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地質調査研究報告 Vol.71 No.1(2020)

表紙

日光白根火山の山頂

日光白根火山の山頂 日光白根火山は,群馬県と栃木県の県境に位置する活火山である.江戸時代(西暦1649年)にやや規模 の大きな噴火をした記録をもつ.白根山山頂部に3つの峰をつくる溶岩ドームは,榛名二ツ岳伊香保テフラ(6世紀)以前に噴出した.中央と右側の峰の間の窪地付近に,1649年の噴火口があったと考えられている.本研究では,白根山山頂から1 km範囲内の6地点においてトレンチ掘削を行い,火口近傍の降下火砕堆積物を調査した.噴出物の層序,層相,構成粒子のモード組成及び噴出物に覆われた土壌の放射性炭素年代値に基づいて,6世紀以降に起こった3回の噴火による堆積物を確認した.写真は西北西から見た山頂.2015年10月撮影.

(写真・文:草野有紀)

目次

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タイトル著者PDF
論文
トレンチ調査に基づく日光白根火山1400 年間の噴火履歴草野有紀・石塚吉浩 71_01_01.pdf [3.5MB]
東京層の模式コアセクション(代々木公園コア)における層序の再検討中澤 努・納谷友規・坂田健太郎・本郷美佐緒・鈴木毅彦・中山俊雄 71_01_02.pdf [5.2MB]
概報
LA–ICP–MS zircon U–Pb ages of felsic tuffaceous beds in the Takikubo and Horita formations, Izumi Group, Ikeda district, eastern Shikoku, southwestern Japan NODA Atsushi, DANHARA Tohru, IWANO Hideki and HIRATA Takafumi 71_01_03.pdf [8MB]
資料・解説
クリティカルテイパーモデル- 土質力学の基礎からの導入 高下裕章・野田 篤 71_01_04pdf [1.8MB]

要旨集

トレンチ調査に基づく日光白根火山1400年間の噴火履歴

草野有紀・石塚吉浩

 日光白根火山山頂部で実施した6地点のトレンチ調査,及び2016年度気象庁火山観測点ボーリングコア試料で認められた降下火砕堆積物の層序,層厚,粒径,放射性炭素年代値及び細粒物の構成物組成に基づき,日光白根火山の最近1400年間の噴火履歴を再検討した.今回確認した日光白根火山を起源とする3枚の降下火砕堆積物を,上位よりA,B,C降下火砕堆積物と呼ぶ.A降下火砕堆積物は地表下4–11 cmに位置する粘土質–砂質火山灰を主体とする火砕堆積物で,日光白根火山の最大の歴史噴火である西暦1649年噴火に対比できる.B降下火砕堆積物は12世紀の外来火山灰(浅間Bテフラ)を直接覆う,砂質火山灰を主体とする火砕堆積物で,12世紀噴火によるものと考えられる.C降下火砕堆積物は,6世紀中葉の外来火山灰(榛名二ツ岳伊香保テフラ)の上位に薄い土壌を挟んで覆い,浅間Bテフラに覆われる.この層序関係と4点の土壌の放射性炭素年代値から,C降下火砕堆積物は7世紀中頃–8世紀初頭の噴火の噴出物と考えられる.3枚の降下火砕堆積物のうちC降下火砕堆積物は,最も日光白根山山頂付近の層厚が厚く,堆積物の粒径も大きい.したがって,7世紀中頃–8世紀初頭の噴火は,古記録上最大規模の西暦1649年噴火よりも噴火規模が大きかったと考えられる.

東京層の模式コアセクション(代々木公園コア)における層序の再検討

中澤 努・納谷友規・坂田健太郎・本郷美佐緒・鈴木毅彦・中山俊雄

 東京層の模式コアセクション(代々木公園コア)の層相,テフラ,花粉化石群集等に基づき東京層の層序を再検討した.コアの層相及び既存ボーリングデータの解析から,東京層は開析谷埋積層である下部とそれとは対照的に広範囲に比較的平坦に分布する上部に分けられる.これらは1回の海進・海退で形成された堆積サイクルである.東京層はKlPテフラ(MIS 5e後期)を挟む下末吉ローム層に覆われる.また東京層の下部から産出する花粉群集は鹿島沖海底コアのMIS 5e前期から中期の群集に比較可能である.よって模式コアセクションの東京層は主に最終 間氷期であるMIS 5eに形成されたと考えられ,千葉県北部地域の下総層群木下層,世田谷地域の世田谷層及び東京層に相当する一連の堆積物に対比される.しかし東京都内の他地域で東京層と呼ばれている地層が同一の地層とは限らないため,東京層についてはさらなる検討が必要である.

四国東部の池田地域における和泉層群滝久保層と堀田層の珪長質凝灰岩のLA–ICP–MS ジルコンU–Pb 年代

野田 篤・檀原 徹・岩野 英樹・平田 岳史

 四国東部の池田地域に分布する和泉層群の滝久保層と堀田層の堆積年代を制約するために,挟在する珪長質な凝灰質岩に含まれるジルコン粒子のLA-ICP-MS U–Pb年代を測定した.測定にあたり,滝久保層の上部から1試料(IT01),堀田層の下部から2試料(IT02とIT03)を採取した.測定によって求められた206Pb/238U年代とその誤差(2σ)は,IT01が78.3 ± 1.3 Ma,IT02が80.8 ± 1.2 Ma,IT03が79.3 ± 1.1 Maであったが,このうちの2試料(IT01とIT03)がχ2red 検定に合格した.検定に合格した2試料が示すU–Pb年代は,採取した凝灰岩の堆積年代の下限を規制し,それは中期カンパニアン期(古地磁気年代層序区分のchron C33n)に相当する.これらの年代値は,西隣の観音寺地域から報告されている滝久保層下部の年代値(80.8–78.3 Ma)とほぼ同じであり,滝久保層下部から堀田層下部にかけての見かけの層厚が12 kmに及ぶにもかかわらず,ジルコンのU–Pb年代値は層序的下位から上位にかけて若くなっていく傾向を見せていない.この理由として,和泉層群の当時の堆積速度が非常に大きかったこと,または若いジルコン結晶を生成・供給する火成活動が後背地において一時的に不活発となっていたことが考えられる.

クリティカルテイパーモデル- 土質力学の基礎からの導入

高下裕章・野田 篤

 クリティカルテイパーモデルはプレート収束域に向かって先細る楔形を示すfold-and-thrust beltや付加体の断面形状と断層強度の関係を理解するためのモデルとして土質力学を基礎に考案された.この理論モデルを用いることで,地形パラメータから(1)沈み込み帯同士の比較,(2)単一沈み込み帯内での空間分布の比較,(3)単一沈み込み帯内での時間変化の比較が可能となる.ただし,本理論は日本における地質分野では利用者が少ない.これは日本語による解説がほとんどないこと,土質力学を基礎とすることによると考えられる.本解説では,クリティカルテイパーモデルについての読者の理解の助けとなることを目的として,まず土質力学におけるモール・クーロンの破壊基準から一般的なクリティカルテイパーモデルを導入し,さらに最新の論文でどのように活用されているか,その計算方法までを紹介する.