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2022年8月3日に新潟県村上市周辺で発生した斜面崩壊地周辺の衛星画像前後比較と地質概説

2022年8月22日:開設

地質情報研究部門 水落 裕樹・宮地 良典

 2022年8月3日から4日にかけての豪雨の影響で、北陸から東北地方の日本海側を中心に河川氾濫や斜面災害等が発生しました。特に新潟県村上市では多くの斜面崩壊や土石流が発生しました。これをうけて地質情報研究部門では、2022年8月8日にASTERの緊急観測を実施するとともに、他機関の公開衛星データを整理し、災害前後の比較を行いました(表1)。
 村上市の荒川下流域及び薦川上流域の斜面災害の観察結果について報告します。

図1 位置図(出典:地理院地図)

図1 位置図(出典:地理院タイル(全国最新写真)に観測範囲を追記して掲載)

村上市荒川下流域

 図2-aは新潟県村上市小岩内周辺の荒川下流域の前後比較画像です。上段のASTER注1画像の黄色で囲った範囲では植生が消滅した小さなパッチ(図2-b 拡大図)が多数確認でき、これらの場所では斜面崩壊が発生したと考えられます。
 また、下段Sentinel-1注2(合成開口レーダ)の水色で囲った範囲は後方散乱強度が大きく低下していることから、2022/08/04時点で河川氾濫等により湛水状態であった可能性が高く、その影響が上段ASTER観測時点(2022/08/08)でも水色で囲った範囲で一部残っているものと考えられます。

図2-a 災害前後の荒川下流域の衛星画像比較

図2-a 災害前後の荒川下流域の衛星画像比較

 黄色で囲った範囲は斜面崩壊、水色で囲った範囲は氾濫が生じていた可能性が高い。
 ASTERはR: 近赤外バンド、G: 赤バンド、B: 緑バンド、Sentinel- 1はR: VV偏波、G: VH偏波、B: VV/VHでそれぞれコンポジットし、輝度強調処理して表示。

図2-b パッチ状の斜面崩壊多発地域(図2-aの黄色で囲った範囲周辺)の拡大図

図2-b パッチ状の斜面崩壊多発地域(図2-aの黄色で囲った範囲周辺)の拡大図

点在する小規模な灰色の領域は斜面崩壊と思われる。

図3 図2に示した範囲の地質図(20万分の1日本シームレス地質図V2.https://gbank.gsj.jp/seamless)

図3 図2に示した範囲の地質図
(20万分の1日本シームレス地質図V2.https://gbank.gsj.jp/seamless

 黄色で囲った範囲で多数の斜面崩壊が発生したと考えられます。荒川は、花崗岩や中新世の岩石が作る山地の間を流れており、沖積層分布域が狭くなっている場所にあたります。斜面崩壊は、荒川の北側では主に釜杭層(かまぐいそう)と呼ばれる前期〜中期中新世に形成された礫岩・砂岩を主体とした海成層、南側(赤色部)は古第三紀暁新世の花崗閃緑岩・トーナル岩で発生したと考えられます。

村上市薦川上流域

 また、図4-aに示すように、村上市薦川の薦川上流域のSentinel-2注2画像の比較から、小規模な斜面崩壊(黄色で囲った範囲)または土石流の可能性がある地域(水色で囲った範囲; 拡大図4-b)も確認できました。斜面崩壊は3か所で考えられ、2か所は白亜紀末の花崗岩類、1か所は古第三紀朝日流紋岩で発生しています。また土石流は中期中新世鈴谷層の酸性凝灰岩・砂岩・泥岩で発生したと考えられます(図5)。

図4-a 災害前後の薦川上流域の衛星画像(Sentinel-2)比較

図4-a 災害前後の薦川上流域の衛星画像(Sentinel-2)比較

図4-b 土石流地域(図4-aの水色範囲周辺)の拡大図

図4-b 土石流地域(図4-aの水色範囲周辺)の拡大図
矢印で示した茶色の部分は土石流の跡と思われる。

図5 図4に示した範囲の地質図(20万分の1日本シームレス地質図V2.https://gbank.gsj.jp/seamless)

図5 図4に示した範囲の地質図
(20万分の1日本シームレス地質図V2.https://gbank.gsj.jp/seamless

この地域は、ジュラ紀付加体や白亜紀花崗岩類の基盤上に、古第三紀の火山岩類や中新世の堆積岩が重なっている地域です。

表1 使用した衛星データの諸元

表1 使用した衛星データの諸元

注1

[ASTERの解説]

 ASTERは1999年の打ち上げ以降、20年以上にわたり地球観測を継続している経産省の衛星センサです。NASAのTerra衛星に搭載されており、可視・近赤外・熱赤外にわたる14の波長帯での観測を実現しています。産総研地質調査総合センターではASTERデータの品質管理とアーカイブを行っており、ユーザに利用しやすい地図投影・オルソ補正済みGeotiff形式でデータを公開しています(https://gbank.gsj.jp/madas/)。
 上記に示した通り、災害観測では、解像度・観測頻度・雲の影響の有無など特性が異なる複数の衛星データを突合せながらの検討が有益であり、ASTERによる緊急観測はそれに貢献しています。また、校正活動により品質保証された20年以上にわたるデータアーカイブと今後の継続観測データは、災害にいたるまでの長期時系列変化や、災害後の環境の回復過程などをとらえることにも活用できます。

注2

[Sentinelシリーズの解説]

 SentinelはESA(欧州宇宙機関)のCopernicusミッションで運用・データ公開されている衛星シリーズで、今回は合成開口レーダ(SAR)のSentinel-1データ、陸域観測用光学センサのSentinel-2データを用いました。いずれも複数機の衛星で隊列を組んで飛行することで観測頻度を高めています。Sentinel-1 (SAR) はASTERのような太陽光の地表面反射を観測するセンサ(光学センサ)と異なり、レーダーで自らマイクロ波を照射し地上で跳ね返った信号を観測します。曇天時でも雲を透過して観測できることがメリットですが、得られたマイクロ波画像の解釈にはやや専門的知識を要します。いっぽうSentinel-2はASTERと同系統の光学センサですが、観測タイミングが異なることから、両者を補完的に使うことで観測頻度を向上させられます。またASTERにはない青色バンドが搭載されているため、直感的に解釈しやすいトゥルーカラー画像(いわゆる「衛星写真」)を作ることもできます。

更新履歴

  • 2022年8月22日:開設

問い合わせ先

産総研地質調査総合センター