都市沿岸域の活断層と軟弱地盤を知る
2021年 4月13日 開設
海と陸で地質情報をシームレスに
重要な沿岸域の地下の地質情報
日本の都市は沿岸域に集中しています。工場地帯や空港などのインフラも多くは沿岸域にあります。 そのため、もしも沿岸域で地震が発生すれば、大きな被害が生じることは想像に難くありません。しかし実は、この沿岸域の地下については、これまで、地震減災対策に役立つ地質情報の整備が充分とは言えませんでした。沿岸域は、過去の海進・海退の繰り返しの中でつくられてきた複雑な地形の上を、軟弱な堆積物が厚く覆うことで出来ています。また、これまで陸側と海側では調査機関や調査手法が異なっていたこともあり、海から陸へと連続した地質情報が得られていない、つまり情報の空白域も多く存在しました。このため、私たちは、沿岸域をターゲットとして、 海陸でシームレスとなる地質・地球物理情報の整備を行うと共に、活断層の連続性・活動性の把握、地質図情報の3次元化、 軟弱地盤の物理特性の把握のための研究を行っています。
隠れた活断層を探す
近年、海域や陸域で個別に確認された活断層の多くは海陸で連続していることが確認されはじめています。このため、沿岸域の地震被害想定のためには、活断層の海陸の連続性と活動性を正確に把握することが重要です。沿岸域の活断層調査では、海域での音波探査・表層堆積物調査、陸域での反射法地震探査・ボーリング調査・野外露頭調査、海陸での重力・空中磁気探査など、多角的な調査によって正確な情報の把握に努めています。
最近では、首都圏沿岸域である房総半島や相模湾地域の調査成果を公表し、現在は、中京圏である伊勢湾・三河湾沿岸域の調査成果の公表を予定しています。そして今後は、近畿圏の紀伊水道沿岸域での調査を進め、さらには瀬戸内海沿岸域へと調査範囲を広げていきます。人口や産業が集中し、内陸活断層や南海トラフの巨大地震の影響が大きいといわれている沿岸域での調査は重要で、活断層の連続性と活動性の正確な把握や未知の地震履歴を明らかにすることで、国や自治体の防災計画に活用できる地質情報を整備していく予定です。
地下の地質情報を3次元で
2次元ではなく、3次元で知る
これまでの地質図は、紙に印刷された2次元のものでした。そのため、地下の地層が3次元的にどのような構造をしているのかを読み取るには専門的な知識が必要でした。しかし近年の技術進歩により、ウェブ配信を前提とすることで、地下の情報を3次元で表示する新たな地質図を作ることが可能になりました。3次元地質図を作ることで、より多くの人が、より直感的に地下を理解することができるようになります。沿岸域の3次元地質図の作成では、まず独自のボーリング調査によって、堆積年代や堆積環境、堆積物粒子の大きさ、含まれる化石、地層の地震波伝播速度などを調べます。このようなデータを軸として、既存の公共工事などのボーリングデータを追加し、さらに表層の地形や地質なども考慮することで、地下数10m までの地質構造全体を3次元的に、より詳しく解析することが可能となります。ボーリングデータやそれらを基に解釈された3次元地質モデル、地盤振動特性等を統合し、今後の都市計画や、ハザードマップ作りにも役立つ地質情報のウェブ配信を進めています。
地層の物理特性と分布が地震被害を支配する
私たちは東京や埼玉に広がる低地で、約 2 万本のボーリング資料を収集し、層序の基準となるボーリングコアの掘削を実施しました。
その結果、低地の地下に広がる約 2 万年前の氷期のときにできた谷地形の詳細な形状や、その上に重なる軟弱地盤である沖積層の分布と、それが海水準変動によってつくられてきた歴史を明らかにしました。
その結果、例えば、1923 年の関東大震災の被害分布は、植物片が多く含まれ、含水率がひときわ高い5,000年前の泥層の分布と一致することを明らかにしました。 つまり地層の物理特性と分布が、地震の被害を決めていたことがわかったのです。
軟弱地盤である沖積層研究の取り組みは、現在、神奈川県や千葉県などの沿岸域においても進められています。そして将来的には、このような取り組みを日本列島の様々な沿岸平野に広げていく予定です。
都市沿岸域の3次元地質モデル。3次元的に視覚化することで直感的に地下を理解することが可能になる。
駿河湾におけるピストンコアを用いた調査の様子
観察するために半割された堆積物のコア試料 (Photo by YASUTOMO Yasuhiro/GSJ)
東京低地地下に広がる最終氷期後の開析谷の3次元モデル
地下の地層より採取された堆積物の顕微鏡観察の様子 (Photo by YASUTOMO Yasuhiro/GSJ)