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産総研における大陸棚画定調査への取り組み
西村 昭・湯浅 真人(地質情報研究部門)


図:海洋法条約による大陸棚の定義
大陸縁辺部外縁線の決め方は,大陸斜面脚部から60海里まで,あるいは堆積岩厚の脚部からの距離に対する比率1%までとなっています.日本海周辺海域では,図のような簡単な地形断面図のところはないので,大陸斜面脚部の決定にも地形学・地質学的検討が重要です.


 産総研の地質調査総合センターでは,我が国の大陸棚画定調査に参加し,関係省庁・関係機関と協力しています.大陸棚画定調査とは,海洋法に関する国際連合条約(United Nations Convention on the Law of the Sea, 以下では海洋法条約)の規定に基づいて,我が国の大陸棚の外側境界を拡大するための必要データを得て,平成21年(2009年)5月の期限までに日本の大陸棚画定の申請書の作成・提出へ向けて行われているものです.内閣官房大陸棚調査対策室の総合調整の下,関係省庁が連携し,平成16年度から調査体制を強化して政府一体になって進めています.

 大陸棚画定調査で用いられる「大陸棚」は地形学や地質学で用いられる大陸棚とは異なる概念として,海洋法条約第76条に規定されているものです.その定義は,「沿岸国の大陸棚とは,当該沿岸国の領海を越える海面下の区域の海底及びその下であってその領土の自然延長をたどって大陸縁辺部の外縁に至るまでのもの又は,大陸縁辺部の外縁が領海の幅を測定するための基線から200海里の距離まで延びていない場合には,当該沿岸国の領海を越える海面下の区域の海底及びその下であって当該基線から200海里の距離までのものをいう.」となっており,その決定方法も条約に記述されています.「領土の自然延長」など条約に規定される外縁決定の基準の適用や選択に,地形・地質などの地球科学的なデータが根拠となりまます.大陸棚と認められれば,我が国の場合,200海里の排他的経済水域(海底及び上部水域の天然資源の探査開発保全管理に関する主導権を有する)の外側に,海底及び海底下の天然資源の開発,探査する権利を持つことが可能になります.大陸棚画定調査は,科学的資料に基づき,国の権益を得られる範囲を設定する,歴史上希有な機会です.科学調査が非常にわかりやすい形で国益と直結し,将来にわたって国民に及ぼす重大問題に対し,地球科学研究に携わる研究機関として,関連した科学データ・解釈の提起や国民や社会の期待に応えていくために研究調査,とりまとめ作業を行っています.

 具体的な取り組みとして産総研では,関連調査・研究,ならびに申請書作成に向けて,地質情報研究部門と地圏資源環境研究部門のメンバーで大陸棚プロジェクトチームを構成し,地質情報研究部門の重点プロジェクトとして,以下の3項目を実施しています.

1.国の大陸棚画定調査の内,基盤岩採取の産総研分担域の海域調査,及び同海域のデータ整備
 平成17年度に八丈島沖から襟裳沖海域の30日間の調査航海を実施しました.同海域で平成19年度にも調査航海を予定しています.
2.基盤岩採取に関する試資料の分析・解析及び海域地質データの整備
 経済産業省資源エネルギー庁が実施している海域の調査で採取した基盤岩の年代測定や微量成分分析等による岩石の形成過程や成因の解明を行います.
3.国連に提出する大陸棚限界情報(申請書)作成への貢献
 関係機関や省庁の研究者による国連提出情報素案の作成を行っている部会へ平成17年(2005年)1月の部会発足以来参加し,調査データの集積・解釈,申請書へのとりまとめを行っています.

 調査データの集積や解釈,ならびにとりまとめは,他の実施機関である海上保安庁海洋情報部,海洋研究開発機構,石油天然ガス・金属鉱物資源機構等,と協力し,また,作業を一体で進めています.

 以上のほか,プロジェクトの活動としては,海外にすでに申請した国の情報の収集や学会での関連調査結果の成果発表や大陸棚画定問題の普及活動も進めています.

 平成21年(2009年)5月までに新生しなければならないという限られた時間内での調査・研究,ならびに関連活動ですが,是非皆様の理解や協力を得て,日本国民の利益になる結果を残したいと考えています.





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