北部北上帯ジュラ紀付加体中に産する前期ペルム紀流紋岩とその帰属 

内野隆之

 北上山地,北部北上帯南縁部のジュラ紀付加体中津川コンプレックス中には長さ約2 km,幅約150 mにわたって巨斑晶質流紋岩が産する.本流紋岩はこれまで前期白亜紀の岩脈と考えられていたが,ジルコンのU–Pb年代を測定した結果,約280 Ma(前期ペルム紀)のものであることが判明した.カリ長石を大量に含む本岩はジュラ紀付加体の構成要素とは考えづらいことや,北部北上帯の南側に位置する根田茂帯にはそれを構成する付加体よりも古いオルドビス紀の超苦鉄質岩・深成岩類や古生代の低温高圧型変成岩が構造岩塊として産していることから,巨斑晶質流紋岩も白亜紀以降の構造運動で移動・定置した構造岩塊であると考えられる.本岩は,日本列島ではほぼ失われている古生代後期の島弧火成岩体の断片である可能性がある.

インテグレートサンプル導入システムとガス希釈システムを搭載したICP-MSによる高マトリックス地質試料の多元素分析

中村淳路・久保田 蘭・太田充恒

 誘導結合プラズマ質量分析器(ICP-MS)の発展により,さまざまな地質試料の多元素分析が行われるようになってきた.しかし,高マトリックス試料を効率的に迅速に分析することは依然として困難を伴っている.そこで本研究は,高マトリックス地質試料の迅速分析を目的として新たに導入したAgilent 7900 ICP-MSのパフォーマンスと,各種設定値の調整結果を報告する.ICP-MSにはコリジョン/リアクションセル(CRC),ガス希釈による高マトリックス試料導入(UHMI)システム,第三世代のインテグレートサンプル導入システム(ISIS3)を搭載した.まず,CRCによる効果的な分子干渉の抑制を目指して,Heガス流量の最適化を行った.その結果,4.5 mL/minのHeガス流量において,最適なバックグラウンド相当濃度およびブランク/標準試料比を得ることができた.UHMIシステムはマトリックス効果を抑制し,さらに二価イオン,酸化物イオン,プラズマ由来の分子イオン,酸由来の分子イオン,マトリックス由来の分子イオンによる干渉抑制にも効果を発揮する.本研究ではHMI-8モード(10倍希釈)を用いた時の効果を検討し,UHMIシステムが酸化物イオンとマトリックス由来の分子イオンの抑制に特に効果的であることを確認した.なお,高マトリックスの地質試料に対しては,内標準によるマトリックス効果の補正は有効でない.そこで本研究はマトリックスマッチング法を適用した.地球化学標準物質JB-1aを元とする溶液に,Li, Be, Ni, Cu, Zn, As, Mo, Ag, Cd, Sn, Sb, Cs, Tl, Pb, Biを添加することで,標準液を調製した.ISIS3を用いたルーチン分析として50試料中の42元素を測定した場合,従来の水希釈による試料導入装置と比較し,測定時間を約80分短縮することができた.ICP-MS本体およびその周辺装置について各種設定値を最適化し,8つの地球化学標準物質中の42元素の測定を行った結果,参照値と同等の測定値が得られることを確認した.

北上山地南東部,大船渡地区の中生代層のジルコンU–Pb年代 

川村寿郎・内野隆之

 北上山地南東部,大船渡地区の中生代層は,北北西–南南東方向の主断層により西列・中列・東列の3列に分かれて分布する.西列には三畳紀層とそれを不整合に覆う前期白亜紀層がある.今回,西列の三畳紀層(明神前層)の砂岩,前期白亜紀層(小細浦層)の溶結凝灰岩,中列の未区分前期白亜紀層の珪長質凝灰岩に含まれるジルコンU–Pb年代を測定した.明神前層は,陸成の礫岩や赤紫色砂岩で特徴づけられる.砂岩の砕屑性ジルコンU–Pb年代は219.2 ± 4.1 Maの最若クラスター年代を示す.二枚貝Monotis化石の産出を加味すると,明神前層はノーリアン期の堆積物である.前期白亜紀層(大船渡層群)は下位より,陸成層(箱根山層),海成層(船河原層と飛定地層),海成~陸成層(小細浦層)に細分される.小細浦層上部の溶結凝灰岩のジルコンU–Pb年代は124.7 ± 0.6 Ma(アプチアン期前期)の加重平均年代値を示す.東列は火山岩類主体の地層(綾里層)とそれを覆う海成~陸成層(合足層)に区分される.中列は陸成火山砕屑岩主体の未区分層であり,その中の珪長質凝灰岩のジルコンU–Pb年代は121.9 ± 0.6 Ma(アプチアン期前期)の加重平均年代値を示す.
 これまでの年代論を合わせると,大船渡地区の前期白亜紀層は全体として,オーテリビアン期~バレミアン期の海進と安山岩主体の火山活動,その後のバレミアン期~アプチアン期前期の海退と珪長質火山活動によって形成された.アプチアン期前期には,脈岩類や花崗岩類をもたらしたマグマの上昇・貫入による火成活動とともに,地表部では噴出物を含む陸源性砕屑物が一部同時的に堆積していたと考えられる.