土壌・地下水汚染の古くて新しい問題
-地圏環境における汚染問題のリスク低減のために-
2021年 4月13日 開設
土壌・地下水汚染は、古くは「足尾鉱毒事件」、近年では福島第一原子力発電所事故による放射能汚染や豊洲市場移転に伴う土壌汚染が問題となっています。これらの汚染問題は日本の経済成長、産業の発展に伴って、多様化・複雑化してきました。また、これら人為起源物質による汚染だけでなく、天然の土壌中に高い濃度で含まれる重金属類に由来する汚染も問題となっています。土壌や地下水などの地圏環境における汚染は人の健康だけではなく、動植物や生態環境に深刻な影響を与え、時には大気汚染に関与することもあります。また、汚染問題が発覚した場合、いかなる対策を講じても総合的なリスクをゼロにすることは難しいと考えられています。
そこで私たちは、リスクと上手に付き合うために、各種汚染物質の調査・評価技術、浄化・対策技術およびリスク評価・管理技術に関する研究開発に取り組んでいます。具体的には汚染物質の拡散・溶出挙動の評価・シミュレーション技術の開発、現場での汚染物質の迅速測定技術開発といった基礎研究に加え、動電学的手法、微生物、天然鉱物、吸着材等を用いた現場に即した浄化技術の開発を行っています。また、土壌汚染等評価・措置に関する各種試験法の標準化として、ISO 化された上向流カラム通水試験のJIS 化、吸着層工法に使用する材料等の試験方法の標準化に関わる研究も実施しています。さらに、土壌中に元々含まれている自然由来重金属類の情報やそれらのリスクを評価した表層土壌評価基本図の整備を行うほか、汚染物質のヒトへのリスクが評価可能な地圏環境リスク評価システム(GERAS)を開発・公表し、土壌・地下水汚染の評価には環境リスクの概念に加え、社会・経済的側面も必要であることを提唱しています。
土壌に含まれる汚染物質の溶出・移動の特性を調べるためのカラム通水試験の様子
表層土壌評価基本図。鳥取県の表層土壌におけるクロム濃度の例