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地質調査研究報告 Vol.53 No.7/8 (2002)
表紙
つくば市花室川中流域から産出したナウマンゾウの左下顎骨化石
茨城県つくば市東部を流れる花室川の河床からは、Palaeoloxodon naumanni (Makiyama) (ナウマンゾウ) の化石が多産することが知られる。写真のナウマンゾウの左下顎骨は、1977年2月に市原 進氏によって発見された標本で、左下第三大臼歯を伴う (増田ほか、1978)。写真下は下顎骨の口の内側からみた側面 (舌側面) で、右方が前側 (近心側) となる (実物の26%に縮小)。上方からみると (写真上)、大臼歯は一部破損しているが、エナメル環を持つ14枚の咬板がみられる。この下顎骨の産出層は、桜川段丘堆積物に相当する緩斜面堆積物の 3.5〜2.5万年前の層準であり、最終氷期極相期より前の寒冷な時代に相当する。この標本は現在、つくば市桜歴史民俗資料館に展示されている。本号掲載の中島ほかを参照。
(写真と文 : 中島 礼・利光誠一・磯部一洋)
目次
タイトル | 著者 | |
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論文 |
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福島県における温泉・湧水中の天然放射性核種 | 金井 豊 (559-572) | 53_07_01.pdf [7,946 KB] |
福岡地域の重力異常について | 森尻理恵・広島俊男・駒沢正夫・牧野雅彦・村田泰章・名和一成・西島 潤・茂木 透 (573-594) | 53_07_02.pdf [6,797 KB] |
つくば市花室川中流域に分布する更新統最上部の大型哺乳類化石産出状況と古環境 | 中島 礼・磯部一洋・利光誠一・佐藤喜男 (595-630) | 53_07_03.pdf [14,927 KB] |
講演要旨 | ||
第1回深部地質環境研究センター研究発表会講演要旨およびポスター発表概要 | (631-633) | 53_07_04.pdf [38 KB] |
要旨集
福島県における温泉・湧水中の天然放射性核種
金井 豊
温泉・湧水など環境水中のウラン系列核種の濃度と、系列核種相互の関係を明らかにするために、福島県を中心に温泉・鉱泉などの湧水を調査した。その結果、ウラン濃度は花崗岩類、片麻岩、第三紀堆積岩、火山砕屑岩類等のうち花崗岩類分布地域の温泉に相対的に濃度が高く存在し、基盤岩における濃度との関係が示唆された。しかし、絶対量についてはかなり低濃度で、その多くは 0.2ppb 以下であった。低濃度である原因としては、地下での還元的な環境が原因と推定された。また、U-234/U-238 放射能比、Ra-226/U-234 放射能比、Rn-222/Ra-226 放射能比はいずれも 1 よりも大きい傾向にあり、娘核種の方が多く溶解していることが明らかとなった。ウラン、ラジウム、ラドン濃度と水質等との間に明らかな関係は見いだせなかったが、ラジウムに関しては水温と相関があるような傾向がみられた。花崗岩地域での試料についてみると、ウランは酸化還元電位、溶存酸素量に正の相関を、pH に対して負の相関を示した。ラドンは溶存ラジウム量から推定されるよりもはるかに過剰にとけ込んでいることが判明した。この過剰ラドンの供給源としては地下の岩石中ラジウムと考えられ、地層中の細かな水みちを通過する間に岩石表面のラジウムからラドンが供給されるというモデル計算を行って、定性的な確認を行った。
福岡地域の重力異常について
森尻理恵・広島俊男・駒沢正夫・牧野雅彦・村田泰章・名和一成・
西島 潤・茂木 透
地質調査総合センター (旧・地質調査所) では、20万分の1重力基本図の系統的整備を行っており、今回18番目の「福岡」が出版された。重力基本図「福岡」は、東経130度から131度7.5分、北緯32度40分から34度0分の範囲で作成され、整理された10,424点の既存重力データと福岡市周辺地域において地質調査総合センターが補足測定を行った329点、ならびに九州大学が高測点密度調査を行った1,184点が含まれる。なお図化作業はコンターの打ち切り誤差を緩和するために図画の外側に緯度経度5分程度ずつ広げた範囲のデータも取り込んで行われた。ブーゲー異常図作成のための仮定密度は 2.3g/cm³ とした。新規測定点のうち福岡市とその周辺で得られた706点の一覧を文末に付けた。福岡市中心部の低地と周辺の山地の地質構造境界が、重力異常図によって、よりはっきりと示された。
つくば市花室川中流域に分布する更新統最上部の大型哺乳類化石産出状況と古環境
中島 礼・磯部一洋・利光誠一・佐藤喜男
つくば市東部を流れる花室川中流域の河床からは、多数の大型哺乳類化石が産出している。その化石の中でも Palaeoloxodon naumanni (Makiyama) (ナウマンゾウ) の臼歯と切歯が大多数を占める。花室川中流域を調査したところ、これらの哺乳類化石の含有層は、更新世末期の桜川段丘堆積物に相当する緩斜面堆積物であることがわかった。その中に含まれる材や泥炭を用いて 14C 年代を測定したところ、化石含有層は最終氷期極相期より前の約3.5〜2.5万年前の堆積物であることが明らかとなった。また同層から採取された植物化石を検討したところ、Pinus koraiensis Siebold et Zuccarini、Picea 属、Larix 属などの針葉樹と Styrax japonicus Siebold et Zuccarini、Betula 属などの広葉樹の球果や種子が同定された。以上の年代、植物化石の検討により、哺乳類化石含有層堆積時は、冷温帯の気候下で広葉樹と針葉樹が混合した森林が分布していたことが推定された。
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