GSJニュースレター No.5  2005.2
津波に関する緊急セミナー報告  大久保 泰邦(地質調査情報センター)・渡辺 真人 (地質情報研究部門)
 2005年1月31日〜2月1日,タイのバンコクにおいて「タイおよび近隣国においていかにして津波対策を立てるか」をテーマに緊急セミナーが20カ国,約500名が参加して開催された.

 開会式では,タクシン首相が,タイにインド洋の津波早期警戒システムセンターを置きたいと提案していることや各国への協力要請について話され(写真1),資源環境大臣からは,被害状況についての説明および今後必要な研究についての話がなされた.

 一般向け講演では,活断層研究センター佐竹健治氏がスマトラ地震と津波の全体像について報告し,過去の地震・津波の履歴の研究の重要性を指摘した(写真2).また,DMR(タイ鉱物資源局)局長がDMRによる被害調査の概要を報告するともに,今後海水の地下水への影響,建物の破壊状況,地すべり・陥没の危険性などをマッピングしたいと述べた.Pacific Tsunami Warning Center(PTWC)のDr. McCreeryはPTWCのシステムを紹介し,インド洋で津波警報を出すためには水位計の数を大幅に増やす必要があることを指摘した(現在10数地点にしか設置されていない).次に佐竹氏が気象庁に代わり日本の津波警報システムを紹介し,東南海地震の発生の際に想定される津波の予測を例としてリスクアセスメントの重要性について述べた.また,津波・地震に対する住民の防災意識を高めることが被害の軽減に効果的で,そのためには博物館の設置,避難訓練の実施などが必要であると提言した.引き続いて英国,ドイツ,オランダの地質調査所の講演が行われ,ハザードマップを作りリスクアセスメントをきちんと行うことの重要性が指摘された.

 ポスターセッションでは,参加各国から津波・自然災害に関する研究を紹介したポスターが出展された.産総研からは活断層研究センターの岡村行信氏と宍倉正展氏が津波堆積物に関する研究成果を発表した(写真3).

 技術講演では各国地質調査所の講演が行われた.インドネシアからは住民の防災意識が低いこと,地方政府の防災体制が不備であったことが報告された.マレーシアからは地下水の汚染と石灰岩地帯の陥没について報告があった.次に佐竹氏により環太平洋における歴史津波・地質時代の津波に関する研究の紹介があった.その後,ヨーロッパ各国からの講演があった.

 「津波被災国に対する提言」をテーマとしたパネルディスカッションでは,地震津波は広域に及ぶ災害であり対策には国際協力が重要なこと,警戒システム,インド洋周辺の過去の地震・津波に関する研究が必要であること,一般市民に対する教育・啓発が大きく被害を減らすこと,被災国で地震・津波の研究者を養成すべきであること,などが提言された.

 Business meetingでは被災国から緊急の調査や長期的な技術移転の要請がなされ,日本やヨーロッパ各国からは技術協力の提案が行なわれた.日本は在タイ日本大使館薄井参事官が日本および被災国において専門家によるトレーニングコースを行うことを提案し,JICAからも地震・津波に関する専門家派遣を行う計画であることの報告があった.

写真1 開会式でのタクシン・タイ首相の講演.
写真2 活断層研究センター佐竹健治氏の講演.
写真3 ポスターセッション.説明を行う活断層研究センター岡村行信氏.
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GSJニュースレター No.5 2005.2
(独)産業技術総合研究所地質調査総合センター
GeologicalSurvey of Japan,AIST