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産総研つくばセンター平成19年度一般公開報告
物理探査で地下の宝探し?! 産総研つくばセンター一般公開出展記
内田 利弘・神宮司 元治・中島 善人・西澤 修・光畑 祐司・横田 俊之・上田 匠(地圏資源環境研究部門)
写真1 金属探知器の原理の説明(手前)と宝探しゲーム.
写真2 地中レーダの説明.
写真3 液状化実験の水槽をたたく小学生.
写真4 ブースを訪れたつくば市長.
物理探査研究グループでは,2007年度の産総研つくばセンター一般公開(7月21日)において初めての積極的な出展を行った.小・中学生にとって「物理探査」という用語は全く馴染みが無く,また,実際の物理探査の計測は普通,野外で行うものなので,5月中旬に出展の要請を受けたときは,どのような内容の展示を行えばいいか迷った.子供たちに「物理探査」を少しでも体験してもらえればいいと考え,誰もが好きな「宝探し」というキーワードを入れて,「物理探査で地下の宝探し?!」というテーマを設定した.出展内容は,実際に子供たちに装置を使ってもらったり,触ってもらったり,データを見てもらったりして現象を理解してもらえるものということで,金属探知器(電磁探査),地中レーダ,液状化実験(電気探査)の3つとした.以下にそれらの展示内容を紹介する.
金属探知機は,空港のセキュリティ検査や警察の捜査などで使われていて一般に馴染み深い.電磁誘導によって金属物が作る二次的な磁場を計測するが,地下構造を調査する電磁探査法でも同じ原理が用いられている.展示では,まず,電磁誘導を説明するため,急ごしらえの回路を作成した.理科実験用の小さなコイルを2個を送信用と受信用に用い,実際に電流を流して,パソコン上のオシロスコープで波形を見る.金属をコイルに近づけると受信コイルの信号が変化することを示した(写真1).次に,ほぼ同様の回路で構成される市販の金属探知機を使って,宝探しゲームを行った.その中に「お宝」として産総研のバッジ(アリスとテレス),コインチョコレート(アルミ箔包装),おもちゃの小判,そして,はずれ用のDVDを隠した.探知機でそれらを探してもらい,探り当てたものから1つを掘り出して,お土産として持って帰ってもらった.子供たちは皆真剣に探知器を操り,掘り出した「お宝」を嬉しそうに持ち帰ってくれた(中には,産総研バッジはもう持っているからいらない,という元気な子供もいた).一緒に参加された親からは,回路の説明が実際の電磁探査とは違うのではないかという鋭い質問も寄せられた.野外で使う探査装置も横に展示していたので,それを紹介して納得してもらった.非常に盛況であったため,急遽「お宝を買い足すこととなり,最終的に約270名人がゲームに参加した.
地中レーダの展示では,金魚水槽を水道水で満たし,異常体を模擬した魚の模型(ペットボトル製)を沈めて実験を行った.異常体が外から見えるようにするため,砂や土のかわりに,水を使うことにした.深さ十センチメートルまでを対象とする高周波のレーダ・アンテナは私たちの研究では使わないので,今回の展示のためにレンタルした.水中に発信した電波が魚から反射してくる様子をパソコン上で示した(写真2).地中レーダを室内で使うのは難しく,当初,展示ブースのアルミ製支柱からの強い反射波がノイズとなってしまった.配置と測定の設定を調整して,何とか魚からの反射波のみを表示することができた.参加者(親)には専門の近い方やエジプト・ピラミッドのレーダ調査に詳しい方もいて,地中レーダの色々な適用分野について情報交換の場となった.
私たちのグループでは地盤の液状化の状況を物理探査(電気探査)でモニタリングする研究を行っている.今回の展示では研究の中で製作した実験水槽を用いて液状化の紹介を行った.水槽に砂(豊浦砂)を詰め,ポンプで水を循環させて注水と排水を制御することによって,砂と水の攪拌,水中での堆積,陸地化,地震・液状化のサイクルを巧妙に模擬できるようになっている.子供たちには,陸地化した砂に建物の模型を置いてもらい,地震を起こすため水槽の側面を木槌でたたいてもらった(写真3).液状化が起こって砂の表面に水が噴出し,建物が倒れる瞬間には,誰もが「ウォー」という声を上げて感動してくれた.陸地化したときの砂の堅さと,液状化後の砂の柔らかさを実際に手で触って実感してもらい,少しの条件の違いで砂が大きく性質を変えるころを理解してもらった.また,液状化に伴う砂の比抵抗の変化を測定し,液状化が深い所で始まり地表に伝搬する様子を紹介した.1つのサイクルに15分程度の時間を要した.排水して陸地化するのに時間がかかるため,その合間に液状化の現象や危険性の説明を行った.参加者は間断なく訪れたため,公開時間中,途切れることなくサイクルを繰り返すことになった.
初めての出展で3つの出し物を同時に行ったため,7名のグループ全員がほとんど休む間もなく参加者の対応を行うこととなった.参加者にわかりやすいように「物理探査:の文字入りTシャツ(緑色)を作成し全員で着用して説明を行った.予想を大きく超える沢山の子供たちがブースを訪れ,物理探査の一端を体験してくれたことは,大変有意義であったと思う(写真4).展示物の準備や当日の説明にいおいていくつかの課題が見つかった.次の機会があるならばそれらを改善できればいいと思う.今回の手作りの展示の準備と運営はグループの若いメンバーの創意工夫によるものであり,彼らの努力に感謝したい.
(写真は末永俊明氏撮影)
産総研一般公開「地盤による地震の揺れの違いを見てみよう」の報告
行谷 佑一・堀川 晴央・加瀬 祐子・吉見 雅行・吉田 邦一・杉山 雄一・国府田 眞奈美・藤野 滋弘(活断層研究センター)
写真1 実験装置.
写真2 実験の様子.
活断層研究センターでは,産総研一般公開のD会場チャレンジコーナーに「地盤による地震の揺れ方の違いを見てみよう」を出展した.これは,震源から等距離に位置する場所でも下の地盤が軟らかければ硬い地盤よりも強くゆれることを,実験を通して理解していただくことをねらいとしている.たとえば,1923年大正関東地震においては,皇居東側の大手町付近で周辺に比べ強いゆれがあったことがわかっている(たとえば,『ドキュメント災害史』,2003).これは,大手町付近はもともと日比谷入江を埋め立ててできた土地であり,軟らかい地盤であるために,強く揺れたと考えられる.本展示ではこのことを紹介し,「軟らかい地盤は揺れやすい」ことを,実験と実例紹介によってよりいっそうの理解を深めていただいた.
実験装置のメインである地震計には3成分動コイル式加速度型強震計を用い,それを台車の上に2台設置した.ただし,片方の地震計は台車の上に直接置き,もう片方は台車と地震計の間にスポンジを挟んだ.台車の上に直接置いたのは硬い地盤を模擬しており,スポンジを挟んだのは軟らかい地盤を模擬している.このことにより,台車を水平振動させたとき,すなわち地震を発生させたとき,同じ地震動がこれら2台の地震計に入力され,同じ入力に対する硬い地盤および軟らかい地盤での地震計動の違いを見ることができる.なお,地震計で観測されたデータはアナログ電位信号として出力される.このアナログ信号を12bitADコンバータによりデジタル信号化し,パソコン上に取り入れ,リアルタイムで波形を出力するプログラムを作った.地震計とパソコン,およびADコンバータ以外は,すべて自作品である(写真1).
そして,作成した実験装置が正常に作動し,しかも軟らかい地盤の方が硬い地盤よりも強く揺れることが再現できるかを,一般公開前にテストした.その結果,期待通り軟らかい地盤の方が強く揺れ,かつ長い時間揺れることが確認できた.なお,この実験装置に対してかなり短周期の振動を手で与えたところ,硬い地盤の方が強い揺れになる結果になった.この原因は定かではないが,「軟らかい地盤の非線形応答があらわれたか!?」と,メンバー同士で興じた.
そして迎えた一般公開当日,あいにくの空模様にもかかわらず,多くのお客様にわれわれの展示をご覧頂いた.まずわれわれは,お客様に現象を理解していただこうと,われわれのブースの前で立ち止まったお客様に,台車を揺らしていただいた.お客様が揺らすのと同時に画面上に地震波形が描かれる.これは文章で書いたらあまり面白くないかもしれないが,実際にその場にいると結構楽しいものである.そして,その波形をみて軟らかい地盤の方が硬い地盤よりも強く,長く揺れることを伝えた.また,上記の1923年大正関東地震の例を挙げ,実際の地震でも地盤の種類により揺れ方が異なることを説明した.お客様方は実験と関東地震の実例の説明を受けて,大変納得してくださったようであった.中には,「もうすでに家を購入してしまいました.もっと早くに知りたかった.」とおっしゃるお客様もいらっしゃった.このようにして,単純な実験ではあったが,多くのお客様に地震の揺れ方が地盤により異なることを伝えることができた.なお,一般公開の5日前である16日に京都府沖で発生した深発地震(深さ370km)の異常震域について質問されるお客様が多く,みなさまの地震への関心の高さに驚かされた.
最後に,われわれの展示を行うにあたり,広報部の方々に大変お世話になりました.ここに記して感謝いたします.ありがとうございました.
地質標本館特別展「三宅島火山−その魅力と噴火の教訓−」と
特別講演会「火山噴火に備えて−2000年三宅島噴火を体験して−」
目代 邦康・谷田部 信郎・青木 正博(地質標本館)
写真 講演される宮下加奈さん.
地質標本館では,産総研一般公開日の7月21日より,夏の特別展「三宅島火山−その魅力と噴火の教訓−」を開始しました.この展示は,地質標本館と全国火山系博物館連絡協議会,ネットワーク三宅島により企画され,昨年夏から磐梯山噴火記念館,阿蘇火山博物館,伊豆大島火山博物館,立山カルデラ砂防博物館を経て,今回地質標本館で開催の運びとなりました.
この特別展では,三宅島の生い立ち,2000年6月噴火による災害の様子や災害復旧の過程,そして三宅島以外の活火山の情報にいたるまで,分かりやすく紹介したポスターを展示しています.また,大判の空中写真や地質図,立体地形モデルも展示し,三宅島の地形,地質について詳しく知ることができます.一般公開日には,多くの来館者がこれらの展示物を熱心にご覧になっていました.
この特別展に関連して,産総研一般公開日には,共用講堂で特別講演会を実施いたしました.始めに富樫茂子地質情報研究部門長より,三宅島噴火後の地質調査総合センターでの調査研究活動について簡単な紹介がありました.その後,ネットワーク三宅島代表の宮下加奈さんに,「火山噴火に備えて−2000年三宅島噴火を体験して−」というタイトルで講演いただきました.5年にもわたる避難生活の中で,三宅島住民が災害による困難をどのようにして乗り越えて来たのかということを,ご自身の経験を織り交ぜながら,島民の視点でご紹介いただきました.
日本人にとって,自然災害ととどのように向き合っていくべきかは,非常に重要な問題です.しかし,平穏な生活の中ではそのことを忘れがちです.この講演を拝聴して,地球科学の研究者が持つ情報と,被災者が持つ経験を,適切に組み合わせて情報発信することにより,より多くの方に自然災害に対する関心を深めて頂けるであろうということを感じました.
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