GSJニュースレター No.7  2005.4
福岡県西方沖地震と今後の地震活動  堀川 晴央・遠田 晋次(活断層研究センター)
 2005年3月20日に発生した福岡県西方沖地震は,通常の地震活動も低く,また,これまでのところ活断層の存在も知られていないところを震源域とする,いわば「不意討ち」のように発生した地震である.福岡県西方沖地震の震源域の近辺では,福岡市内に存在する警固(けご)断層などの活断層が知られている.

 地震発生に伴う応力変化は,弾性体の食い違い理論で精度よく記述され,大地震発生後に引き続く地震活動の評価法として,Mohr-Coulombの破壊条件や,岩石実験により経験的に得られた摩擦構成則(摩擦の性質を記述する方程式群)を元にしたものが提唱されている.この理論的な枠組みにより大地震発生後の地震活動の変化を説明する試みは成功を収め,大地震発生後の周辺地域の大地震発生予測も行われている.このような予測から危険とされる断層の周辺で集中的に防災あるいは減災対策を進めれば,地震被害の発生をより効率的に抑えられると期待される.本稿では,福岡県西方沖地震に伴う応力変化の解析結果,特に警固断層に与える影響について紹介する.

 図1に,Mohr-Coulombの破壊条件に基づいた応力変化(ΔCFF)の分布を示す.筑紫平野では地震が起こりにくくなる一方で,博多湾や福岡平野では地震が起こりやすくなると予想される.実際,博多湾では,これまでになかった活発な地震活動が見られ,予測と一致している.図で番号がふられた主な活断層のうち,警固断層での応力は地震発生を促す方向で変化している.その大きさは0.1 MPaのオーダー,最大0.25 MPaほどである.

 この数字の意味を,地震で解放される応力と,その応力が毎年蓄積される量との比較で考えてみる.警固断層のように内陸型の地震により解放される応力は10 MPa程度である.また,この断層における地震の発生間隔は,正確にはわかっていないが1万年程度と考えられる.したがって,地震と地震の間で蓄積される応力は,平均0.001MPa/年となる.これを福岡県西方沖地震で加わった応力変化と比べると,福岡県西方沖地震による応力変化は,100年ほどで蓄積される応力に相当すると概算され,この分だけ地震発生が早くなったと考えられる.人間の時間の尺度で考えると,2世代後で発生すると考えられる地震が,今の世代で発生する勘定になる.建物の耐用年数も,人間の世代と同程度の時間スケールであるから,警固断層で発生する直下型地震への防災対策を急ぐ必要があるかもしれない.より正確に議論するためには,警固断層の活動間隔と,最新活動からの経過時間を知る必要がある.より詳しいことは,活断層研究センターの福岡県西方沖地震に関するホームページ(http://unit.aist.or.go.jp/actfault/fukuoka/index.html)を参照していただきたい.
図1
 
福岡県西方沖地震による応力変化.赤いところでは応力が増加し,地震活動が活発になることが予想される。青いところでは,応力が減少し,地震活動が抑制されることが予想される.
/ Pege Top ↑ / Contents / GSJ ホーム /
GSJニュースレター No.7 2005.4
(独)産業技術総合研究所地質調査総合センター
GeologicalSurvey of Japan,AIST