地質調査総合センター研究資料集、no. 705

Modified GOTIC2: 地下での観測における海洋潮汐荷重効果を推定するソフトウェア

上垣内 修*1,*2,・松本則夫*2・弘瀬 冬樹*3

*1(一財)気象業務支援センター、*2産業技術総合研究所地質調査総合センター 活断層・火山研究部門、*3気象研究所

ここで公開するのは以下の3ファイルである。

Modified GOTIC2の解説

 GOTIC2 (Matsumoto et al., 2001)は、海洋潮汐荷重効果及び固体潮汐による地表における変位、歪等の物理量を、海洋潮汐の荷重分布とグリーン関数とのコンボルーションによって計算するプログラムである。
 ボアホール式歪計などの地下埋設型の地殻変動データの海洋潮汐荷重効果を正確に計算するためには、地表ではなく、測器設置深度で評価されたグリーン関数を用いる必要がある(Kamigaichi, 1998; Kamigaichi et al., in review)。そのため、以下のとおりGOTIC2に改造を施した。

1. 測器埋設深度において評価されたグリーン関数の使用

 海洋潮汐荷重効果を計算する際に、オリジナルのGOTIC2では地表で評価されたグリーン関数を使用している。改造版GOTIC2では測器の埋設深度において評価されたグリーン関数に変更した。また、オリジナルのGOTIC2では、グリーン関数を評価する際の球対称地球モデルは1066AまたはGutenberg-Bullen Aであったが、改造版GOTIC2ではPREMに変更した。ただし、最上部の海層は、Tsuruoka et al.(1995)に倣って地殻で置き換えた。
 測器埋設深度において評価されたグリーン関数を使用する理由は以下の通りである:海洋潮汐荷重効果による変位、歪などは海洋潮汐の荷重分布とグリーン関数とのコンボルーションによって計算される。表面点荷重に対するグリーン関数の値の荷重点近傍での振る舞いは地表と地下では大きく異なり(Kamigaichi, 1998)、測器埋設深度における海洋潮汐荷重効果(特に歪、傾斜)の計算を地表で評価したグリーン関数を用いると、測器埋設深度で評価したグリーン関数を用いた場合と大きく異なる結果となるためである(Kamigaichi et al., in review)。
 地下におけるグリーン関数は、荷重点近傍、特に荷重点からの角距離が10-2度以下で激しく変化する。角距離10-4~10-2度においてオリジナルのGOTIC2では、10-4, 10-3 , 10-2度の3点でグリーン関数の値を与えている。改造版GOTIC2では、10-2度以下の激しいグリーン関数の変化を正確に再現するため、(1.0, 1.2, 1.6, 2.0, 2.5, 3.0, 4.0, 5.0, 6.0, 7.0, 8.0, 9.0)×10-4, (1.0, 1.2, 1.6, 2.0, 2.5, 3.0, 4.0, 5.0, 6.0, 7.0, 8.0, 9.0)×10-3、(1.0, 1.2, 1.6, 2.0, 2.5, 3.0, 4.0, 5.0, 6.0, 7.0, 8.0, 9.0)×10-2度の計36点でグリーン関数を与えるように変更した。グリーン関数の離散化の総数はオリジナルGOTIC2の50から改造版GOTIC2では81に増加させている。
 ボアホール式歪計としては水平歪計だけでなく体積歪計もあるため、地下における体積歪の理論値も計算する必要がある。地表においては、自由表面の境界条件から体積歪と面積歪との間に線形の関係が成立するため、後者から前者の計算が可能である。しかし、地下においてはその関係は成立しないため、地下における体積歪は面積歪とは独立に計算する必要がある。GOTIC2で海洋潮汐荷重効果を計算する際には、メッシュ内のグリーン関数を2次関数で近似し、コンボルーション積分を解析表現で計算する。地下における体積歪の計算では、ある一項については解析表現が存在しないため、改造版GOTIC2では同項のみ数値積分で計算している(Kamigaichi, 1998)。
 なお、測器埋設深度におけるグリーン関数はプログラムloadgreenf4、グリーン関数計算に必要な表面鉛直荷重に対する固有関数はstatic (https://mri-2.mri-jma.go.jp/owncloud/s/tjqx7HfK8bD3KQf)でおのおの計算した。

2. 固体潮汐の計算に用いる各種パラメタをPREMに統一

 固体潮汐の計算に用いるLove number等の各種パラメタを、海洋潮汐荷重効果の計算に用いるグリーン関数の元となった球対称地球モデルと同一のPREMに統一した。ただし、固体地球潮汐は極めて波長の長い現象であるため、測器の設置深度の影響は無視できると考え、パラメタは地表における値を採用している。具体的には別途公開のstaticで、潮汐力の表面境界条件 n=2に対して計算した。

3. 出力される水平歪独立3成分の表現方法の変更

 ボアホール式歪計のキャリブレーションでよく用いられる水平歪表現(例えば、Hart et al., 1996)に合わせεAxxyy, εDxxyy, εS=2εxy で示した。ここで、x及びyは観測点ローカル座標系でおのおの東及び北方向を表す。

プログラムgotic2_modのインストール方法

1. オリジナルのGOTIC2のダウンロード

 オリジナルのGOTIC2の著作権は国立天文台が有しており、オリジナルのGOTIC2の利用規定は、国立天文台のウェブサイト利用規定https://www.nao.ac.jp/policy.htmlを参照のこと。

 以下のサイトからオリジナルのGOTIC2をダウンロードする。

https://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/

必要なファイルは以下の通り。

2. 改造版GOTIC2 (gotic2_mod) 特有のファイルのダウンロード

以下のファイルをクリックし、ダウンロードする。

3. オリジナルのGOTIC2のインストール

以下の手順でオリジナルのGOTIC2をインストールする。

https://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/README_GOTIC2.html#install

ただし、GOTIC2のコンパイル(以下の手順)のみスキップする。

------------------

source ディレクトリにソースコードと Makefile がありますので、ここでコンパイルして下さい。コンパイルの前に、Makefile中の

FC = f77
FFLAGS =
を環境に合わせて設定してください。

(~/nao99b): cd gotic2/source
(~/nao99b/gotic2/source): make

コンパイルが正常に終了したら、
(~/nao99b/gotic2/source): make clean
として下さい。

------------------

4. gotic2_modの差分ファイル(gotic2_mod_diff.taz)の展開

gotic2_mod_diff.tazを"~/nao99b/gotic2/source"に配置し、その後、以下を実行する。

(~/nao99b/gotic2/source): tar xvzf gotic2_mod_diff.taz
(~/nao99b/gotic2/source): ./gotic2_mod_source.sh

5. gotic2_modのコンパイル

~/nao99b/gotic2/sourceにソースコードと Makefile があるので、以下のコマンドでコンパイルする。コンパイルの前に、Makefile中の以下の記述を環境に合わせて設定する。

---

FC = gfortran
FFLAGS = -std=legacy

---

コンパイル方法は以下の通り。

(~/nao99b/gotic2/source): make gotic2_mod
実行ファイルを一つ上のディレクトリにコピーする。
(~/nao99b/gotic2/source): cp gotic2_mod ..

コンパイルが正常に終了したら、以下を実行する。
(~/nao99b/gotic2/source): make clean

6. greens_functions.tazの展開

greens_functions.tazを"~/nao99b/gotic2/data"に配置し、以下を実行する。

(~/nao99b/gotic2/data): tar xvzf greens_functions.taz
~/nao99b/gotic2/data/greens_functionsに以下のような深度ごとに計算したグリーン関数の149ファイルが配置される。このファイルの説明は後述する。

---

loadgreenf4.out9.d0000_0.prem10k
~
loadgreenf4.out9.d1200_0.prem200k
---

7. 適切な設置深度のグリーン関数の選択及び動作確認

 ひずみ計などの設置深度が一番近い深度のグリーン関数を選択し、"~/nao99b/gotic2/data/grn1.data"と置き換える。ここではグリーン関数としてloadgreenf4.out9.d0592_5.prem500k(深さ592.5 mのグリーン関数)を選択する例を示す。

(~/nao99b/gotic2/data): mv grn1.data grn1.data.org
(~/nao99b/gotic2/data): ln -s greens_functions/loadgreenf4.out9.d0592_5.prem500k grn1.data

 samples.tazを~/nao99b/gotic2に配置し、展開する。ftn05.gotic2_mod.icuは産業技術総合研究所のICU観測点(ひずみセンサー設置深度588.5-589.9 m)のM2及びO1分潮のひずみを計算する場合の制御ファイルである。設置深度が一番近い深さ592.5 mのグリーン関数を用いる。

(~/nao99b/gotic2):tar xvzf samples.taz
(~/nao99b/gotic2):./gotic2_mod < ftn05.gotic2_mod.icu > result.gotic2_mod.icu.log
出力ファイルresult.gotic2_mod.icuをCentOS 7.7のgfotranでコンパイルした場合の計算結果 result.gotic2_mod.icu.testと比較し、正常な動作を確認する。

Modified GOTIC2(gotic2_mod)への入力ファイルの例

 samples.tazに格納されているftn05.gotic2_mod.icuの内容を示す。

*********************[ Mandatory Cards ]**********************

STAPOSD ICU1 , 136.1408 , 33.8967 , 0.0, 141.0
WAVE M2,O1
KIND ST

**********************[ Option Cards ]************************

GREENF 1
MESH4 ON
FULLMESH ON
UNIT6result.gotic2_mod.icu
END

 gotic2_mod の入力ファイルはオリジナルのGOTIC2と同じ不可欠カード(Mandatory Cards)とオプションカードを用いる(https://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/README_GOTIC2.html 参照)。ただし、オプションカードについて以下の点のみが異なる。

・GREENF カード
GREEN関数を指定する。
書式 : GREENF GREEN関数番号(1 = PREMモデル, 2 = 1066Aモデル)
例 : GREENF 1
デフォルト値 : 1

Modified GOTIC2では、オリジナルGOTIC2で使用されていたG-B地球モデルに対するグリーン関数(Farrell, 1972)は使用できない。

gotic2_modのカードについての注意点は以下の通り。
 GOTIC2での日本付近の海岸線データは東京測地系で与えられているため、日本周辺の観測点に対する海洋潮汐荷重効果計算の際には、座標値を東京測地系で与える必要がある。
 MESH4, FULLMESHは常にONにする。3次メッシュは、日本国内の観測点については自動的に使用されるが、日本国外の場合はユーザーが3次メッシュファイルを用意のうえ、MESH3 ONとする必要がある。

Modified GOTIC2におけるMESH4 ON 及び FULLMESH ONについての解説

 歪、傾斜等の変位の空間1階微分で表現される物理量については、全球からのコンボルーション積分への近距離からの寄与が大きいため(Kamigaichi et al., in review)、特にグリーン関数が激しく変化する観測点近傍において、計算精度を確保する必要がある。GOTIC2では、各メッシュからのコンボルーション積分を評価するにあたり、メッシュ内でグリーン関数を2次関数で近似している。そのため、特に極近距離領域では、メッシュ内のグリーン関数の挙動が2次関数で表現できる程度に、メッシュサイズを小さく設定する必要がある(メッシュ内に2つピークが存在すると、2次関数近似は破綻する)。GOTIC2では、観測点からの距離に応じて、4段階の大きさの海洋荷重メッシュが用意されているが、日本周辺の場合、最小で経度方向2.25秒、緯度方向1.5秒(おのおの約50 m。角距離にして約4×10-4度)のメッシュが用いられる。そのため、4次メッシュを用いるMESH4 ONのオプション指定が必要である。
 さらに、GOTIC2では、4次メッシュが適用される領域(デフォルトでは観測点から0.2°以内)であっても、4次メッシュ10個×10個で表される1つの3次メッシュサイズ域全体が海の場合には、3次メッシュ1個に置き換えてコンボルーション計算が行われる。グリーン関数が激しく変化する領域で大きなメッシュを使用すると、その内部でのグリーン関数の2次関数による近似が破綻するため、全域が海領域でも4次メッシュによる計算を堅持するためにFULLMESH ONのオプション指定が必要である。

深度ごとに計算したグリーン関数のパッケージの解説

 greens_functions.tazを解凍すると、深度0 m, 52.5 m, 97.5 mとボアホール式歪計の代表的設置深度である112.5 m~1,200 mの7.5 mきざみの深さで計算されたグリーン関数(計149ファイル)が展開される。ファイル名の例はloadgreenf4.out9.d0592_5.prem500kで、"loadgreenf4.out9"はプログラムloadgreenf4の出力ファイル、d????_?は深さ????.? mのグリーン関数、prem??k(あるいは?M)は用いた地球モデルがPREMで、ninf (Kamigaichi, 1998; Kamigaichi et al., in review)が??kまたは?Mであることを示す。
 予め用意されたグリーン関数の深さのきざみは7.5 mであるので、歪計の実際の設置深度との差は最大でも3.75 mである。歪計の筐体の長さが数mであり、深度が数mの違いではグリーン関数はあまり違いがないことを考慮すると、本パッケージで用意されたグリーン関数で、歪計のキャリブレーションを目的としたユーザーのニーズは概ね満たされていると考える。この範囲外の深さにおけるグリーン関数や、異なる地球モデルに対するグリーン関数が必要なユーザーは、別途公開されている地球の静的変形の固有関数計算プログラムstatic及び表面鉛直点荷重に対するグリーン関数計算プログラムloadgreenf4 (https://mri-2.mri-jma.go.jp/owncloud/s/tjqx7HfK8bD3KQf)を利用いただきたい。

参考文献

Dziewonski, A. M. and Anderson, D. L. (1981) Preliminary reference Earth model Phys Earth Planet In, 25, 297–356.
Farrell, W. E. (1972) Deformation of the Earth by surface loads, Rev. Geophys., 10, 761–797.
Hart, R. H. G., Gladwin, M. T., Gwyther, R. L., Agnew, D. C. and Wyatt, F. K. (1996) Tidal calibration of borehole strain meters: Removing the effects of small-scale inhomogeneity, Journal of Geophysical Research, 101, 25553-25571.
Kamigaichi, O. (1998) Green Functions of the Earth at Borehole Sensor Installation Depth for Surface Point Load, Papers in Meteorology and Geophysics, 48, 89-100.
Kamigaichi, O., Matsumoto, N. and Hirose, F., Green’s function at depth of borehole observation required for precise estimation of the effect of ocean tidal loading near coasts, submitted to Geophysical Journal International.
Matsumoto, K., Sato, T., Takanezawa, T. and Ooe, M. (2001) GOTIC2: A Program for Computation of Oceanic Tidal Loading Effect, Journal of the Geodetic Society of Japan, 47, 243-248.
松本 晃治 (2004) GOTIC2 READMEファイル,
https://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/README_GOTIC2.html, 2020年10月13日閲覧.
Tsuruoka, H., Ohtake, M. and Sato, H. (1995) Statistical test of the tidal triggering of earthquakes: contribution of the ocean tide loading effect, Geophysical Journal International, 122, 183-194.