地質調査総合センター研究資料集, no. 516 GSJ Open-file Report, no. 516 |
2009年11月 November, 2009 |
産総研地質調査総合センターでは,収集蓄積してきた既存空中磁気探査データ
を編集して,2005年に「日本空中磁気データベース」を出版した
(地質調査総合センター,2005).
この出版物は,探査データと磁気異常図の2つのデータベースを含み,
日本列島での広域空中磁気探査の殆どすべての利用可能なデータを網羅している.
そのデータベースは,各探査の特性(探査仕様からくる精度・分解能など)
をなるべく保存する形で編集され,生の観測に近いデータが保持されている.
従って,「日本空中磁気探査データベース」(中塚ほか,2005)に含まれる各データが
その探査の仕様を直接に反映したものとなっているのは当然のことであるが,
「日本空中磁気異常データベース」(中塚・大熊,2005)においても,
技法を駆使したデータ処理の適用は避けて構築されている.
この資料集では,
日本全域に対してなるべく均質な特性で地下構造を映し出す磁気異常分布図
を得ることを主眼として,
等価ソース解析の手法を用いた磁気異常の高度リダクションを適用した.
地表からの高度 1,500m の面を平滑化して仮想的観測面を設定し,
この面上での磁気異常分布を緯度経度とも 0.1分ごと の格子点上で求めた.
今回の均質特性の磁気異常分布データの編集にあたっては,
地質調査総合センターで収集蓄積された空中磁気探査のデータと
新エネルギー総合開発機構(NEDO)によるキュリー点法調査のデータ,
すなわち「日本空中磁気探査データベース」(中塚ほか,2005)
に含まれるすべての探査のデータを用いた.
その一覧は,Table-1 に示すとおりである.
また,高度リダクション処理を行う際の基準高度面を作成するために,
国土地理院発行の 数値地図「50mメッシュ標高」(日本-Ⅰ,日本-Ⅱ,日本-Ⅲ)
のデータを利用した.
略地域名 | 探査年 | GSJ出版時期図番号.地域名 [発行年] | 原データ機関 |
---|---|---|---|
NEDO_KSH | 1981 | ** (NEDO: 九州) | NEDO |
NEDO_THK | 1981-82 | ** (NEDO: 東北) | NEDO |
NEDO_HKD | 1982 | ** (NEDO: 北海道) | NEDO |
NEDO_CHB | 1982 | ** (NEDO: 中部) | NEDO |
NEDO_KNT | 1982 | ** (NEDO: 東北南部・関東・東海) | NEDO |
NEDO_CGK | 1983 | ** (NEDO: 中国・四国) | NEDO |
SADO_N | 1968 | 1.-2 村上-弥彦海域 [1972] | GSJ |
NOSHIRO | 1968 | 22.西津軽-酒田海域(一部) [1978] | GSJ |
ISHIKARI | 1969 | 2.-4 留萌-札幌海域 [1972] | GSJ |
SADO_S | 1969 | 1.-3 弥彦-糸魚川海域 [1972] | GSJ |
SAKATA | 1969 | 1.-1 酒田-村上海域 [1972] | GSJ |
RISHIRI | 1970 | 2.-2,3 利尻-留萌海域 [1972] | GSJ |
ABUKUMA | 1970 | 6.気仙沼-日立海域 [1974] | GSJ |
SOYA | 1971 | 3.宗谷-網走海域 [1973] | GSJ |
AMAKUSA | 1971 | 5.西九州長崎-川内海域 [1973] | GSJ |
HITACHI | 1971 | 7.日立-鴨川海域 [1974] | GSJ |
TOKAI | 1972 | 4.御前崎-豊橋海域 [1973] | GSJ |
DOTO | 1972 | 8.厚岸-襟裳海域 [1974] | GSJ |
DONAN | 1972 | 9.函館-襟裳海域 [1974] | GSJ |
MIYAZAKI | 1973 | 16.延岡-佐多岬海域 [1977] | GSJ |
OKUJIRI | 1973 | 10.積丹-奥尻海域 [1974] | GSJ |
HOKURIKU | 1973 | 11.輪島-福井海域 [1975] | GSJ |
SHMOKITA | 1973 | 12.尻屋崎-気仙沼海域 [1975] | GSJ |
TOTTORI | 1974 | 13.福井-隠岐海域 [1977] | GSJ |
KUMANO | 1974 | 14.豊橋-串本海域 [1977] | GSJ |
TEMPOKU | 1974 | 17.天北地域 [1977] | GSJ |
KAMUIKTN | 1974 | (神居古潭地域) [未刊行] | GSJ |
MUROTO | 1975 | 15.串本-延岡海域(1-3) [1977] | GSJ |
TOKACHI | 1975 | 18.十勝地域 [1977] | GSJ |
ASHIZURI | 1975 | 15.串本-延岡海域(3,4) [1977] | GSJ |
HIDAKA | 1976 | 19.日高地域 [1978] | GSJ |
TSUGARU | 1976 | 21.奥尻-津軽海域 [1978] | GSJ |
GOTO | 1977 | 23.五島-甑島海域 [1978] | GSJ |
DAISETSU | 1977 | 20.大雪地域 [1978] | GSJ |
AKITA | 1977 | 22.西津軽-酒田海域 [1974] | GSJ |
TANE | 1977 | 25.大隅半島-種子島海域 [1980] | GSJ |
KITAMI_A | 1978 | 24.北見(1.網走)地域 [1979] | GSJ |
KITAMI_M | 1978 | 24.北見(2.紋別)地域 [1979] | GSJ |
TOYAMA | 1978 | 26.佐渡-能登半島海域 [1980] | GSJ |
BOSO | 1978 | 27.房総沖-伊豆沖海域 [1980] | GSJ |
JOBAN1 | 1980 | 28.常磐沖東方海域(1,2) [1981] | GSJ |
JOBAN2 | 1980 | 28.常磐沖東方海域(3,4) [1981] | GSJ |
SANRIKU1 | 1980 | 30.三陸沖東方海域(3,4) [1982] | GSJ |
SANRIKU2 | 1980 | 30.三陸沖東方海域(1,2) [1982] | GSJ |
ERIMOSMT | 1980 | (襟裳海山海域) [未刊行] | GSJ |
KANTO1 | 1981 | 31.関東沖東方海域(1,2) [1982] | GSJ |
KANTO2 | 1981 | 31.関東沖東方海域(3,4) [1982] | GSJ |
SURUGA | 1977-78 | * (JICA) 駿河湾 [1979] | JICA, GSJ |
URAGA | 1980-81 | * (JICA) 浦賀水道 [1983] | JICA, GSJ |
ISEWAN | 1982-85 | * (JICA) 伊勢湾 [1986] | JICA, GSJ |
OKINAWA1 | 1982-83 | 32.沖縄島北西方海域 [1984] | GSJ |
OKINAWA2 | 1983-84 | 33.沖縄島西方海域 [1985] | GSJ |
MIYAKO | 1985-87 | 34.宮古島北方海域 [1989] | GSJ |
ISHIGAKI | 1986-89 | 35.尖閣諸島海域 [1993] | GSJ |
OSHIMA | 1978,86 | 36.伊豆大島地域 [1994] | GSJ, NAS |
ITO | 1989 | 37.伊東周辺地域 [1994] | GSJ |
UNZEN | 1991 | 38.雲仙地域 [1994] | NAS, GSJ |
IRIOMOTE | 1992 | 39.西表島周辺地域 [1994] | GSJ |
** (NEDO: xxxx) は,編集処理前データによる磁気図の公刊なし. * (JICA) は,国際協力事業団(JICA)発行. 原データ作成機関欄で,GSJは地質調査所,JICAは国際協力事業団, NEDOは新エネルギー総合開発機構,NASは中日本航空(株). |
ここでは,前節に示した原データから均質特性の磁気異常分布データを求めるために
適用したデータ処理の内容について,その概要を記す.
個々の空中磁気探査は,その目的に応じて測線間隔で象徴される固有の分解能を
もっており,現実の探査では,測線に沿った磁場計測(サンプリング)間隔が
測線間隔に比べて遥かに小さく,主要な地下構造の走向に直交する方向に
主測線を配置する配慮が払われているとはいえ,分解能の非等方性も存在する.
また,旧来の探査では一定の海抜高度を維持する探査飛行を行うのが一般的であり,
同一調査区域内でも地表高度の相違のために
地下構造に対する感度の偏りが見られることも珍しくない.
空中磁気探査から得られた磁気異常分布図は,これら種々の探査条件の影響の下に
作成されたものであり,その特性の完全な均一性を確保することは不可能に近い.
しかし,磁気異常図の広域的なコンパイルにおいては,個別探査の特性の影響を
なるべく除去したデータ編集が期待される.
既存データの編集では,元データの測線間隔の粗さを補うことはできないが,
対地飛行高度の地域的な差による特性の偏りは,高度リダクション
(実飛行とは異なる高度での測定値に引き直す処理)によって改善できる.
今回のデータ処理では,全探査データで見た平均的な測線間隔が 3km程度
と見られることを念頭に,その測線間隔の探査データが表現している磁気異常を
基本的に保存しつつ,より短波長の磁気異常に対する特性相違の効果を抑制するよう,
対地1,500m平滑面を基準高度に設定することとした.
国土地理院発行の 数値地図「50mメッシュ標高」(日本-Ⅰ,日本-Ⅱ,日本-Ⅲ)
のデータ(50mDEM,(旧)東京測地系,緯度 1/40 分 × 経度 3/80 分
の区画中心点標高, 訂正情報を含む)を用いて,世界測地系への変換の後,
「80m小区画格子点上の標高」(80mDEM,緯度経度とも 1/20 分ごと)
への補間計算を行った.
(陸域で標高値が負となるところは 0m,海域は −1m の値で埋めた.
陸水域は水面標高値で埋められている.)
次に平滑化処理として,直径 2,000m の範囲に概ね相当する区域の移動平均処理を
行い,平滑化標高データを作成した.具体的には,80mDEMデータの 南北21×東西25
のデータ範囲に対して平均計算を行い,その中央位置の平滑化データとした.
その際,海域を示す −1m の値は 0m に置き直して平均値の計算を行い,
中央位置の値が海域を示す −1m のときは,
平滑化標高データも −1m とした.
高度リダクションのための基準高度データとしては,基本的に,
この平滑化標高データに 1,500mを加算したものを用いる.
但し,山岳域周辺部などで実探査データの平均的な高度がそれを上回る場合があると,
高度リダクションがノイズ増幅の副作用で知られる下方接続相当の処理になり,
好ましくない.
実データについて,この点の点検を行ったところ,
北海道大雪山系の北側のごく一部で不具合があることが判明したので,
その部分についてのみ「リダクション先高度データ」の微調整を行った.
飛行高度および探査範囲を異にする複数の探査データを統一的に再処理するには,
各探査データを擬似的にランダム点のデータの集合として扱うのが効果的である.
その目的のためには,
(1) 格子点データへの変換前の測線データを利用する方法 と,
(2) 格子点データ自体を擬似ランダム点データとみなす方法 とが考えられる.
前者の場合,測線上での原測定データが残存しない区域が多く存在することから,
一部の区域で測線位置データと格子点磁力値データから復元した測線データを用いて
リダクション処理を試行した.
その結果は,測線間隔がやや広い場合に測線間の磁気異常分布に
特異なノイズ状の変動が現れ,適切な処理を行うのが困難であると判定された.
従って,ここでは上記 (2) のように,日本空中磁気探査データベース
(中塚ほか,2005)のうちの「格子点データファイル群」を用いて,
擬似ランダム点データを生成した.
なお,この処理と次項のリダクション処理は,コンピュータ資源の制約から,
220km×220km の区画(全47区画,隣接区画とは20km幅で重複)ごとに
分割して実施している.
高度変化のある観測データ(または複数の高度での観測データ)から
別の異なる高度での仮想的観測データへ変換する「高度リダクション」のためには,
等価ソースを用いた方法が効果的である.
ここでは,Nakatsuka and Okuma(2006)が示した
「周辺域にもソースを考えて,“等価アノマリ”を不定の逆問題としてCG法で解く」
方法(Nakatsuka, 2007)を用いて,3.1 節で決めたリダクション先高度での値を
求めた.
なお,計算ではUTM座標系を使用し,用いた主要な処理パラメータは,
計算メッシュサイズ: 200m,周辺ソース域の幅: 5km,
等価ソース設定面: リダクション先高度から2000m下方 である.
逆解析段階のミスフィット(残差)は 全般に 0~5 nT,
一部の磁気異常振幅の大きいところで 10nT前後であった.
但し,伊豆半島を含む区画で唯一 30nTにのぼるミスフィットを生じたが,
これは,200mの計算メッシュサイズにかかわらず,
そのメッシュサイズで表現不能な伊東周辺のやや高分解能の探査データ
(25mメッシュ)をそのまま処理したことによる.
前項のリダクション処理の各結果(220km×220km)から,
エッジ効果を避けるため,中央の 200km × 200km の範囲のデータを切り出し,
隣接区画データとの接合を行って,UTM座標中央経線が共通な 5つの広域区画
のデータ(UTM座標200mメッシュ)を作成した.
次に,このデータを展開図法に依存しない形で保存するため,
緯経度値での格子点データに変換(線形補間)を行い,
一次メッシュ区画単位に分割したファイルとして保存した.
メッシュ間隔は,元データとほぼ同等の細かさを維持するため,
緯度・経度とも 0.1分 とした.
この資料集には,Table-2 示すファイルが含まれるが,このうちデータ書庫ファイル
allmgc.tgz に 一次メッシュ区画ごとの磁気異常分布データが収容してある.
このデータ書庫ファイルは,".tgz
" のファイル名拡張子
からわかるように,gzip圧縮を用いた tar形式書庫ファイルであるので,
磁気異常分布データを復元するには,gzip圧縮を解凍するソフトウェアと
tar形式書庫ファイルの復元操作を行うソフトウェア
(いずれもフリーのソフトウェアが広く知られている)を用意する必要がある.
なお,allmgc.tgzファイルの容量は 約97MB あり,それを解凍・復元すると
合計ファイル容量が 約800MB となる.
解凍・復元したときに生成される各区画ごとの磁気異常分布データファイルの
ファイル名の一覧は,allmgclist.htmlファイル にHTML形式で記してある.
(復元すると207個のファイルになるので,復元先として allmgc なるサブディレクトリ
を作成し,その下へ解凍・復元されることを推奨する.)
ファイル名 | 内 容 |
---|---|
openfile0516.html | 表紙ページ HTML |
index.html | ファイル一覧 HTML |
japanese.html | 日本語本文 HTML |
english.html | 英語本文 HTML |
allmgc.tgz | 207のデータファイルをgzip圧縮したtar形式書庫ファイル [97 MB] |
allmgclist.html | 上記書庫ファイルを解凍したときに得られる 207のデータファイルの一覧 |
cm141N.png | 広域区画ごとの磁気異常分布データの概観図 |
cm141.png | |
cm135.png | |
cm129.png | |
cm123.png | |
legend.png | カラー段彩の凡例図 |
.mgc
” である.行 | 内 容 | |
---|---|---|
1 | コメント行 | |
2 | ヘッダー 1行目 | |
3 | ヘッダー 2行目 | |
4~24644 | 磁力値格子点データ | 401×601個の数値データ |
24645 | ヘッダー 1行目 | |
24646 | ヘッダー 2行目 | |
24647~49287 | 高度値格子点データ | 401×601個の数値データ |
呼称 |
位置 |
桁数 |
形式 | 内 容 |
---|---|---|---|---|
(コメント行) | ||||
0 | 4 | A4 | "## " | |
zone | 4 | 8 | A8 | "cm123 ", "cm129 ",
"cm135 ", "cm141 ", または
"cm141N " のいずれか |
(ヘッダー 1行目) | ||||
area | 0 | 8 | A8 | 一次メッシュコード(4桁)+空白4桁 |
nc | 8 | 4 | I4 | 399 (座標展開図法番号). |
- | 12 | 4 | 4X | (空白) |
iorg | 16 | 8 | I8 | 座標展開図法の原点情報,
ispa =ispb =0.iorg , korg は
原点の緯度,経度を分単位で表したもの.(実際には iorg =0 となっている.) |
korg | 24 | 8 | I8 | |
ispa | 32 | 8 | I8 | |
ispb | 40 | 8 | I8 | |
(ヘッダー 2行目) | ||||
ixs | 0 | 12 | I12 | 格子の南西角の北向き(ixs )・
東向き(iys ) の座標値(0.001分単位).上記原点からの相対値である. |
iys | 12 | 12 | I12 | |
mszx | 24 | 6 | I6 | 北方向(mszx )・東方向(mszy )
の格子間隔(0.001分単位).mszx =mszy =100 となっている. |
mszy | 30 | 6 | I6 | |
mx | 36 | 6 | I6 | 北方向(mx )・東方向(my )
の格子点数(両端を含む).mx =401, my =601 となっている. |
my | 42 | 6 | I6 | |
vnul | 48 | 8 | F8.1 | 格子点に有効データが存在しないことを示す特別な値(9999.9). |
本資料集に収録されたデータでどのような磁気異常分布が示されるかの
概況を示すため,そのデータを使って作成した 5つの広域区画ごとの
カラー段彩図を下に示す.
それらには共通のカラースケールを用いてあり,
カラー段彩凡例を右に示してある.