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地質調査研究報告 Vol.62 No.1/2 (2011)
特集 : 大都市圏の平野地下地質・構造の総合研究
- その3 : 沖積層のボーリングコア解析とpH・EC 特性 -
表紙
中川低地南部の沖積層の基盤地形
埼玉県東部に広がる中川低地の地下には、最終氷期の海水準低下期における河川侵食で形成された開析谷地形とその後の海水準の上昇に伴う海岸侵食地形が埋も れている。この図は自治体およびその他の公共団体から提供していただいた約4000 本のボーリングデータについて沖積層基底深度を検討して、その結果をArcGIS 上で逆距離加重法により補間して面モデルをもとめて描画した (中西ほか、2007)。図の春日部から三郷まで延びる谷は、南流する古中川の谷であり、本論 で紹介するGS-KBH-1, GS-MHI-1 の両コアが位置する。この開析谷の地形は、更新世最後期から現在にかけて、河川や内湾で形成された未固結の堆積物によって覆われている。引用文献・内容の 詳細は本号の中西ほか (2011)を参照。
(図・文 : 中西利典)
目次
全ページ PDF : 62_01_full.pdf [15.7MB]
タイトル | 著者 | |
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巻頭言 : 都市地質研究の展開 (その3) | 木村克己 (001-002) | 62_01_01.pdf [0.7MB] |
論文 | ||
埼玉県三郷市彦成地区の沖積層コア (GS-MHI-1) の堆積相・珪藻化石群集組成・物性・放射性炭素 年代値 |
中西利典・田辺 晋・木村克己・中島 礼・内山美恵子・柴田康行 (003-046) | 62_01_02.pdf [7.4MB] |
埼玉県春日部市東備後地区に分布する沖積層の堆積相、珪藻化石群集、物性、放射性炭素年代値 | 中西利典・田辺 晋・木村克己・中島 礼・内山美恵子・柴田康行 (047-084) | 62_01_03.pdf [6.5MB] |
東京低地と中川低地の沖積層堆積物で作成した懸濁液の水素イオン濃度指数及び電気伝導度 | 内山美恵子・原未来也・竹内美緒・木村克己 (085-104) | 62_01_04.pdf [2.5MB] |
要旨集
埼玉県三郷市彦成地区の沖積層コア (GS-MHI-1) の堆積相・珪藻化石群集組成・物性・放射性炭素年代値
中西利典・田辺 晋・木村克己・中島 礼・内山美恵子・柴田康行
中川低地南部の開析谷中軸で掘削した沖積層ボーリングコア試料 (GS-MHI-1) を用いて、堆積相、珪藻化石群集組成、物 性、AMS放射性炭素年代値について検討した。その結果、下位から、網状河川流路、蛇行河川の氾濫原、潮汐の影響した流路、潮汐の影響した上方深海化する 浅海底、上方浅海化する浅海底、河川と潮汐の影響した上方浅海化する浅海底、現世河川流路〜氾濫原の合計7つの堆積相を認定した。これらの堆積相を開析谷 西縁部での解析結果及び既存土質柱状図と対比することによって、下位から、網状河川、蛇行河川、エスチュアリー、デルタの合計4つの堆積システムを開析谷 の横断
方向で認定した。その結果、蛇行河川システムによる地層はほぼ水平に分布するのに対して、エスチュアリーとデルタシステムによるものは非対称に分布するこ とを推定した。この沖積層上部の軟弱な海成泥層は谷の西縁辺から中軸へと徐々に形成されたものであり、この非対称な分布は建造物の構造・工法や大規模地震 による強震動、地盤沈下被害などに影響をもたらす可能性がある。
埼玉県春日部市東備後地区に分布する沖積層の堆積相、珪藻化石群集、物性、放射性炭素年代値
中西利典・田辺 晋・木村克己・中島 礼・内山美恵子・柴田康行
埼玉県東部の中川低地一帯では、1923年の大正関東地震の際に震源から100km程度離れているにもかかわらず震度7に相 当する家屋の倒壊被害が報告されている。この被害の大きい地域に分布する沖積層の特徴及びその成因を調べることを目的にして、春日部市備後東地区で掘削し たボーリングコア試料 (GS-KBH-1) を用いて、堆積相・珪藻化石群集組成・物性・AMS放射性炭素年代値について検討した。その結果、沖積層は下位 から、網状河川流路、蛇行河川の氾濫原、干潟、潮汐の影響した上方深海化する浅海底、上方浅海化する浅海底、塩水湿地、現世河川流路〜氾濫原の合計6つの 堆積相が認定できる。表層〜深度20m以上に分布する泥層は、9,000 calBP 〜現世にかけて0.5 mm/yr 程度のほぼ一定した堆積速度で徐々に形成されており、低密度・高含水率・低N値の特徴を有する。このような軟弱な泥層は、奥東京湾から現在の低地へと移り 変わる過程で形成されたものであると考えられる。こうした泥層が分布する地域でも近年では都市化が進行しているので、将来発生する大規模地 震の際には強震動について留意する必要がある。
東京低地と中川低地の沖積層堆積物で作成した懸濁液の水素イオン濃度指数及び電気伝導度
内山美恵子・原未来也・竹内美緒・木村克己
沖積層の原位置の化学的特性を得るための懸濁液作成法として、地盤工学会の土質試験法の懸濁液作成法 (JGS法) と、環境省 の公定法の検液作成法 (OM法) の両方法を参照して、適切な検液作成法を得るために基礎実験をおこなった。その結果、OM法に規定されているろ過、乾燥、 振とうの各処理について、pHとECともに影響を受けることが判明した。本実験では、JGS法についてはOM法のろ過処理を加え、OM法では乾燥処理と酸 処理を省くという修正をした上で、両方法による分析実験を行った。分析対象とした沖積層の堆積物試料は、産総研の都市地質プロジェクトで実施された東京低 地と中川低地で得られた層序ボーリングコアから採取した。採取した堆積物試料から懸濁液を作成し、そのpHとECを測定した。pHとECの深度方向の変化 プロファイルは3本のコアでほぼ共通しており、上位より下位へ、最上部低値安定区間、上部遷値区間、中部高値安定区間、下部遷値区間、最下部低値安定区間 の5つの区間に識別される。中性でかつ低EC値を意味する最上部と最下部の両低値安定区間は、pHとECともに同一深度範囲であり、相当する堆積物は淡水 成環境の蛇行河川堆積物に限定される。一方、弱アルカリ性, 高EC値を意味する中部高値安定区間は、pHに比べてECの同区間が短いがいずれもデルタシステムの海成環境の堆積物に限定されることが判明した。中部高 値安定区間のpHは、フィルタリング処理の中で1 〜 1.5低下していることを考慮すると、原位置の同pHはpH9-10 である。今回得られた沖積層の海成堆積物試料の懸濁水のpHとEC、主要イオン濃度は海水と比較すると、イオン濃度が桁違いに低く、イオン組成ともに違っ ていることから、堆積後現時点までに顕著なイオンの溶脱・移動や化学反応があったものと推定される。しかし、今回得た沖積層のpHとECの深度変化の特徴 的なプロファイルは、淡水成と海成の堆積環境を識別 する指標として利用できるものと期待される。
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