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地質調査研究報告 Vol.68 No.5(2017)

表紙

馬仙峡(二戸市)の女神岩

馬仙峡(二戸市)の女神岩 岩手県北部の馬淵川には巨岩・奇岩の景勝地があり,初代民選知事の国分謙吉により馬仙峡と命名された.馬仙峡の主体をなすのは,(男神岩おがみいわ)(女神岩めがみいわ)(あわせて夫婦岩),(大崩崖おおほうがけ)で,これらは中新世中期の初頭に浅海で噴出した玄武岩質安山岩~デイサイト質の火山岩(末ノ松山層合川火山岩部層)である.本部層の下位には浅海成の砂岩が発達しているが,意外にも保存のよい珪藻が産している.本地域は三陸沖の深海掘削コアの珪藻層序と対比され,本部層の放射年代と合せて北太平洋珪藻化石層序の確立の初期に大きく貢献した.写真は女神岩で,下部は塊状の溶岩,上部は溶岩が水冷破砕した火山角礫岩からなる.

(写真・文:辻野   匠)

目次

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タイトル著者PDF
論文
金沢市南部に分布する中新統“犀川層”の層序学的再検討 山田敏弘・手塚翔太・神谷隆宏・柳沢幸夫 68_05_01.pdf [21MB]
概報
東北日本における大山倉吉テフラと山陰1テフラの降下層準 山元孝広 68_05_02.pdf [2MB]
資料・解説
5万分の1 地質図幅「一戸」地域(岩手県北部)の中新統から産出した珪藻化石 辻野   匠・柳沢幸夫 68_05_03.pdf [15MB]

要旨集

金沢市南部に分布する中新統“犀川層”の層序学的再検討

山田敏弘・手塚翔太・神谷隆宏・柳沢幸夫

 石川県金沢市南部地域に分布する中新統“犀川層”の層序を岩相層序学・生層序学的研究から再検討した.ここでは,従来の“犀川層”を下位から,山科層,犀川層(再定義),小寺山層に区分した.山科層は泥岩を主体とし,珪藻化石帯NPD4Aの約15.6–15.4 Maを示す珪藻化石を含む.犀川層は主に粗粒砂岩からなり,得られた珪藻化石は再堆積であると考えられる.しかし,以前の研究で,CN5a帯(13.6–11.8 Ma)の石灰質ナノ化石が報告されている.これらのことは,犀川層が山科層を不整合に覆うことを示す.小寺山層は,細粒砂岩を主体とし,その基底礫岩は犀川層上部を侵食している.また,小寺山層は上位の更新統大桑層の基底礫岩に侵食されている.小寺山層からは,日本では3 Maまでに絶滅したカリア属(クルミ科)の内果皮が産出した.従って,大桑層は不整合で小寺山層を覆い,両者の間には130万年以上の堆積間隙があると考えられる.

東北日本における大山倉吉テフラと山陰1 テフラの降下層準

山元孝広

 大山倉吉テフラ(DKP)は,日本列島を広く覆う後期更新世の重要な指標テフラである.しかし,文献に記載されたDKPの降下層準は,特に東北日本と他地域とで年代的なずれがあることが指摘されていた.本研究では,東北日本南部地域でDKPに対比されていたテフラ層の火山ガラスの主成分組成を分析し,水月湖の年縞コアSG06から報告されている火山灰データとの比較を新たに行った.その結果,磐梯山周辺で沼沢水沼テフラ(Nm-MZ)の直上にあるDKPに対比されていたテフラは,山陰1テフラ(SAN1)を誤認したものであることが明らかになった.すなわち,修正されたテフラ層序は,下位からDKP,Nm-MZ,SAN1の順になる.

5万分の1 地質図幅「一戸」地域(岩手県北部) の中新統から産出した珪藻化石

辻野   匠・柳沢幸夫

 地質調査総合センター発行の5万分の1地質図幅「一戸」(地域地質研究)の作成において,層序対比のために実施した中新世珪藻化石層序の分析データを報告する.本報告では,門ノ沢層,末ノ松山層,十文字層,柳沢層及び舌崎層から産出した珪藻化石の相対産出頻度を記載した.