GSJニュースレター No.8  2005.5
統合国際深海掘削計画(IODP)第306次航海参加報告  七山 太 (地質情報研究部門)
ほぼ10年ぶりにジョイデスレゾリューション号のコラボにたち,中国地質大学のFang教授(手前)と共に堆積物記載を行う筆者.本航海において,堆積学研究チームは,日本,アメリカ,イタリア,中国および英国の5ヶ国7名から構成された.

 平成17年3月3日から4月26日にかけて,米国の提供する調査船ジョイデスレゾリューションを用いて統合国際深海掘削計画(IODP)第306次航海が行われた.この航海には,世界各国の参加者に加え,我が国から筆者や共同主席研究員を務めた金松敏也氏(海洋研究開発機構)を含め8名の研究者が参加した.以下にその調査概要を報告する.

 本航海の研究テーマは,“新第三紀末〜第四紀における千年スケールの気候変動-北大西洋海域における氷床・海洋・大気相互作用の解明”である.近年の古海洋学的研究の進展により,北大西洋海域は,北極圏の氷床融解水の流入がひきおこす急激な寒冷化などの,氷床・海洋・大気の相互作用による気候変動に関して重要な役割を果たしてきた海域と考えられている.この海域の研究はこれまでにも多数行われてきたが,その多くは,ピストンコア試料を用いた最終氷期(およそ7〜1万年前)を対象としたものであり,氷床・海洋・大気の相互関係を総括的に論じる為に必要なデータは充分に得られて来たとは言えない.このため,より長い期間(過去数百万年間)を研究対象とし,ダンガード・オシュガードサイクルやボンドサイクルの様な千年単位の短周期変動を調査することにより,氷床・海洋・大気がどのように影響し合い,全地球的な気候変動に関わってきたかを初めて明らかにできると考えられている.本航海では,昨年行われた第303次北大西洋古海洋航海を引き継ぎ,同海域において,さらに古い中期中新世にも達するコア試料をほぼ連続的に採取した. 今回は気象条件の関係で予定していたグリーンランド沖の掘削はキャンセルとなったが,北大西洋中央〜北部の,それぞれ異なった海氷を由来とする砕屑物(IRD)が分布する3地点の海域で,海底下約250〜300mまでAPC(高精度ピストンコアラー)を用いた採泥を行った.いずれの掘削地点でも欠損無く連続的にコア試料を回収するために,同一地点で複数のホールが掘られ,平常時の2〜3倍のコア試料が採集され,船上での分析作業や記載作業は多忙を極めた.航海後,これらの採取試料を用いて古地磁気層序やナンノ化石や浮遊生有孔虫等の生層序を用いた堆積物の年代測定,酸素・炭素同位体を従来以上に高分解能かつ長期間にわたり分析が行われる予定となっている.さらに,これによって得られる多数の年代値を基に,短周期・長周期の気候変動を各種プロキシーに基づいて詳細に解析し,北大西洋海域で氷床・海洋・大気のそれぞれがどの様に関わりあって全地球規模の気候変動に影響を及ぼしてきたのかを解明できることが可能となるであろう.

 航海の終盤においては,ノルウェー西方沖において掘削孔を用い地層の温度をモニタリングするためのCORK (Circulation Obviation Retrofit Kit)の設置を行った. このCORKを用いて,地層中にゆっくりとしみ込んだ海水の温度を調べることにより,千年オーダーで氷床融解水を起源とする深層流の温度がどのように変動したかを解明することができる.

 なお,第306次航海の状況は,下記のウエッブサイトで公開されている.
http://iodp.tamu.edu/publicinfo/gallery/exp306/

 ところで,IODPとは,海洋科学掘削船を用いて深海底を掘削することにより,地球環境変動の解明,地震発生メカニズムの解明及び地殻内生命の探求等を目的として研究を行う国際研究協力プロジェクトの略称であり,2003年10月1日より我が国と米国によって開始された.その後,欧州12カ国で構成される欧州海洋研究掘削コンソーシアム(ECORD)と中国が参加し,国際的な推進体制が構築されつつある.IODPでは,現在我が国で建造している地球深部探査船「ちきゅう」のほか,米国が提供する科学掘削船,欧州が提供する特定任務掘削船(MSP)の複数の掘削船を用い,科学目標を達成するため戦略的かつ効果的に研究を行うこととされている.我が産総研地質情報研究部門並びに地圏資源環境研究部門は,日本側のIODP事務局であるJ-Deskに加盟し,現在も多くの人的役割を担っている.

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(独)産業技術総合研究所地質調査総合センター
GeologicalSurvey of Japan,AIST