GSJニュースレター NO.19 2006/4

中越地震災害調査結果報告会〜川口町の地盤と災害〜報告

小松原 琢・宮地 良典・中澤 努(地質情報研究部門)・吉見 雅行(活断層研究センター)

写真1:口頭発表に対して,核心をついた質問が寄せられました.

写真2:ポスター展示と意見交流のひとこま.


 新潟県北魚沼群川口町は,一昨年秋の中越地震で大きな被害を受けました.この人口6000人弱の町は,震度7という,阪神・淡路大震災以来の激しい揺れによって,家屋倒壊・地すべり・地盤液状化など,火災と津波を除くあらゆる種類の地震災害に襲われました.私たちは震災直後からここまで地盤と災害状況を調べてきました.未だ調査の途上ではありますが,川口町のご後援をいただいて去る3月25日に防災科学技術研究所・新潟大学と共同で一般の方を対象とする標記の報告会を開催いたしました.報告会には当初の予定を上回る約150名の町民その他の方にご参加いただきました.そのご報告をいたします.

 報告会は,第1部口頭発表,第2部ポスター展示と意見交換,および第3部懇親会という3部構成で行いました.口頭発表では,地球科学の目からみた川口町における震災の全体像を俯瞰することを意図して,(1)川口町を襲った地震動の特徴(吉見雅行:産総研活断層研究センター), (2)中越地震による災害−川口町を中心として−(卜部厚志:新潟大学積雪地域災害研究センター), (3)川口町の地盤の違いによる揺れやすさ分布について(先名重樹:防災科学技術研究所防災基盤科学技術研究部門), (4)川口町麦山地区の地質と建物被害の関係(宮地良典:産総研地質情報研究部門), (5)中越地震による地すべり発生斜面と地すべり地形(井口 隆・内山庄一郎:防災科学技術研究所総合防災研究部門),の5つの報告をいたしました.参加者の方から,時に鋭い質問が寄せられました.

 ポスター展示と意見交換では,上記5報告に関連するものだけでなく,地震の概要や中越地震被災地域全域の調査結果など全部で10数点のポスターと地形模型などを展示しました.ここでは,住民の方々に具体的・個別的な説明を行うと同時に,災害研究に対する要望や批判を聞く機会としたいと思っておりました.実際,参加者のほとんどの方が積極的に調査担当者と話し合っていらっしゃいました.災害研究は行政の役に立っていないという批判もなされていたようです.

 懇親会は,被災地を単なる研究対象地域としてではなく,血の通った災害研究のあり方を考えるきっかけを得る場として,住民と調査員が直接・対等に永く交流できる関係を取り結ぶことを意図したものでした.結果的にこのようなややこしい意図を乗り越えて交流が進んだことに,懇親会の裏方として働いてきた私は望外の幸せを感じました.

 震災によって突然家族を失われ,心癒えない方もいらっしゃるであろう川口町において,このような報告会を開くことに,ある種の恐れがなかったかと言えば,それは嘘になります.懇親会に最後までお付き合いくださった方から,「実は家族を亡くしてしまったが,川口の地盤は脆くとも,それゆえに豊かな環境を作り出し,そこに自然と折り合って人が暮らしてきた歴史があるとういう話を聞いて,来て良かったと思った」という言葉を頂き,安心した次第です.

 災害地学研究という極めて人間くさい研究分野では,被災地の方々(あるいは自分も含めた被災者予備軍)の視点にたつ研究テーマ設定が多々求められます.報告会で頂いた貴重な意見を,どのように自分の研究の中で活かしていくか,私達の姿勢と力量が問われることになっていくのではないでしょうか.

 末筆となりますが,震災からの復興が順調に進むことを祈っております.





/↑up / Contents / ニュースレターTop / GSJホーム /

独立行政法人産業技術総合研究所
地質調査総合センター