陸域地質図の作製-地質図をもっと身近に-
2021年 4月13日 開設
世界最高水準の緻密性
地質図の作製は、国の知的基盤整備の一つに位置づけられています。その目的は、国土の地質学的な実態を明らかにすることと、社会の安全・安心ならびに持続的発展を支えるために得られた情報を利用可能な状態に整えることです。1882年以来、旧地質調査所、そして地質調査総合センターは、5万分の1及び20万分の1地質図幅*1を作製・公表してきました。
日本列島は、プレートの沈み込み帯に位置するため活断層や火山が多く、また古生代以降の深成岩・変成岩・堆積岩から第四紀完新世の堆積物に至るまで多様な地質体で構成されています。したがって、日本の地質は海外に比べ極めて複雑です。そのような複雑な地質を理解するためには、高精度の地質図が必要です。「5万分の1地質図幅」は、数百日にわたる研究者の地質調査に基づいて詳細に記載した地質図で、世界でも最高水準の緻密性を誇ります。また、「20万分の1地質図幅」は、広範囲の地域を網羅した編纂地質図*2で、2010年までに日本列島の全区画を完備しました。
地質図幅の作製は、その地域の地史(地質形成史)の解明や、模式的な地層の設定(地質標準の確立)にも繋がり、地質学の進歩に大きく貢献しています。また地質図幅は、トンネル・ダム・橋梁などのライフライン構築、産業立地、廃棄物処分場、資源開発、ジオパークなどの観光開発(地域振興)、地質災害対策、ハザードマップの作成など様々な社会的場面で利用されています。例えば、平野地域の地質図幅に付属している地質断面図には、場所によって第四紀の沖積層が厚く表現されていることがあります。これは、かつて谷だった所を新しい時代の土砂が埋めたことを意味しています。この沖積層は軟弱な地層のため、地震の際に揺れを増幅させます。一見、どこも同じように見える平らな場所でも、局所的な厚い沖積層の部分では地震の被害が大きくなる可能性があり、それが地質図幅で読み取ることが出来ます。こうした情報は、建造物の立地を考えるときに役立ちます。このように、精緻な地質図は、様々な場面で有益な基礎データとなっています。
地質図をいつでもどこでも簡単に
地質図は、様々な地質情報を組み立てて、その時の知見を基に大地の成り立ちを復元・解釈した図面です。そのため、作製時期や作製者が違えば、隣同士の区画でも地質図は繋がらないことがあります。私たちは、こうした地質図の繋目がなくなるように地質を再解釈・調整(シームレス化)し、そして最新知見に基づいて全国統一凡例を作り、全国を一つにしたWeb地質図「20万分の1日本シームレス地質図*3」(https://gbank.gsj.jp/seamless/)を作製しました。
「シームレス地質図」は、パソコン、スマホやタブレットなどの画面上で自由に拡大縮小できます。また地質図中のある岩相をクリックすることで、そこの地質について岩石名や時代などの簡単な説明が表示されます。シームレス地質図を利用することで、一般の方にも地質の内容を容易に理解いただけます。シームレス地質図には、活断層や火山の情報を重ねることもできます。さらに3D表示も可能なので、地質と地形の関係が視覚的に理解できます。スマートフォンでも使用できるため、現在位置情報から足元の地質図を即座に表示させることが可能です。
シームレス地質図をベースに、「5万分の1地質図幅」や「海洋地質図」、「重力図」、「地球化学図」等をWeb上で自由に重ね合わせて表示できるようにしたものが「地質図Navi」(https://gbank.gsj.jp/geonavi/)です。「地すべり地形分布図」や「地震動予測地図」など他機関から配信されている情報も重ねることができます。これにより地質と他情報との関連性を調べることができるようになっています。
今後もこうした情報発信を進め、将来的には“天気図のように地質図を気軽に利用してもらえる社会”を目指しています。
注釈:
*1:緯度経度で区切られた四角の範囲の地質図のこと
*2:既存のデータを収集し、自らのデータと解釈を加え、編集した地質図のこと
*3:2006年に整備され、2015年に高精度の改訂版(「20万の1日本シームレス地質図V2」)を作製
リンク:
地質調査の風景。
地層の厚さや向き、岩石の種類などを調べ、必要に応じて化学分析や化石抽出のために試料採取を行う
5万分の1地質図「播州赤穂」(岡山及び兵庫県)の地質図とその説明書。
本図幅では、後期白亜紀に大規模噴火によって巨大カルデラが形成されたことが示された
20万分の1日本シームレス地質図。左上は北海道の羊蹄山周辺を3D表示させたもの