地質標本館2007年野外観察会の報告
目代 邦康(地質標本館)
2007年度春の特別展「つくばの自然再発見,フィールドに行こう!」の一環として,5月27日に筑波台地周辺で野外観察会を行いました.案内を,地形学を専門とされている池田 宏さん(元筑波大学)にお願いしました.この野外観察会のテーマは,「地球を見る目をつくばで磨こう」で,4月21日に行われた池田さんによる普及講演会「つくばの地形環境」の内容と連動するものでした.私たちが普段目にしている地形からどのようなことがわかるのかということを,つくば市をフィールドにして,池田さんに語っていただきました.見学ポイントでは,ご自身がつくられたポスターや手持ちのホワイトボードに描かれたスケッチなどを用いられて,力のこもった解説をしていただきました(写真1).参加者は,地質標本館スタッフ5名を含む31名でした.
最初に,筑波山が山麓まで一望できる場所で,筑波山の生い立ちや,地形の変化についての話を聞きました.そこから筑波山中腹の梅園に移動し,筑波山山体を構成する花崗岩の露頭や,山麓斜面上にみられる斑れい岩(筑波石)の巨礫を観察しました.そこで,数万〜数十万年以上にわたる,筑波山の広い裾野の形成過程について話を聞き,筑波山の地形についての理解を深めました.そこから,桜川の河原に移動し,かつて鬼怒川が流れていた証拠の礫を観察しました.
平沢官衙遺跡で昼食を取りながら,どうしてこの場所に倉庫が作られたのかとういことを当時の人たちの暮らしに思いをはせながら,地形や気象・水文条件から考えました.昼食後は,北条から小和田にかけての集落を,そこに住む人々の暮らしと自然環境との関わりを感じながら歩きました.途中,清水坪の岩田さんの庭(写真2)に入らさせてもらい,直接いろいろな話を聞かせていただきました.きっと古代から,穏やかな暮らしが送れる場所だったのだという印象を参加者の皆さんは感じられたと思います.そこで,時間となり,標本館へ戻り解散となりました.
案内者の池田さんの解説は,地形・地質にとどまらず,生物や気象・水文現象やそこに住む人々の暮らしにまで及んでいました.その地域の多様な情報と,独自の観察,考察によって,参加者のみなさんは,地域を多面的に理解することの面白さを感じることができたと思います.また,地形学を専門とされる池田さんの解説と,地質標本館のスタッフによる地質の解説とがうまく結びついたことも,参加者の方の理解を深めるのに役に立ったと思います.参加された方には,後日,アンケートにお答えいただきました.そのなかに,「つくばの土地柄に今までとは違った印象を持つようになりました」,「今まで地形の成り立ちについて深く考えたことはありませんでしたが,その仕組みを説明されるとなるほどと思うことが多数ありました.現在の姿もこれからも変わっていくものかと思い,新鮮な感覚が体験できました.」といった回答をいただきました.地域の自然をまるごと見る「フィールドワーク」の楽しさ感じていただけたと思っています.また,「風景を見て何かを感じることが,その成り立ちを知るきっかけになる」という回答をいただきました.これは,今回の春の特別展の最大のテーマでした.今回の特別展のように,つくばの自然といったテーマを,「展示」と「講演会」と「野外観察会」という様々な角度から見せることによって,市民の方へ情報と感動が伝わっていくのだということを感じました.
独立行政法人産業技術総合研究所
地質調査総合センター