2024年度第3回 地質調査研修終了報告
福岡県福岡市の博多湾の中ほどにある能古島で、11月11日(月)〜11月17日(日)の6泊7日の日程で地質調査研修を実施しました。講師は産総研地質調査総合センターの利光誠一と宮崎一博が務めました。本研修の参加者は、資源系や地質コンサルタント等の企業、博物館や研究機関などからの6名でした。
今回の研修は、地質調査について経験のある方を対象とした募集です。経験のある方向けの地質調査研修は10月に島根半島で実施した第2回地質調査研修でも行っており、これは初級のプログラムとして開催してきました。島根半島では、新第三紀の堆積岩(火砕岩を含む)とそれに貫入する深成岩が調査の対象でしたが、能古島では古生代の変成岩、中生代の深成岩、新生代の堆積岩と火山岩など、分布している岩石種やその形成年代が多様なことから、今年度からの中級のプログラムとして研修を企画しました。南北約3.5 km、東西約2 km、標高の最高点は195 mの小さな島のほぼ全てを対象地域として踏査し、層序を組み立てて地質図を作成することを目標としました。
研修の初日は、日中にクリノメーターの使い方の復習をし、夜は2時間の講義(地質図作成のための基本的事項)を行いました。2日目から6日目まで連日、昼間に野外で地質調査を行い、夜に2時間ほど各自の調査データの整理と地質図の作成を行いました。最終日は、室内作業で地質図と地質断面図の完成を目指しました。
[研修概要]
- 11月11日:
- 宿泊ホテルに集合後、簡単なオリエンテーション。その後、ホテル近くの公園でクリノメーターを使って方位の測定や歩測に基づくルートマップの作成。 / 宿泊ホテルの会議室で地質調査や地質学の概要の講義。能古島に分布する代表的な岩石標本の観察。
- 11月12日:
- 能古島の西海岸に露出する古生代の変成岩、中生代白亜紀の火成岩類岩脈、古第三紀の堆積岩の調査。 / 一般的な岩石標本セットの観察。現地調査で得られた地質データの整理(ルートマップやフィールドノートの墨入れなど)。
- 11月13日:
- 西海岸に露出する古生代の変成岩と白亜紀の花崗閃緑岩類(トーナル岩)の接触関係の観察。南東部の海岸および道路沿いに露出する変成岩と古第三紀の堆積岩類との接触関係の観察。 / 現地調査で得られた地質データの整理(ルートマップやフィールドノートの墨入れなど)。
- 11月14日:
- 前日に続き、南東部の道路沿いと海岸において古生代の変成岩と古第三紀の堆積岩類との接触関係の調査。東部の道路沿いの変成岩、白亜紀のトーナル岩、新第三紀の玄武岩の分布調査。東海岸に露出する変成岩とトーナル岩、玄武岩の分布調査。トーナル岩の中に見られる白亜紀の貫入岩類と断層の観察。海岸部の玄武岩露頭の観察。 / 現地調査で得られた地質データの整理(ルートマップやフィールドノートの墨入れ、地質境界線の作図など)。
- 11月15日:
- 西部の道路(自然探勝路)沿いを踏査。古生代の変成岩、白亜紀のトーナル岩、古第三紀の堆積岩と新第三紀の玄武岩溶岩・火山灰等の分布調査。 / 現地調査で得られたデータの整理(ルートマップやフィールドノートの墨入れ、地質境界線の作図など)。
- 11月16日:
- 南部の道路沿いに踏査。古生代の変成岩、古第三紀の堆積岩類、新第三紀の玄武岩火砕岩・溶岩、新第三紀の堆積層などの分布調査。 / 糸島市立前原南コミュニティセンター研修室において現地調査で得られた地質データの整理(ルートマップやフィールドノートの墨入れなど)、地質図の作成。
- 11月17日:
- 能古博物館の研修室で地質図および地質断面図作成。研修室に展示している福岡市西区長垂山のペグマタイト鉱物コレクションの観察、館内見学など。
この研修では、能古島での対面研修の前に、地質調査や地質図作成に関する教科書を指定しておき、これを熟読すること、地質図学の問題を解くことなどを事前学習の課題にしました。そして、対面研修の前週にリモートレクチャーを行い、地質図学の事前課題の解き方の説明をしました。
このようにして迎えた福岡市能古島での研修では、5日目午前に弱い雨が降りましたが、概ね順調に野外での地質調査の実習が進みました。多様な地質が分布する割に短い研修日程ではありましたが、参加者のほとんどの方が地質図の完成あるいはそれに近いところまで進み、うち1名が完成には至りませんでしたが地質断面図の作成段階まで到達しました。地質図、地質断面図の完成に至らなかった方には、研修終了後も会社や自宅などで配布資料を参考にしながら引き続き地質図および地質断面図作成に取り組まれるようお伝えし、研修を終えました。
本研修の実施にあたり、公益財団法人亀陽文庫 能古博物館および糸島市立前原南コミュニティセンターには、調査データの整理や地質図作成作業のための研修室利用に便宜を図っていただくなどのご協力をいただきました。調査実習地である能古島の方々にも温かく迎えていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
2024年度第3回 地質調査研修
日程 | 2024年11月11日(月)-11月17日(日) |
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補備日程 | 教科書を熟読する事前学習をしていただきます。また、事前課題を出題し、その解法解説のため、上記研修開催日の前週(11月5日〜8日の内の1日)にリモートレクチャー(約1時間)を予定しています。 |
研修場所 | 福岡県福岡市能古島 地質:古生代変成岩類、中生代深成岩類、新生代堆積岩類・火山岩類など |
研修内容 | 最近はルートマップを作成したことがあっても地質図を描いた経験のない方、地層や岩石の見方に不安がある方など、地質調査の基本である踏査に関し、大学で充分な実践的な経験が積めなかった方もいらっしゃいます。また、大学等で地質調査や地質図作成の実習経験があっても、しばらく本格的な調査から遠ざかっていた方もいらっしゃいます。この研修では、地層・岩石の観察ポイントからまとめまで、地質図を作成するための基本的事項を5日間の野外実習と前後2日間を含めた座学・室内作業で習得します。少人数でマンツーマンに近い形での研修となります。 ※今回は、大学・会社等で地質調査や地質図を1回くらいは作成したことのある経験者向け(中級)の内容で行う予定です。調査対象の地質も多岐にわたります。ふるってお申し込み下さい。 |
定員 | 定員 6名(最小催行人数:4名)※申し込み締め切り10月1日(ただし定員に達し次第受付終了となります)※募集終了 |
講師 | 利光誠一博士 地質調査総合センターにおいて、多くの地質図幅の作成を行い、白亜紀大型化石、層序の研究を行うと共に、地質標本館館長として、地質学の普及に努めてきました。 他1名 |
集合 | ホテル(JR糸島高校前駅付近) 11/11 15時 |
解散 | ホテル(JR糸島高校前駅付近) 11/17 15時 |
CPD | 45単位(事前のリモートレクチャーと合わせて45単位になるよう、時間を調整して指導を行います) |
参加費 | 産総研コンソーシアム「地質人材育成コンソーシアム」に90口(1口1000円)の会費が必要です。 |
注意事項 | 現地までの交通費と宿泊代(6泊)・食事代は参加者負担となります。夕・朝食付き6500円程度(税込)/1泊の宿を予定しています。 加えて、ホテルから能古島までのJR(280円)→バス(210円)→フェリー(230円)の日々の往復の交通費、最終日に利用する能古博物館の入館料(400円)も参加者負担となります。能古島島内は、徒歩で移動します。 参加には傷害保険等への加入をお願いします。お勤めの方は労災保険の対象となるよう職務として参加してください。 学生・院生の方で参加されたい場合は、別途お問い合わせください。 ※研修直前に体調不良となった方で、感染症などへの感染の疑いのある場合には、参加をご遠慮いただくこともあります。 |
申し込み・ 問い合わせ |
training-gsj-ml(a)aist.go.jp ※(a) 部分を @ に置き換えて下さい。 |
主催 | 産総研コンソーシアム「地質人材育成コンソーシアム」 運営会則(pdf:76KB) |
協力 | 公益財団法人亀陽文庫 能古博物館 |