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地質調査研究報告 Vol.53 No.11/12 (2002)

表紙 | 目次 | 要旨集

表紙

採水器を投入する瞬間 (左). 採泥器を投入する瞬間 (右)

採水器を投入する瞬間 (左). 採泥器を投入する瞬間 (右)

   (左の写真) ワイヤー先端に約50kgの錘 (黄色い円柱) を装着して機材の浮力を低減し、真直ぐ降下させる。その直上から上に、音波発振器 (海底からの距離を測る)、TD計 (水温、水深を測る)、GO-FLO採水器 (複数) を装着する。音波発振器が目標位置に達したら、船上からメッセンジャーという器具をワイヤー伝いに投下する。上から下へ逐次、採水器の蓋が閉まり、最下部が閉まると発信音が変化するので、引き揚げる。本採水器は、水面から水深 10m までの汚水が器内と触れない工夫がなされている。
   (右の写真) 下蓋が開いたまま降下し、海底突入時の衝撃で自動的に蓋を閉める。本採泥器は、海底表層の堆積物の構造を乱さず採取できるよう工夫されている。海域によっては、海底表面を覆うマンガン団塊も採取される。

(三田直樹)

目次

タイトル著者PDF
論文
Platinum and palladium abundances in marine sediments and their geochemical behavior in marine environments Shigeru Terashima, Naoki Mita, Seizo Nakao and Shunso Ishihara (725-747) 53_11_01.pdf [801 KB]
関東平野の土壌中微量有害元素 (As, Sb, Pb, Cr, Mo, Bi, Cd, Tl) の地球化学的研究  - 土壌地球化学図の基礎研究 (第3報) - 寺島  滋・太田充恒・今井  登・岡井貴司・御子柴真澄・谷口政碩 (749-774) 53_11_02.pdf [1,877 KB]
資料・解説
中国地方および九州地方の新生代貝類化石標本 栗原行人・鵜飼宏明・中島  礼・岡本和夫・松江千佐世・柳沢幸夫 (775-793) 53_11_03.pdf [558 KB]
Practical method of determining plagioclase twinning laws under the microscope Yuhei Takahashi (795-800) 53_11_04.pdf [715 KB]

要旨集

海底堆積物中の白金とパラジウムの存在量とその地球化学的挙動

寺島  滋・三田直樹・中尾征三・石原舜三

   日本列島周辺海域 (陸源性堆積物)、マリアナ海嶺 (半遠洋性堆積物)、太平洋中央部 (遠洋性堆積物) で採取された海底堆積物 284 試料について、溶媒抽出分離―黒鉛炉原子吸光法により ppb レベルの微量の白金 (Pt) とパラジウム (Pd) の正確な存在量を定量し、地球化学的挙動を考察した。比較のため、湖沼堆積物及び堆積岩類も分析した。遠洋性堆積物は、陸源性堆積物に比べ平均値で約3倍の Pt、Pd を含有しており、半遠洋性堆積物は中間的な含有量であった。多くの試料は、Pd よりも Pt に富む特徴が認められたが、赤道付近の生物生産が活発な海域には Pd に富む珪質堆積物が分布しており、生物濃縮の可能性を示唆している。試料を採取した地点の水深と Pt、Pd の含有量の間には一定の傾向は存在しないが、堆積速度との間には負の関係があり、堆積速度の遅い海域で高濃度を示す。深海底堆積物における Pt、Pd の供給源として宇宙物質の影響が指摘されているが、Mn/Pt、Cu/Pt 等の存在比は宇宙物質のそれよりも地殻物質に類似している。地殻物質の風化・変質により溶出した Pt、Pd が、主として難溶性の酸化物態あるいは還元されて元素態となり、鉄やマンガン等の遷移金属とともに海底堆積物に移行すると考えた。堆積層内における Pt、Pd 等の鉛直分布の特徴から、初期続成作用に伴う移動と濃集の影響は、極く一部を除いて無視できると判断された。これまでに報告された Pt、Pd の地殻存在量 (Pt, Pd とも 0.4-10 ppb) にはかなりのばらつきが認められるが、本研究で陸源性堆積物、湖底堆積物、堆積岩等合計 281 試料の分析値から算出した地殻存在量は Pt 2.7 ppb、Pd 1.9 ppb である

関東平野の土壌中微量有害元素 (As, Sb, Pb, Cr, Mo, Bi, Cd, Tl) の地球化学的研究  -土壌地球化学図の基礎研究 (第3報) -

寺島  滋・太田充恒・今井  登・岡井貴司・御子柴真澄・谷口政碩

   土壌地球化学図の作成に関する予察的研究の一環として、関東各地から採取した火山灰質土壌と沖積層土壌中の微量有害元素 (As, Sb, Pb, Cr, Bi, Cd, Tl) を分析し、地球化学的挙動を研究した。柱状試料における元素濃度の鉛直分布を支配する要因としては、土壌母材の起源、堆積環境、粒度組成、生物濃集、続成・風化作用の影響等が重要である。Mo, Cr 以外の元素は最表層部で高濃度を示す場合が多いが、これは人為的な汚染ではなく、主として生物濃集と考えられた。かって海水の影響下にあった土壌は As, Sb に富む傾向があり、海水中元素の吸着を示唆する。関東平野の火山灰質土壌の母材は、北部では主として赤城山、男体山起源の安山岩質噴出物、南部では富士山起源の玄武岩質噴出物である。土壌中の多くの重金属は、母材の起源を反映して北部よりも南部で高いが、As, Pb, Bi, Tl は概括的には南部よりも北部で高濃度を示す。沖積層土壌には、基盤岩由来の砕屑物が混入する等の理由で系統的な南北変化は存在しない。微量有害元素のほとんどは、テフラ層が風化しても低濃度にならず、As, Sb, Pb 等では最大 20% 程度の濃度増加が推察された。地殻と土壌中の元素濃度を比較した結果、As, Sb, Pb, Bi は土壌中に顕著に濃集される傾向があり、その原因としては生物濃集、海水の影響、風化・続成作用の影響、広域風成塵の混入等が考えられた。

中国地方および九州地方の新生代貝類化石標本

栗原行人・鵜飼宏明・中島  礼・岡本和夫・松江千佐世・柳沢幸夫

   1994年、著者の一人岡本は広島大学を退官するにあたり、在職中に収集・研究した中国および九州地方 (一部北陸地方を含む) の新生代貝類化石標本を、旧地質調査所の地質標本館に寄贈した。これらの貝類化石標本には、新種創設の基準となったタイプ標本 (例えば、Acesta (Plicacesta) watanabei Nakano and Okamoto のホロタイプ) や現在ではほとんど採取不可能となってしまった産地の保存良好な標本 (例えば、島根県邇摩郡仁摩町の川合層産標本) が含まれており、本邦の新生代貝類化石研究の上で非常に貴重な標本である。今回、地質標本館に寄贈された標本の整理と登録が終了したので、それらの標本のリストと、産地図および一部の標本の図版を添えて研究資料として公表する。

鏡下における実用的な斜長石双晶決定法

高橋裕平

   天然の岩石には多様な斜長石双晶形式が出現するが、その意味の理解には最近の地質学的な解析の結果を加味した再検討が必要である。そのためには、迅速で信頼性の高い斜長石双晶決定法が要求される。そこで小論ではその方法を整理した。双晶決定には自在回転台を利用する。双晶は接合面と対称軸の位置関係から定義できるので、まず接合面を劈開あるいは対角位での光学的な伸長性から決定する。次に垂直双晶か平行双晶か複合双晶かを、対称軸と接合面の関係に基づく光学的な特性から決定する。これらの結果を組み合わせることで、天然に産するほとんどの斜長石双晶形式を同定できる。