地質図の見方
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地質図の見方
地質図とは
地質図とは、「表土の下にどのような種類の石や地層がどのように分布しているか」を示した地図です。動植物や建造物、雲、表土などはここでは無視され、基盤となる石や地層とその構造を描いた分布図です。
地質調査総合センター発行の地質図の多くは、国土地理院の地形図に重ねて作成されています。地形や、道路・建造物、それに地名と重ねてみることで、いつも見る山はどんな地層からできているのか、地域内でいちばん古い石はどこにあるのか、読みとることができますし、馴染みの川の流路が実は地層の境界に沿っていることなど、新たに発見することがあるかもしれません。また地質図は、土地の利用、災害防止、資源の探索、学術資料、環境対策など、幅広い分野へ質の高い情報を提供しています。
地質図の読み方
枠線の中でクリックすると、説明画面が表示されます。
地質断面図
地質図上に線で引かれた位置の、地下の地質の様子を示します。 |
縮尺
5万分の1地質図上の1cmは、実際にはその5万倍である500mであることを示しています。 |
発行機関
責任ある研究機関の発行であることを示しています。 |
地質記号
地質図上で、地層の走行・傾斜や,断層・褶曲構造、化石・温泉・鉱山などがどのように表されるかを示しています。 |
地質図幅の名前
地質図幅の名前は、同じ縮尺の地形図と同じ名前になっています。 |
著者
この地質図を作成した研究者と、地質調査した時期を示します。 |
凡例
地質図上で色分けされた地質の説明で、左側から岩石・地層の
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地質調査総合センターの地質図
地質調査総合センター発行の地質図のなかには、全国をマス目に区切った規格に従って作成され、出版されるシリーズがあります。これらは地質図幅と呼ばれ、代表的なものに5万分の1、20万分の1シリーズの地質図幅があります。
また、地質図には2つのタイプがあります。ひとつは独自の地質調査に基づいて作成される地質図で、5万分の1地質図幅などがこれにあたります。もうひとつは既存のデータを基に編集して作成される地質図で、20万分の1地質図幅などがこれにあたります。
地質調査総合センター発行の地質図は、どちらかといえば専門家向けです。このため、専門用語や初歩的な地質区分の解説は、通常は付属していません。地質図の内容をすべて理解するには、高校地学程度の知識が必要となります。
地質図の基礎知識
地質図を読むことで、その場所がどのような地層・岩石からできているのかを知ることができます。普段は目にすることのない地下の様子を表す、つまり3次元の空間を表現した地図です。
しかし、地質図はただそれだけの地図ではありません。地質図の持ついくつかの特徴をご紹介します。
四次元地図
ふつう、ある土地の地質は、長い時間をかけてできています。地質を調べるときには地層・岩石の種類や性質とともに、その地層・岩石がいつ頃形成されたのかを調べます。つまり、地質図には時間の概念が盛り込まれています。すると、その土地の地層・岩石がどのような順序で形成されたのかがわかります。このため、地質図を読むことで、地表に現れている地層が地下にどのように続いていくのかもある程度判断することができます。また、その土地の経験してきた何万年から時には何億年にも及ぶ歴史が理解できます。地図という2次元の形をとりながらも、地質図は3次元の空間情報と時間の情報を表現しているのです。
未来予想図
更に、地質図の大きな特徴として、将来の予測に役立つことが挙げられます。地質というのは過去の歴史の積み重ねとして現在あるわけで、現在の地質を調べることで過去の記録が解明されます。と同時に、過去から現在への過程がわかれば、将来どうなるかもある程度予測がつくのです。
地質と時間・空間の関係について、いくつかの例をご覧ください。
例えば、ある盆地があったとします。その盆地を埋める堆積層が、片側だけ (図の場合は右側) 常に厚くなっていた場合、その側が沈降する地殻の運動が起きて、地層を堆積させていると考えられます。そして、地層の厚さの傾向が常に同じで、変化が見られないときには、近い将来もこの傾向が続く可能性が大きいと言えます。
また、そのような場所に断層があった場合、その活動の方向や規模などの履歴をより正確に知ることができ、次の活動予測に役立てることができます。
地層累重の法則
「重なり合う2つの地層は、下にある地層の方が、上の地層よりも古い」、というのが地層累重の法則です。つまり、地層は下から順に形成されていき、一番上が最も新しいことになります。最も単純なのは右の図のように座布団を重ねたような例で、広い湖や海の底にできた地層は、しばしばこのような形態を示します。
ほぼ水平に堆積した地層が、長い年月を経て侵食され、山や谷を刻むと、例えばグランドキャニオンのようにほぼ標高に沿った地層の分布を示します。上の地層が侵食されると、下の左側の図のような地層の分布がみられるようになります。古い地層は下 (谷) に、新しい地層は上 (尾根) にみられます。これを真上から見た平面図 (右図) が地質図です。
ただし、実際の地層のでき方や形態はさまざまです。限られた範囲でみたときには、規則正しく積み重なっているように見える地層でも、広い範囲を調べてみると違った形になっていることもあります。
実際の地層の状態
1) 地層の厚さが変化する場合
まず、地層は座布団のように同じ厚さであるとは限りません。右の図のように場所によって厚さが違うことも珍しくないのです。この場合も下から上へ新しい地層が重なるのは同じですが、図のA、Bのように、同じ深さを掘ってもみられる地層とその厚さが全く違うということが起こります。このような状態の例は、河川の河口付近に堆積した地層などによく見られます。
2) 地層がとぎれる場合
地層はどこまでも続くものではありません。例えば火山の場合では、山体の周辺にしか新しい地層を作りませんし、陸上では谷や平野に地層はたまります。このような場合も地層は下から上へ新しくなりますが、右の図のA、Bのように、場所によってみられる地層が違う場合があります。
3) 下にあっても新しい場合 〜貫入岩〜
地層累重の法則は下にあるものほど古いと判断しますが、貫入岩の場合はそうはいきません。どのように判断すればよいでしょうか。
貫入岩はしばしば同じ火成活動で形成された火山体を伴います。右の図の例では、A-B-CとD-E-Fが一連の火成活動と考えられます。Cは地層4と5の間に挟まれていますので、AとBの貫入時期も同様に地層4と5の間である可能性が高いと考えられます。一方、Fは地層5を覆っていますので、DとEの貫入時期も地層5の形成後と予想されます。
ただし、火山体を伴わない貫入岩や、火山体が侵食されて失われてしまった場合はこのような手法は使えません。その場合、直接岩石を分析して年代を求めることになります。
4) 下にあっても新しい場合 〜断層〜
地層の上下関係と形成順を乱すものに、断層があります。特に逆断層が発達する場合、断層を挟んで年代が逆転することになります。断層について詳しいことは、断層と褶曲のページ をご覧ください。
付加体と呼ばれる地層は、海洋プレートの上に堆積した地層が、海溝から沈み込むときに引きはがされてできます。そのときに逆断層が形成されるため、付加体には多数の逆断層が存在します。海洋プレートは付加体の下位を沈み込むため、付加体は下部ほど最近引きはがされたもの、すなわち下ほど新しくなります。
地表に露出した古い時代の付加体の地質図には、多数の逆断層が描かれています。付加体について詳しいことは、岩石や地層のでき方のページの堆積岩のでき方「 3) 付加体 」をご覧ください。
長い時代を経てできた実際の地質は、様々な地質現象を経ており、更に複雑です。地質調査ではそれらの謎を少しずつ解明していきます。そして出来上がったのが地質図なのです。ですから、地質図からはその土地の経てきた様々な地質現象を読み取り、復元することができるのです。
解釈図
地形・地理と違って、地質の場合、実際にすべてを見ることはできません。地質図は、海岸や崖、工事現場などに現れている地層・岩石の断片的な情報に基づいて描かれています。つまり、地質図は制作された時点の情報に基づいた解釈図なのです。大規模な工事などで新たに崖ができると、新しい発見があることも少なくありません。こうして地質情報は蓄積され、地質図は少しずつ改訂されることになります。
日本列島のすべての地域の地質を調べ、地質図をつくるには、たいへんな労力と時間が必要です。急峻な山岳地帯など現地調査が困難な場所もあります。現段階では地質が詳細にわかっている地域と、詳しい調査が行われていない地域とが混在しているのが実情です。
地質図を作るためには地質を調べる必要があります。これを地質調査といい、実際に現地で地層や岩石の種類、性質、連続していく方向を調べます。また、試料を分析して年代を決めます。こうして、その地域の地層や岩石の分布とできた順序を解析します。地質調査については、「 地質調査の世界 」のページをご覧ください。