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地質調査研究報告 Vol.63 No.7/8 (2012)

表紙

兵庫県、明延鉱山の操車場:一円電車の終点

兵庫県、明延鉱山の操車場:一円電車の終点

 

兵庫県中部、生野・明延鉱床は世界を代表する多金属鉱脈として著名である。生野鉱床が古く、その歴史は平安朝初期の大同2年 (807) の銀山に始まると言われ、後にベースメタル・スズなどを採掘した。明延鉱床も神子畑銀山に始まり、西北西方にベースメタル・スズ・タングステン含有鉱脈を発見し、昭和62年 (1987) まで採掘し、なお鉱石を残しながら円高のために閉山を余儀なくされた。明延鉱石は立坑で捲き上げられ、そこから約6 kmの神子畑選鉱場へ電車で運ばれ処理されたが、この電車は一般にも解放され一円電車として愛された。写真は明延鉱山側の操車場であり、中央と右手に機関車がみえる。

(写真・文:石原舜三)

目次

全ページ PDF : 63_07_full.pdf [8.2MB]

タイトル著者PDF
論文
Petrochemistry of the Late Cretaceous-Paleogene igneous rocks in the Ikuno-Akenobe mines area, Southwest Japan Shunso Ishihara and Bruce W. Chappell 63_07_01.pdf [2.1MB]
滋賀県田上花崗岩体ペグマタイト中のジルコン:産状・形態・組織・化学組成
角谷安華・河野俊夫・中野聰志・西村彰子・星野美保子 63_07_02.pdf [3.5MB]
※2012年12月25日 受付年月日の修正
(正)受付:2012年5月18日
(誤)受付:2011年5月18日
短報
山陰地方中部における飛騨と三郡変成岩類に貫入するジュラ紀花崗岩類 石原舜三・平野英雄・谷 健一郎 63_07_03.pdf [1.9MB]
※2013年1月15日 p229,p231の柱の修正

要旨集

兵庫県明延-生野地域の鉱化作用と後期白亜紀火成岩類の化学的性質

石原舜三・B. W. Chappell

生野-明延鉱床は日本を代表する多金属石英脈鉱床である。鉱脈は、明延鉱床においては古生代末期-中生代初期の苦鉄質岩類と変成岩類とを母岩とし、生野鉱床では後期白亜紀火山岩類と岩脈類を母岩とする。生野鉱床の鉱脈は、主力の金香瀬鉱脈群がN-S系、東に急傾斜し、一部、NW-SE系である。その他の太盛・青草地区では、主にNW-SE系とN-S系走向で、急傾斜を持つ。鉱脈は多金属性で、ベースメタルの他、金銀に富み、かつ錫を含むが、タングステンに乏しい。これらの鉱石鉱物は、鉱床の中心から外方へ、Sn-Cu帯、Sn-Cu-Zn 帯、Zn帯、Pb-Zn帯、Au-Ag帯、不毛帯のゾーニングを持つ。インジウム鉱物も多産する。明延鉱床は母岩が苦鉄質岩類と変成岩類である点は生野鉱床とは異なるが、一般にはNW-SE系、西部でNE-SW系に彎曲する急傾斜鉱脈である。鉱脈はここでも多金属的であるが、生野鉱床に較べて、金銀・鉛に乏しく、スズとタングステンに富む。またその多金属性は鉱化ステージが違う複合鉱脈として見られ、早期Pb-Zn-Cu脈に、後期W-Sn-Cu脈が重複し、複合鉱脈を構成する。 後期白亜紀の生野層群は下部から上部へ、含角礫黒色頁岩 (ISo)、デイサイト質火砕岩(IDco)、黒色頁岩/砂岩凝灰岩 (IS1)、流紋岩>安山岩質火砕岩 (IX)、流紋岩質溶結凝灰岩 (IR1)、凝灰岩/頁岩 (IS2)、安山岩と同質凝灰岩 (IA2)、流紋岩質溶結凝灰岩 (IR2)、凝灰岩/頁岩 (IS3)、安山岩と同質凝灰岩 (IA3)、凝灰岩/頁岩 (IS4)、デレナイト溶結凝灰岩 (ID4) に分類される。これらの火山岩類は帯磁率測定と顕微鏡観察により、磁鉄鉱系に属するものと判断される。二成分変化図上ではややカリウムに富むものの一般のカルクアルカリ岩系の領域を占める。銀とベースメタルに富む生野鉱床の冨鉱部は玄武岩岩脈と流紋岩岩脈と空間的に密接であり、ベースメタルは前者とスズは後者に由来した熱水鉱液から沈殿した可能性が大きい。明延鉱山内の岩脈類も磁鉄鉱系に属する玄武岩から流紋岩に至るシリカ含有量を持ち、一部でショショナイトと高カリウム岩にプロットされるものもあるが、多くは中程度のカリウムを持つ一般のカルクアルカリ岩である。早期のベースメタル鉱化はこのような火山岩類に由来した鉱液に関係し、後期のスズに富む鉱化は潜在する珪長質岩体からもたらされた鉱液から沈殿した可能性が考えられる。地表に露出する和田山花崗岩は、鉱化関係花崗岩としては微量成分としてのスズには富むが、フッ素に乏しい難点がある。

滋賀県田上花崗岩体ペグマタイト中のジルコン:産状・形態・組織・化学組成

角谷安華・河野俊夫・中野聰志・西村彰子・星野美保子

滋賀県南部田上花崗岩体を構成する中粒斑状黒雲母花崗岩中の岩脈状ペグマタイトから採集したジルコン粒子について、産状・形態・組織・化学組成の特徴を解析した。これらのジルコンは、肉眼的な大きさと肉眼及び顕微鏡観察による形態の違いに基づいて長柱状のType Iジルコン (幅0.05-1 mm、長さ3 mm-1 cm) と放射状や樹枝状で産するひも状 (幅0.01-0.05 mm、長さ1-3 mm) の Type IIジルコンに分けられる。両者は、ともに文象帯・巨晶帯を通して共存している。Type Iジルコンは、鏡下でのc軸に垂直な断面において矩形、L字型、コの字型の多様な形態変化を示す。全体がclear (清澄) な粒子もあるが、内部のclearな部分と周辺部のマイクロポアの多いturbid (汚濁) 部分 (spongy部分) からなる粒子が多い。Type IIジルコンは、基本的に鏡下ではturbidに見えるspongy部分から構成される。EMPAによる反射電子線像及び元素マッピングにより、Type I ジルコンのclear部分には化学組成の違いによるゾーニング (帯状) 組織が、turbidなspongy部分には組成変化によるまだら状組織がそれぞれ観察される。ゾーニング組織やまだら状組織は、Zr及びHfの分布と放射性元素 (U+Th)、REE (Yb、Y、Dy) 及びPの含有量の違いに対応している。マイクロポアを伴いspongyである Type IIジルコンは、Type I spongyジルコンと同じく化学組成変化による細かいまだら状組織を示す。EMPAによる定量分析の結果、Type Iのclear部分のジルコンの分析値合計は100 wt.%前後であるが、Type I・Type IIのspongyジルコンは合計が95 wt.%より低い場合が多く、特にType IIジルコンは80 wt.%台の場合も多い。ただし、今回の化学分析値による構造式計算においては、いずれのタイプのジルコンも化学量論をほぼ満たしている。今回の組織と化学組成のデータからは、Type I clearジルコンはもとの組成を保持しており、Type I・Type II spongyジルコンは熱水反応を受けた二次的なものである可能性がある。Type IIジルコンと比べてUの量が多いType Iジルコンは、日本のペグマタイト中のジルコンの中でもUの量が多い部類に入る。