海洋地質図-日本の総面積の9割を知るために-
2021年 4月13日 開設
周辺海域の地質を知る
四方を海に囲まれた日本は、経済水域と「延長大陸棚」を含め、国土面積の約13倍の海域を有しています。この広大な海域を利用・管理するため、海域の断層活動による地震や津波、海底に眠る資源、海洋利用のための海底「地盤」、汚染物質の長期的な拡散・堆積など、海域の地質および地質現象が近年ますます重要視されています。
私たちは、日本の基盤情報として「海洋地質図」の制作を進めています。海洋地質図は、調査船に長期間乗船して海域で地質試料やデータを取得し、それらを分析・解析することで作成されます。「20万分の1海洋地質図」には、各区画で「海底地質図」と「表層堆積図」の2種類の地質図があります。
「海底地質図」は、音波探査断面を基に、海底下の地層の層序や地質構造を表現したもので,より深い地質構造を反映する重力異常・磁気異常の分布図を付図として作成しています。もう一つの海洋地質図である「表層堆積図」は、堆積物試料を基に、堆積物の分布、堆積層の層厚や堆積速度、堆積プロセス、堆積物の輸送方向などを表現したものです。
すでに北海道から九州までの主要4島周辺海域および奄美大島以南の南西諸島周辺海域の調査を終了し、解析の終了したものから順次、出版しています。2020年度から鹿児島県屋久島から奄美北方沖にかけてのトカラ列島周辺海域の調査を実施しています。この海域で3区画の20万分の1海洋地質図を作成し、その後沖縄トラフ海域での調査・地質図整備を推進する予定です。
マルチスケールな海洋地質情報
現在、日本を取り巻く海域では、海洋利用や環境評価、資源探査などの利活用のために、様々なスケールの地質情報の需要が高まっています。そのため、私たちは海域の基盤情報としての「20万分の1海洋地質図」整備に加えて、より高分解能な海洋地質情報の取得を推進しています。
産総研では最近、浅海域から深海域にかけた全水深において高分解能反射法音波探査断面を得るために、深海曳航型ブーマー/スパーカー音源や民間企業と共同開発した受信装置である深海曳航ストリーマケーブルを導入しました。それらの装置を用いて、中深海域における最表層の地層の分布や形状の把握、火成活動や活構造履歴の解明といった新たな地質情報の取得に挑戦しています。高分解能反射法音波探査断面の取得に加えて、各種機器およびセンサを導入し、海底面の音響画像や磁力データ、海底面近傍の水塊の化学組成データ等も取得しています。
私たちは、今後も海域における様々なスケールの海洋地質調査を総合することで、国の多様な要請に対応しつつ、安心・安全な社会の構築に向けて科学調査を進めていきます。
グラビティコアラーを用いた海底堆積物採取の様子。
対象とする試料(堆積物や岩石試料)に応じて、グラブサンプラーやドレッジなど異なるサンプリング機器を使用する
主に地震波反射のデータで作成された襟裳岬沖の海洋地質図。海底の地層や断層・褶曲などの地質構造の分布が分かる
音源選択式深海曳航音源装置。
水深や底質に合わせて、船上から選択可能なブーマー/スパーカー音源を備え、
中深海域でもより高分解能な音波探査断面を取得可能である